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第一章
3 徒歩
しおりを挟む「し、死ぬ…… 本気で 死ねる」
"すぐ近くの街"と、確かディケーネは、そう言ったはずだ。
確かに言った。
しかし、歩き出してからすでに半日近く、約五時間程歩き続けているが、今だに街らしい物は見えてこない。
すでに勇一の足は、悲鳴を上げ始めている。
そんな勇一の横では、自分の体と同じくらいの大きさのある革製の背負い袋を背負ったディケーネが涼しい顔で歩き続けている。
――最初はあんなに楽しかったのに……
二人でダーヴェの街に向かうこと決めた後
「少し待っていてくれ」
そう言ってからディケーネは、ゴブリンの死体に近づいていった。
そして、おもむろにゴブリンの死体の口にナイフを突っ込み、ゴリゴリと牙を取り始めた。
若干引き気味の勇一が、何をしているのかと聞く。
「魔物の牙を冒険者ギルドに持っていくと、褒賞金がでるからな」
なるほど。そんなシステムがあるのか。
と、勇一は納得はする。
納得はしたのだが、それにしても、金髪の美女が人型の死体の口にナイフを突っ込むその姿は、なかなかにワイルドな光景だった。
それから改めて二人でダーヴィの街を目指し出発する。
森を少し歩くと、けっこうすぐに街道に出た。
街道は土がむき出しで舗装されてはいないものの、歩く分には問題ない。
また、街道沿いは定期的に魔物狩りを行う為、襲われる危険も殆ど無いらしい。
気候は時折ふいてくる風が冷たく感じる程度で、さほど寒くない。
ダウンを着ていると暑すぎるくらいなので、脱いで腕に持つ。
鳥のさえずりが何処からか聞こえてきて、時々頬をなでる冷たい風が気持ちいいくらいだ。。
森の中の道を、美人のディケーネと並んで歩く。
気分はもう完全にピクニックだった。
最近色々あったせいで若干コミュ障ぎみになっていて、人とまともに話すのも久しぶりの勇一だ。
だが、質問さえすれば、ディケーネが少々口調は若干ぶっきらぼうだが、親切に色々と教えてくれる為、さほど会話に困ることもない。
「ここってどこなんですか?」
「ここは、ダーヴァの街の東にある"静かの森"だな」
「いや、うん、なんていうか、もうちょっと大きなスケールで教えてくれるかな。どこの国とか大陸とか、この世界の名前もあったら教えてくださいませんか?」
「国? ここはダ・ルシア大陸の端にあるアルフォニア王国だ。世界の名前と言うのは何のことかよくわからんな。世界は世界だろう。」
やはり、ここは元の世界ではない、完全な別世界であるらしい。
それならば、それで、また違う興味がわいてくる。
「魔法って使えるんでしょうか?」
前の世界でまじめに聞こうものなら、特殊な病院を薦められそうな台詞だ。
同級生の女の子相手に、こんな事を聞けば、ドン引きして、さらに次の日からクラスで悪い噂の的になること間違いなしだ。
だが、ディケーネはさらりと答えてくれる。
「私は使えない。だが、魔法を使う『魔法使い』は、数は多くないが街にいけばいるぞ」
やっぱり、魔法使えるのか!
その回答を聞いて勇一のテンションが上がる。
さっき、回復薬や魔法具を見たばかりだから、魔法はあるだろうとは思っていたが、やはりその存在が確定となると一段階テンションがあがってしまう。
男だったら、いや女性でも、魔法と聞いて誰でもテンションが上がらないはずが無い。
更に、詳しく色々と聞いてみる。
魔法は、いくつかの系統にわかれていて、代表的なものは火、水、風、土の四大魔法だそうだ。
それ以外にも、召還魔法や精霊魔法、いまでは禁忌となっている死霊魔法なんてものもあるらしい。
魔法を実行するときは、決められた呪文を唱えることによって、その魔術を発揮するとの事だ。
ぜひ、見てみたい。いや、できることならば使ってみたい。
そう思った勇一は試しに、口の中で
『ファイヤーボール』とか『ファイラ』とか『メラ』とか『ハリト』とか、色々と呟いてみる。
もちろん、何の反応もない。
横からディケーネに『何を言ってるんだ、お前は』的な冷たい目で見られるだけの結果に終わった。
さすがにこんな適当な呪文ってことはないか。
勇一は、気を取り直して質問をする。
「魔法使えるようになるには、どうすればいいんでしょうか?」
「だいたい十歳くらいから、魔法使いの弟子になって数年間修行して魔法使いになる。
貴族や金持ちの子息なら、魔法学校へ行くと言う手もあるな」
やっぱり、修行が必要なのか。
異世界にきただけで、とんでもない魔法がバンバン使えるなんて都合のいい話は無いようだ。
ちょっと残念に思ったが、まあ、仕方ないとあっさりと諦める。
『魔法』と聞いて、テンションが上がったのは事実だが、それは世間一般の男子高校生レベルの話でしかない。
実は勇一はドラグーンクエストシリーズも、ファイナルアンサーファンタジーシリーズも、代表的な作品を1~2個やった事があるくらいで、本当のマニアとか言うわけでもない。
最近ネットで流行中のVRMMORPGも、やっていない。
『魔法』にたいして格別な思い入れがある程でも無いのだった。
とりあえず、すぐには使えそうに無い魔法に、無理にこだわっても仕方ない。
若干、話しはそれるが、この世界では10歳くらいから、おおまかに人生を決まるようだ。
魔法使いを目指すなら、十歳で魔法使いへ弟子入り。
剣士や武術家を目指すなら、道場へ入門。
商人を目指すなら、商人へ弟子入り。
貴族や金持ちの子息は、各種学校へ入学。
国民の大半をしめる農民は、本格的に農業を手伝いを始めるらしい。
そして十五歳からは、完全に一人の大人として扱われるとの事だ。
「十五歳から大人扱いか… そういえば、ディケーネさんって年齢はおいくつなんですか?」
「私は、今年で十七だ」
「え?!おなじ年?!」
落ち着いていて、大人びているので、てっきり年上だと思っていた。
だが、高校二年生で十七歳の、勇一と同じ年だ。
「ほう、ユーイチは、同じ年齢だったのか」
むこうも若干、意外そうだ。
うん、これは、やはり、たぶん、まあ、年下に見られていたのだろう。
「そうか、同じ年か。それなら、なおさらなんだが、さっきから妙な畏まった口調で話しかけてきているが、そんな気を使う必要ないぞ。もっと普通に話してくれ」
「じゃあ、遠慮なく。ざっくばらんに話させてもらうことにするよ」
その後も、世界の成り立ちや、世界情勢、ダンジョンについてなどについても説明をしてもらう。
話の内容は興味深く、しかも講師役は、金髪の美女だ。
人生でこれほど真剣に人の話を聞いたことは、無いというくらい真面目に聞いた。
学校の授業もこれくらい、真面目にきけばかなり優秀な成績を収められただろうと思うくらいだ。
だが、それも四時間を過ぎたあたりから、苦痛になってきた。
部活をやっていた頃は毎日走りこんでいたし、これくらい平気だったかもしれない。
訳あって部活動を止めてから約半年間、基本的には登下校以外は体を動かしていない。
体育の授業も適当に流していた。
休日は休日で、部屋にこもってゲームばかりやっている。
最近は体重も4kg程増えていたし、完全に運動不足で、体は鈍りきっていた。
その状態で、いきなり四時間の徒歩はかなりきつい。
話しをしてくれる彼女の言葉が、昔流行ったギャグのように右から左へとながれていく。
勇一の口数はへり、質問そのものが減っていく。
疲れていた。
ただ、純粋に勇一は疲れていた。
異世界に来たからと言って体力や、特殊な対術を得ることもないらしい。
途中で、少し試してみたが特別走るのが速くなった訳でも、高くジャンプできる訳でもない。
体力も、前の世界と一緒だ。
普通に歩いているだけで疲れる。
「体力そのまま、ステータス変更とか無し! 魔法も使えなきゃ、ボーナスポイントとかも無いのかよ!
せめて特殊能力のひとつくらい選ばせてくれよ!」
思わず、見えない何かに向かって、突っ込みを入れてしまった。
もちろん、どこからか天の声が返事してくれることもない。
横から、またもディケーネに『何を言ってるんだ、お前は』的な冷たい目で見られてしまっただけだった。
更に歩きつづけ、とうとう、ひざに手をついて足を止めてしまう。
ハアハアと荒い息を吐く。
喉もカラカラに乾いていて、張り付くような痛みを感じる。
その様子にディケーネが気づいた。
「ユーイチは、ひょっとして飲み物も持っていないのか?」
勇一は、喉がかわきすぎて返事すらできない。
なんとか首をコクコクと縦にふる。
「ほら、これを飲め。街も近いし全部飲んでしまっていいぞ」
背負い袋にぶら下げていた革でできた袋状の水筒を取り外して、差し出してくれる。
勇一は水筒を受け取り、かすれた声で礼を言ってから、一気にグイっと口に含む。
ブフォッ?!!
その液体を口に含んだ瞬間、思わず勢い良く噴出してしまった。
ぬめりとした、口当たりの悪い生ぬるい液体。
口中に広がるのすっぱさと、苦味と、アルコール臭。
たぶん水筒の革のものが浸み込こんだであろう渋み。
それらが、えも言われぬ不味さのハーモニーを醸し出していた。
「こ…これは?! 水じゃなくて アルコール?! っていうか、ビールだ!」
「おいおい、何を吐き出してるんだ。もったいない」
「すまん。本当すまん。いや、でも、まさかビールだとは思ってなかったから」
「ビール? ああ、お前の地方ではエールの事ビールと言うのか。
お前の地方では違うのかも知れんが、こっちでは何日も移動したりダンジョンに篭ったりする冒険者は、すぐ駄目になる生水じゃなくて、エールを持ち歩くのが常識だぞ」
そういえば、中世のヨーロッパなどは水事情が悪くて、腐りやすい生水のかわりにエールを常飲していたと聞いたことがある。綺麗な水が豊富にあって、水を保存する必要性の無い日本にいると解りづらいけど、生水はけっこう簡単に腐る物なのだ。
いや、今は正確には『水の代わりにエール』と言うことが問題なのではない。
それよりも何よりも、ぶっちゃけ不味いのが問題なのだ。
生ぬるくて、すっぱさと苦味とアルコール臭と革の渋みとが奏でるハーモニーは、まさに不味さの宝石箱だ。
それでも、現実問題として、喉が渇いていて死にそうだった。
飲まないと耐えられない。
そのうえ、ディケーネから貰ったものだ。飲まない訳にはいかないだろう。
考えてみたら、この水筒をディケーネも使っているはずだ。
と、言うことは間接キスの可能性も非常に高い。
もう、これは男として飲まずにはいられようか、いや、いられない。
我慢して口に含む。
あまりの不味さに、顔が歪む。それでも無理して飲む込む。
「そんなに顔をゆがめる程、口に合わなかったか。まあ、我慢しろ。街にいけば水はある。
もうあと少しでダーヴァの街につくから、がんばって歩け」
ディケーネは、そう言ってくれる。
だが"もうあと少し"と言う、その言葉は素直には信じられない。
結局
その後、更に一時間程歩き、合計約六時間かけて、やっとダーヴェの街にたどりついた。
もう、すでに日はゆっくりと傾き始めていた。
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