婚約破棄された王女が全力で喜びましたが、何か問題でも?

yukiya

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10,夢なら覚めないで。

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 宰相ともなれば専用の執務室がある。何故か私はそこに連れて来られ、椅子に座らされていた。
「どうぞ」
「え、あ、ありがとう…」
 前ならここに入ることすら出来なかったのに。いつもお姉様だけが出入りして、羨ましくて仕方なかった。
「とても…殺風景なのですね」
「そうですか?まぁ、執務室ですから…」
 意外だな、なんて思った。フェロンに与えられた部屋には何度か遊びに行ったことがあるけれど、もっとごちゃごちゃしていた。それなのに変に居心地が良くて、いつも入り浸っていたっけ。
「…あの、ですね、宰相様」
「これからはモランとお呼び下さい。晴れて婚約者となれたのですから」
「いや、いや…婚約者って、何を言って」
「ーー国王のご命令ですから、逆らったり出来ないことはお分かりのはずです」
「いえあの、宰相様?よく考えてください、私との婚約ってこんなに馬鹿げたことありますか?」
「名前でお呼び下さい。…いつも私を好いていると言ってきていたあの言葉はからかっていただけだと?」
「そうじゃなくて、」
「なら問題ないでしょう」
「そういうことじゃなくて」
 なんと言えば伝わるのか。とにかく未だに状況が理解出来ていないのだ。
「…あんな若造に貴女を幸せに出来るのなら、私の方が幸せに出来るに決まっている」
「はい?」
「大体何ですか。帰ってくるなり私に飛びつくかと思って腕を広げて待っていたのに、報告だけしてさっさと部屋に戻って」
「さ、宰相様?」
「名前で呼んでください。というか私が振り向くまで諦めないとか言ってたのはどこのどなたですか」
「ご、ごめんなさい?」
 謝ってしまったけれど、これは私が悪いの?というか。
「あの、婚約って困ります」
「どうしてですか」
「だってフェロンのプロポーズに了承したばかりで…」
「そんなもの断って下さい」
「はい!?」
 なんだか私の知っている宰相様と違う気がする。というか確実に違う。いつも無表情で、いやこれは変わらないか。淡々として、顔を背けて話していたのに、物凄く目が合っている。
「大体何ですか。二十も年上の男と結婚なんて貴女は絶対に我に返った時に後悔すると思ったから、それでも私は貴女が欲しくて仕方なかったからちゃんと愛情を確かめようとカマをかけたのに、貴女は簡単に頷いてファントムに行くし」
「え?」
「そのくせようやく帰って来たと思ったら今度は他の男と結婚するとか言い出すし、何なんですか。私を振り回して楽しいですか」
「振り回してなんか…」
「まぁどうせもう逃したりしませんけどね」
 腕を引っ張られソファーに押し倒される、その一連の動作があまりにも自然で、気が付いた時には口を塞がれていた。
「ん、んーーーっ!?」
「…暴れないで」
 耳元で囁かれ、ピタリと動きを止めた途端、腕を押さえ付けられる。
「さ、い、しょう、さま」
「…好きですよ、ずっと貴女が。もしも貴女がまだあの若造と結婚すると言うのなら、あの男を貴女の目の前で殺したいくらい、貴女が愛しい…っ」
 なんで、どうして。
「だめ、まって…!」
「嫌だ待たない。待ち続けた結果、結局何も良いことなんてなかったじゃないか」
 好きな女性に他の男と結婚すると言われた時の気持ちが分かるか、と耳元で問われる。
「わ、かんな、い、」
 身体にビリビリと衝撃が走る。重苦しい空気が肺に入って来る。
「…ずっとこうしたかった、愛しい貴女に。…二十も下の女にこんなにも惹かれるなんて、これも全部貴女のせいだ」
「ん、ぁ」
 キスなんて数えるほどしかしたことない。それなのに慣れた仕草で舌が口腔に侵入してくる。何とも言えない快感が全身を震わせる。
「貴女が、好きだ……もう一度、私のことを見てくれないか…」
 消え入るような声に、返事をしたくても喉の奥から声が出ない。
 けれど。まるで夢のようだった。ずっと、もうずっと前から好きだった人が、自分を好きだと言ってくれている。
(夢なら、覚めないで)
 そんなことを考えながら、エルステーネは目の前にある温もりにしがみ付いた。
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