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6 幼馴染との再会
しおりを挟む「シルヴィア、と、兄さん?なんでいっしょに」
ギアンがシルヴィアの名を呼び捨てにした途端、バルトの顔色がサッと変わった。
「ギアン、女性を…しかも、殿下の婚約者を呼び捨てにするなんて何を考えている!」
「殿下の婚約者?」
首を傾げたギアンだったが、あぁ、と頷いた。
「そうだ、だから名前聞いたことがあるんだった。なんだよシルヴィア、隠さなかったら良いのに」
明るく笑うバルトにホッと息をつく。もしもう会わないと言われたらどうしよう、なんていう杞憂はなくなった。
「ギアン!!」
「うるさいな…。別にただの友人なんだからいいだろ」
「そういう問題じゃないだろう!っ…シルヴィア嬢、貴女もだ!婚約者がいる身でありながら、他の男と二人で会うなど!殿下に知れたら命が危ないぞ!!!」
そんな訳がないのに、とシルヴィアはくすりと笑った。だって殿下は、ヒロインと結ばれる運命なのだから。
お互いそういう仲にならないという認識は彼も同じだろう。けれど、婚約を解消した後の身の振り方をいずれ考えなければいけないのは事実だ。このまま家族に守られて生きていくのではなく、友人や知人をたくさん作ってコネも作らなければならない。そのためを第一歩を彼で踏み出した。
「大丈夫よ、殿下はそこまで私に興味などないわ」
そう言うと、バルトがそれはそれは間抜けな顔をした。なんだろう、馬鹿にされている気がするのは。
「そうだって。いくら王子サマでも、婚約者の命なんか取らねーって!」
「命を取られるのはお前だよ馬鹿!!!」
「「え?なんで??」」
二人して首を傾げてみれば、バルトは泣きそうな顔をして盛大なため息をつく。
「貴女たち、本当は馬鹿なんですね、よく分かりました」
「ちょっと失礼じゃない?」
「もう俺は知らん。俺は何も見なかった。いいか、俺はもう帰るが、絶対に変なことだけはしてくれるなよ!!!」
「しねーよ」
「しないわよ」
そうしてバルトは悲壮な顔をして帰っていった訳だが。
「よし、温室の方に移動するか。って言ってもここのすぐ隣なんだけどな」
温室、という言葉に驚く。この世界にも温室なるものがあったのか。
「そこで花を育てているの?」
「あぁ。教授が俺のために作ってくれたんだ」
「す、すごいわね」
温室を、しかも大学の敷地内作れるなんて。それってすごいことじゃないの?
そんなことを考えながらついて行くと、ビニールを張った温室が確かにあった。へぇ、造りは一緒なのか。
勧められるがままに仲に入ると、むわっとした空気が伝わってくる。懐かしいこの感じに、なんだか泣きたくなった。
「花だけじゃなくて、一応植物全般を研究しているんだ」
「へぇ…ここには何が?」
「主には南の国から輸入した植物だな。何故か野菜もあるが、それは教授のいたずらだから気にしなくていい」
「そうなの。少しだけ見ていい?あ、触らないから」
幼馴染に口酸っぱく言われたことだ。育てている途中のものを素人が触るな。植物はお前と違って繊細なんだから、簡単に枯れてしまう、と。あれはだいぶ私を馬鹿にしていたと思うが、今となっては本当にその通りだと思った。
「あぁ、いいぞ。花は基本そっち側にある」
右を指差したギアンが、あ、と言う。
「この手前のが、俺が遺伝子改良ーーじゃない、ええと、作った花だ」
「……遺伝子改良」
「こっちにその言葉ないの忘れてた。気にすんな」
ちょっと待て。思えばなんだかおかしいところは多々あった。この世界に染まらない雰囲気も、ところどころ出てくる言葉も。
「…ねぇ」
「なんだ?」
「私、コスモスの花が、見たいの」
「……この世界にコスモスなんかあったか?」
あぁ、やっぱり。この人は。
「コスモスは、私が前世で大好きだった、花の名前よ」
そう言った途端、彼の目が大きく開かれる。こんなにも沢山要素があったのに。顔は違っても話し方や表情は、こんなにもそっくりではないか。
「お前、まさか、花苗…?」
「やっぱり、涼太なのね」
あぁ、こんなところで会えるなんて。懐かしさを胸に、彼に抱き付こうとした時だった。
「この、アホがああああああああ!!!!!!」
「ぎゃあっ!!?」
頭に鉄拳を食らわされた。
何故。
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