本気になられても困ります。

yukiya

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 ゼノと婚約者になって数日。さすがに会いに行かないのは不味いので城に足を運ぶが、特に話すことなどある訳もなく。
 いつも通りカップに注がれた紅茶を飲み終わったら帰ろうとカップを持ち上げたとき、それまでずっと机に向かって何やら書いていたゼノが声をかけてきた。
「帰るのか」
「…これを飲み終われば、そうしようと思っていましたけれど」
 まさか声をかけられるなんてという驚きと、帰るタイミングを悟られたことへの驚きが相まってエリーアはゼノの方を見た。
「……なにか?」
「…お前は歳下の男に興味が無いと言ったな」
 突然なんだと思えば、そんなこと。
「えぇ。全くありませんわね」
「ならどうして私と婚約した」
 嘘など許されないと、その瞳を見て何となく思った。何と無くだけれど、彼は人を見る目があるのだろうと思う。
「……一つは家の為ですわね。貴方が婿養子に来てくだされば我が公爵家は安泰ですから」
「それだけじゃないだろう」
「…婚約者が決まらず、父が焦った結果でもありますわね」
「まだあるだろう」
 睨まれているわけではないのにこんなにも心地が悪いのは、やはり後ろめたいからか。
「……貴方が私を愛することはないでしょうから、私も貴方を愛さなくていいと、様々な打算を考えた結果でもあります」
「打算、ね」
 「だってそうでしょう?」とエリーアが尋ねると、ゼノが「なにが?」と聞き返してくる。
「貴方はあのーー子爵令嬢の、リオラ?とかいう少女を愛して、」
「あぁ。リオラなら別れたな」
「……はい?」
 別れたとはどういう事だろう。
「あの女は面倒だ。折角婚約等という話にならないように子爵令嬢に手を出したのに、自分と一緒になれと迫って来たからな」
「ーーは?」
「私は結婚したくない。どうせするなら愛のない結婚がいい。だからお前にも言った、愛することはないと。だがどうやら利害は一致のようだからな」
 にっと口の端を上げたゼノにこの男は誰だと頭を抱えそうになる。いや、本当に誰だ。愚か者の王子ではなかったか。
 しかもこちらを見ながらも手だけは動かしている。
「…なにを書かれているのです?」
「私に与えられた責務に決まっている。将来公爵位に就くのだからこのくらいは出来ぬとな」
 当たり前に言ってのけるゼノに少しだけ感心したのは秘密だ。

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