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第一章 これは恋じゃない
14話 罠
しおりを挟む数日後、舞花先輩から動物園に行かないかと誘われた。ご飯やショッピングはしょっちゅう行ってるけど、それ以外の場所は初めてで不思議に思いつつも了承する。何で舞花先輩はいきなり動物園なんて言い出したのか、その理由は当日、動物園に着いてからわかった。
電話しながら舞花先輩を探していたら、舞花先輩の他に2人そばにいるのが見えた。男性?1人は足立くんだとして、彼氏のいない私を憐れんで誰かを紹介してくれようとしてくれてるのか。
「お待たせしまし……え?」
「おはよー若葉ちゃん」
くるっとこっちを見たのは紛れもなく吉川くんで、舞花先輩の優しさを今日だけは恨んだ。
「やっぱ帰ります」
「ちょちょ、若葉ちゃん!」
背を向けた私の腕を舞花先輩が掴んで引っ張る。
「若葉ちゃん、とわくんと何があったの?」
「何もないです。何かあっちゃいけないんです」
せっかく私が止まろうとしてるのに。吉川くんは何で来たんだろう……。私がいること知ってたのかな……。
「とわくんが私に頼んできたんだよ。若葉ちゃんに避けられてるからって。大丈夫、とわくん良い人だから」
「知ってますそんなの!」
つい声が大きくなる。私の声に舞花先輩がびっくりしてる。申し訳ない。私だって驚いてる。
「めんどくせー奴だな」
「足立」
ズバッと刺してくる足立くんを、吉川くんが咎める。それから吉川くんは私の方に来て、手を掴んだ。近い距離に、鼓動が速くなる。吉川くんは屈んで、私に耳打ちをした。
「今日1日で気持ち変わらなかったら諦める。だから、お願い」
吉川くんの言葉にバッと顔を上げる。吉川くんの耳が赤くて、私の顔が熱くなった。吉川くんの気持ちが全然わかんない。からかってるだけ?ううん、そんな人じゃない。じゃあ、本当に……?でも何で私に?答えられずにいると、吉川くんがふふっと笑う。
「行こう」
手を引っ張られて、私たちは動物園に入った。動物園とか小学校の遠足以来かも。これって、デート……だよね?
「見て見て孝作!オランウータン!」
「見てるって。はしゃぎすぎだろ。子供か」
舞花先輩が足立くんの手を引っ張ってどんどん先に行く。追いかけてもまた置いてかれるだろうし、そもそももう大人だから私はゆっくり行くことにした。吉川くんも同じ考えみたいで、隣を歩いてる。気まずい。
「吉川くんっ、SNSにあげる写真撮りましょうか?」
芸能人はみんなそうしてると思って提案すると、吉川くんが笑う。
「外でサングラスとマスク同時にしてたら不審者でしょ」
「あ、そっか。でもスタンプで顔隠したり出来ますよ」
頷きそうになったけど、スタンプで隠したりしないのかな?私が言うと、吉川くんが私に顔を近づける。心臓に悪い。
「今好きな人と来てるから撮らない。一緒に撮るなら欲しいけど」
ボンッと私の頭が爆発する音が聞こえた気がした。慌てて吉川くんから顔を逸らして逃げる。
「すすす好きって……」
「本当だよ。多分、高校の時から」
え……。吉川くんと話したことは数えるくらいしかないし、それ以外で目が合ったことなんてない。驚いて振り向くと、吉川くんが赤らめた頬を指で掻く。
「気づくのが遅すぎたけど。だから、再会して宮坂さんだって気づいた時柄にもなく運命だと思った」
「え……」
それって、最初から気づいてたってこと……?衝撃すぎて、空いた口が塞がらない。
「何で……」
「最初は噂を知って気になったんだけど、気づいたら目で追いかけてた。後から宮坂さんのことを知って後悔したよ」
何度誰かに告白してもらっても、相変わらず自分に自信はなくて。吉川くんが私を気にしてくれてる可能性なんて考えもしなかった。あの頃の自分は浅はかで、いっぱいいっぱいだったけど……今と違う未来もあったのだろうか。けど、
「全部過去のことです」
今の吉川くんはアーティストだから。高校の頃がどうであれ、関係ない。私は距離を取るようにスタスタと歩く。歩いて、ふと私は足を止めた。うさぎのふれあい広場……。気になる、けど予約なしでは入れないだろう。それに、吉川くんといる時に何かを望むのも恥ずかしい。私はくるっと方向転換して歩き出そうとした。
「待って」
吉川くんが私の手を掴んで、広場の係員さんに声をかける。ほんの一瞬目を奪われただけなのに、気づかれた……?
「今空いてるからいいって」
ふんわりと笑う吉川くんにドキッとする。私のために聞いてくれたのだとわかってる。
「ありがとう」
「どういたしまして。入ろ」
吉川くんが手を引っ張って、ふれあい広場の柵を開ける。茶色い毛の可愛いうさぎが、私の方を見た。
「可愛い……」
「可愛いね」
思わず口を押さえる私に、吉川くんが笑う。ベンチに座ってうさぎを眺めていると、吉川くんが躊躇うことなくうさぎを抱き上げた。
「え」
「触る?ふわふわだよ」
ふわふわ、って。その言い方が可愛くてずるい。私は恐る恐るうさぎに手を伸ばす。ふんわりとした、だけど少しチクッとするような毛並みに、今触れてることを実感して感動する。
「可愛い」
「ねっ、初めて触った」
吉川くんの言葉に頷くと、吉川くんがくすりと笑う。
「宮坂さんのことだよ」
「っ、」
完全にうさぎに気を取られてたから、びっくりして心臓が止まりかけた。吉川くんは何てことのないかのように、うさぎの体を撫でている。吉川くんは、案外危険人物かもしれない。
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