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本編
二人暮らし 1
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言葉がわかるのはなぜかとヒューは聞いた。その答えは見つからず、お互い首をかしげるだけで終わる。
文字でも通じるかお互いの名前を書いてみたが、全くわからなかった。
「幸多とはこのような字を書くんだね」
「ヒューさん、こちらの文字も教えてください……」
「もちろん。食事も服も、心配いらない。いくらでも家にいてくれて良いよ」
俺はこう見えても結構稼いでいるからね、と御子神 幸多と書かれた紙を嬉しそうになぞりながら言った。
「それに、俺のことをさん付けで呼ぶ人なんていないからヒューでいいよ」
「……え、っと、わかりました」
そんなやりとりの後、ご飯の用意をするからとヒューは部屋を出て行った。
一緒にご飯を食べ、勉強をし、別々に眠る二人暮らしが始まった。
体調も回復し、少しだけ文字を覚えた一ヶ月。お互いのぎこちなさは大分減ったように思う。
何もしないことに罪悪感を覚え始めた幸多は、家事を手伝うようになった。とは言え、物が少なくほとんどが魔法で動いているため調理器具に材料を入れることくらいしかやることがなかった。
勉強ではふと気になり、紙やペンは新しく購入したのかと聞く。するとヒューは紙を持ち、実践しながら教えてくれた。
紙は数種類を一枚ずつ購入し、魔力に物を言わせて複製したらしい。ペンも同じく。
何度も買いに行くのは億劫で、有り余っているなら力を使ってしまえ、となった。幸多が来る前に増やして置いておいたものなので、代金はいらないと言う。
「本当に良いんですか?」
「俺の場合、一晩寝たら魔力は回復するからねぇ」
複製できるし気にしなくて良いんだよ、なんて困った顔で呟いていた。
二ヶ月目には、ヒューが数回依頼をこなしに出かけていった。自分も外の世界を知るべきかとヒューに相談したが、幸多はモテるし攫われてしまってどんな扱いを受けるかわからないと言う。
毎日毎日「可愛い」と言われ、イケメンに言われても……とやさぐれていた幸多は事細かにどういった見た目が好感を持たれて、不細工とはどんな見た目なのかを説明されて動揺した。
(僕が美人……? 可愛い? 本当に……?)
衝撃の事実である。まだ信じ切れていないが、無理矢理にでも納得しておく。家からは出ない。わかりました。
自分の、受けが悪いであろう箇所をいくつも思いだし無表情になる幸多であった。
そして三ヶ月、四ヶ月と過ぎ、寒さも和らいで暖かくなってきた頃。
「ねぇ、ヒュー。褒めてもらえるのは嬉しいけれど、そういうことは好きな人に言った方が良いですよ?」
「幸多のことは好きだし、付き合いたいと思っているよ。でも、俺なんて嫌だろう?」
「え……と、そんなことは……」
「本当は、もっと砕けて話して、甘えてくれたらと思っているんだ」
幸多の顔は好みらしい。男同士で…というのは少し戸惑うが、今更かもしれない。聞いてしまったら意識してしまう。
なんだかんだ、あれから一度も手を出されていない。
正直、家から出ない生活は苦痛ではない。娯楽はなくとも今は勉強だけで時間が過ぎてしまう。
ずっとこの世界にいるなら、少しだけ、ヒューの隣にいてもいいかななんて幸多は思った。
文字でも通じるかお互いの名前を書いてみたが、全くわからなかった。
「幸多とはこのような字を書くんだね」
「ヒューさん、こちらの文字も教えてください……」
「もちろん。食事も服も、心配いらない。いくらでも家にいてくれて良いよ」
俺はこう見えても結構稼いでいるからね、と御子神 幸多と書かれた紙を嬉しそうになぞりながら言った。
「それに、俺のことをさん付けで呼ぶ人なんていないからヒューでいいよ」
「……え、っと、わかりました」
そんなやりとりの後、ご飯の用意をするからとヒューは部屋を出て行った。
一緒にご飯を食べ、勉強をし、別々に眠る二人暮らしが始まった。
体調も回復し、少しだけ文字を覚えた一ヶ月。お互いのぎこちなさは大分減ったように思う。
何もしないことに罪悪感を覚え始めた幸多は、家事を手伝うようになった。とは言え、物が少なくほとんどが魔法で動いているため調理器具に材料を入れることくらいしかやることがなかった。
勉強ではふと気になり、紙やペンは新しく購入したのかと聞く。するとヒューは紙を持ち、実践しながら教えてくれた。
紙は数種類を一枚ずつ購入し、魔力に物を言わせて複製したらしい。ペンも同じく。
何度も買いに行くのは億劫で、有り余っているなら力を使ってしまえ、となった。幸多が来る前に増やして置いておいたものなので、代金はいらないと言う。
「本当に良いんですか?」
「俺の場合、一晩寝たら魔力は回復するからねぇ」
複製できるし気にしなくて良いんだよ、なんて困った顔で呟いていた。
二ヶ月目には、ヒューが数回依頼をこなしに出かけていった。自分も外の世界を知るべきかとヒューに相談したが、幸多はモテるし攫われてしまってどんな扱いを受けるかわからないと言う。
毎日毎日「可愛い」と言われ、イケメンに言われても……とやさぐれていた幸多は事細かにどういった見た目が好感を持たれて、不細工とはどんな見た目なのかを説明されて動揺した。
(僕が美人……? 可愛い? 本当に……?)
衝撃の事実である。まだ信じ切れていないが、無理矢理にでも納得しておく。家からは出ない。わかりました。
自分の、受けが悪いであろう箇所をいくつも思いだし無表情になる幸多であった。
そして三ヶ月、四ヶ月と過ぎ、寒さも和らいで暖かくなってきた頃。
「ねぇ、ヒュー。褒めてもらえるのは嬉しいけれど、そういうことは好きな人に言った方が良いですよ?」
「幸多のことは好きだし、付き合いたいと思っているよ。でも、俺なんて嫌だろう?」
「え……と、そんなことは……」
「本当は、もっと砕けて話して、甘えてくれたらと思っているんだ」
幸多の顔は好みらしい。男同士で…というのは少し戸惑うが、今更かもしれない。聞いてしまったら意識してしまう。
なんだかんだ、あれから一度も手を出されていない。
正直、家から出ない生活は苦痛ではない。娯楽はなくとも今は勉強だけで時間が過ぎてしまう。
ずっとこの世界にいるなら、少しだけ、ヒューの隣にいてもいいかななんて幸多は思った。
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