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「ゼノと婚約したと聞いたが本当なのか」
「えぇ」
にっこりと笑うと、アランが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「お前、分かっているのか?あの馬鹿にはあの馬鹿な子爵令嬢が…」
「だから、よ」
そこまで言うと、後は言わずもがな。エリーアの考えに気付いたアランは、更に難しそうな顔をする。
「父上から言われた。お前と会う頻度を減らせと」
「そうね、もう私は第三王子殿下の婚約者だもの」
「そんな事をしても兄上の気を引けるのは一瞬だぞ」
その言葉に、グッと喉が重くなる。そんなことは分かっている。ジューク様はニーナ様が好きで、私のことは良くて友人、悪くて知人。そんな関係。
「…分かっているわ、そんなことは」
分かっていても、好きなのだ。どうしようもない程に惹かれてしまったのだ。
「ーー後悔するぞ」
「後悔なんて」
今に始まったことじゃないでしょう?
そう言って笑みを深くしたエリーアだったが、その表情はどう見ても泣きそうな顔だったことに、本人は気付いていない。
ゼノとエリーアの婚約は社交界ではもっぱらの話題となってしまった。
ずっと婚約を断り続けたあのエリーアが婚約した相手がまさかの馬鹿王子。しかも歳下で子爵令嬢に入れ込んでいるような憐れな男と婚約。
そんなことならどうして断ったと過去に婚約の申し入れを断られた男は憤慨し、女子からの信望を厚く集めていた為、あのエリーアが他国の王子でもアラン王子でもなく、王族である事しか取り柄のない馬鹿王子と婚約したことを悲観していた。
だがさすがというか何というか、しばらくもして収まるかと思った話題は収まるどころか、更に膨れ上がっている。それはひとえに、一人の少女の仕業であった。
「貴女はお人好しね、オルヴィア」
「戯れを。それで、エリーア?そろそろ真面に顔すらも合わさなかった第三王子と婚約した訳を聞かせてくれないかしら」
私にはどうにも貴女が血迷ったようにしか見えないの、とその綺麗な笑顔の割に毒のある言葉を吐くのは、オルヴィア・カーサラス。エリーアの家であるソヴェルト公爵家に次ぐ公爵家の長女であり、エリーアとは幼馴染の親友だ。
「話が膨れて飽きた話題をまだ口にするのはどうせ貴女の仕業でしょう?」
「そうね。貴女にはその方が都合が良いと思ったのだけれど」
違った? と微笑むオルヴィアは別に婚約した訳など分かりきっているのだろう。その上で、血迷ったかと聞いているのだ。
「それならせめてアラン殿下と婚約した方がマシだったのではなくて?」
「駄目よ」
そんな下心の打算に大切な友人を巻き込むわけにはいかない。
「…子爵令嬢に入れ込む歳下王子と婚約なんて、どう考えても貴女がおかしくなったとしか思えないわ」
それに公爵もそうよ、とオルヴィアがかちゃりとティーカップをテーブルに乗せる。
「いくら貴女の婚約に焦っているからと云って、あの第三王子を婚約者候補に挙げるなど」
「そうかしら。願ってもいない条件でなくて?嫡男のいない我が公爵家に婿養子に入ってくれるのは精々伯爵家の次男坊」
「貴女とソヴェルト公爵家相手なら同格の公爵家だって名乗りを上げるわよ」
「オルヴィアは私を買いかぶりすぎよ」
私はそこまで価値のある人間ではない。伯爵家相手ですら妥当かどうか疑問なところだ。
「貴女は自分を卑下しすぎだと思うけれど」
「私はいつでも自分に合った自信を持っているわよ」
「そうかしら」
「…まぁ、仮にも王子だもの。我が家には私の代で王族の血を引いた子が生まれ、王家との関係もより一層強固なものとなる。良い事でしょう?」
「だからせめて」
「アランとは友人のままでいたいの」
お互いに秘めた想いを共有する、世界にたった一人だけの友人として、この先も。
「…貴女こそが彼の方と共になると、誰もが思っていたのに」
「……ジューク様とニーナ様はお似合いよ。エルステル公爵家のご令嬢ですもの、私が敵うわけもないし、そもそも張り合おうなんて考える方が馬鹿よ」
そう。張り合おうなんて考えない。けれども醜く打算して、少しでも側にいようとするのは、もう仕方のない事だからこの際目を瞑って欲しい。
そんなことを考えて、エリーアはすっかり冷めてしまった茶を一口啜った。
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