見ているだけだった俺の転生生活は終了しました・これからは動ける地蔵みたいですっ!!

錬寧想 リンロ

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『こんな人生でも期待はある』

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 人は今世のことしか考えていない人がほとんどだ」────────────────と俺は思う。
 
 だから彼らは今世の自分を満たすために、他人の心なんて一切考えもせずに何だってできるのだろう。

 だけど死後の世界があることを信じている俺は死んだ後でそういう俺が嫌だった人達と同じ場所に行きたくないから、なるべくその人達と同じようなことをしないように自分の周りにはできる限りで優しくすることを心がけこれまで生きてきたつもりだ。
 善を尽くせば報われるなどというどこの誰かの言葉もあるが、今の俺の人生には全くもって通用しない言葉だった。
 今世その挙動不審からよく陰口を言われやすい人見知り、人並み以下の能無しコミュ障の俺には「な~んか頑張ってるねぇ~」「優しいんだねっ」くらいの称号を得られるのがせいぜい。どう足掻あがいた所で俺の人生は幸せとは無縁むえんなのだ。


 
 まぁそれは彼の現在を見てもらえれば分かるだろう────────────────────



 「キャアアアアーーーーーーーーーーッッ!!!!」


 たまたまそこを通りかかっただけの無関係な通行人(50代女性A)が、被害を受けている本人よりも被害者面ひがいしゃヅラを見せてヒステリックな悲鳴を上げた。



 その理由である出来事が起きたのはほんの少し前のこと───────────────────

 ◇平日の早朝、天気は曇り。中肉中背・黒髪さらさらナチュラルストレート・青のパーカーと黒のズボン姿に仕事の物と自分の物とがごちゃ混ぜに詰め込まれたクリーム色のエコバッグを右肩に掛けた彼は、いつも通り歩いてアルバイトに向かおうとしていた。

 その最中だった。彼の渡ろうとしていた橋の向こうから突如ゴリラとトラのキメラのような見たこともない生物が姿を現したのである。
 長い睫毛まつげ二重瞼ふたえまぶたをぱっちり開けて物珍しそうに見ていた彼と目が合うや否や、それは真っ先に彼のことを目掛け勢いよく襲いかかってきた。
 咄嗟とっさの機転で彼は橋の欄干らんかんに身を寄せて攻撃の回避と謎の生物の落下を狙い、そして見事謎の生物を橋の下の川へと落下させることに成功させたのだった◇

 ※{後のことではあるがその謎の生物は、捕まった近所に住む住人が違法輸入した新種のUMAだったらしい}

 
 そして今は、ゲームのような緊急回避を見せた彼が横たわったままで沈黙を貫いていたところ。

 女の悲鳴に反応した彼が眉間にシワを寄せ目を開く。

 (くッッッッッそッッ!!!!!)

 せっかくこのままやられたこと自覚しねぇようにしてたのに…………自覚させるなよっ!!

 内心何故か珍しく暴言を吐いた彼が自覚しないようにしていたこと。それは、横たわる彼の場所を軸にゆっくりとコンクリートが赤く染まり始めていたことが示していた。
 どうやら先程の緊急回避の際運悪くも彼は、ギリギリの所で避けきれず【鋭い爪の生えた虎柄の毛深い手】によって腹に一発ドラミングを決められてしまっていたようだった。

 「かッ───ゴふァッッ!!」

 彼の口から空気ともに多量の血が勢いよく吐き出される────
 
 今朝トマトジュース飲んでミートスパゲティでも食べときゃ………今出てるこれもそれだとごまかせただろうに。
 にしても血ってこんな出るもんなんだな……過去最高記録だ。なんか、家の水道ぶっ壊れて水止まんなくなった時みたいだな………。

 見るのが慣れていたからか自身の血を見ても一切の動揺を見せる様子がなかった彼だったが、次の瞬間訪れたあまり慣れていないこと対してすぐに平静を崩し始める。
 
 ────────────────────────

 だんだんと呼吸がしずらくなる────
 
 思うように身体の中に空気が取り込めないことで呼吸の仕方を忘れたと錯覚し、それが恐くてどんどん心拍数が上がっていく────

 早く鳴る自分の心臓の音はまるで死に向かって走っていく足音かのようで、今意識がとべばもう二度とこの世には戻って来られない。そう確信させられた。

 気がつくと俺は、無意識に目をかっ開き全身に力を入れて意識を保とうとしていた。
 同時に不思議と頭がよく回り、考えることくらいしか自由が利かなかった俺は色々と考えた。

 自分の周りの人達に何か迷惑かかるようなことを残していないか。人に見られて恥ずいものを残していないか。誰かとしていた約束を残していないか。何かの支払いを残したままにしていないか。お礼言い忘れたこと、謝り忘れたことはないか。

 浮かべば浮かんだ分だけ罪悪感が増した。今日こうなるなんて分かってなかったんだからそりゃ全部残るわな………。日頃の自分のだらしなさが身に染みる…………。
    
 それから次に彼は自分のことを振り返った。
 
 結局最近は自分がこの先変わっていける未来が見えないままだったけど、もっと前は妄想の中に希望なんてものも入れてたっけな。

 もし好きだった人と一緒にいることが出来ていたら、俺はその人を世界一幸せにするために頑張れる人間になれていたのだろうか…………。

 もし追いかけていた夢を叶えられていたら、もう少し自分に自信を持って堂々とすることができただろうか…………。

 考えたことは全て自分が死ぬことを前提としたことばかり────
 
 でも正直、いずれこの状況に立たされるのだとしたら今の自分が一番心強いだろう。
 俺は今人生で初めて自分を、他人がなりたい人生ランキング圏外・彼女・友達無し人並み以下の能無しコミュ障26歳【岬取みさきとりタナロウ】で良かったと思えている。
 その人生でしかできない心の変え方が考えの変え方があったおかげで俺は、今こんな状況でもこんな気持ちでいられているのだから。

 目を開いたままのタナロウの視界がゆっくりと黒いモヤで閉ざされていく。
 間際タナロウの口元が綻んだように見えたのは、その一瞬彼の恐怖心を彼の高揚感こうようかんが上回ったからだった。 
  

 「……き……たい……して……んのはっ……こっ……から……だ………………」

 
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