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■第一章 出逢ってしまう運命
●第1話
【side ジェイミー】
カゴいっぱいに果物を乗せて、森の中をスキップする。上機嫌も上機嫌だ。
「結界も張ったし、果物も採ったし、万事順調!」
欲を言えば、結界を張り終えた記念に肉か魚が食べたかったけれど、果物だって立派な食糧だ。
ご飯にありつけるだけでもありがたい。
それに果物はお腹には溜まらないけれど、甘くて美味しい。
甘くて美味しいものが食べられるのだから、それで十分だ。
「今回は欲張らずに慎ましく生きるって決めたんだもの。大事なのは、足るを知ることよ」
一人で暮らすうちにすっかり癖になってしまった独り言を呟きながら、家路を急ぐ。
「今日は採れたての果物をこのまま食べて、残りはドライフルーツにしようかしら。あとは罠用のエサにする分も残しておかないと……」
ここで、私の上機嫌は終わりを迎えた。
地面に続く血痕と人間の足跡が目に入ったからだ。
「なんでこんなところに」
私は即座に木の陰に隠れ、懐から杖を取り出した。
この血が、狩りに来た人間が仕留めた動物の血だった場合は問題ないけれど、危険なのはその逆だ。
人間に大量出血をさせるような猛獣が近くにいる可能性がある。
果物の入ったカゴを地面に置き、慎重に血痕を辿ってみる。
本当はこの場から逃げた方が良いのだろうけれど、これが人間の血だった場合、何もしないでいたら救える命を見捨てることになる。
血痕を辿っていくと、崖下に辿り着いた。どうやらこの血の主は、崖から落ちたらしい。
「……ということは、怪我をしたままここから歩き始めて、あっちへ向かったのね」
私はごくりと喉を鳴らし、元来た道を戻って行った。
この血痕の先にいるのは、獲物を狩った人間か、猛獣に怪我をさせられた人間か。
杖を握る手に力が入った。
「怪我をしたのは人間の方だったのね」
そうしてやって来た血痕の先には、服を赤く染めて倒れている人物がいた。体格からして男だろう。
「これは……猛獣につけられた傷じゃないわね」
一目見て分かった。彼の身体には、猛獣のものと思われる爪の痕が一つも無かったのだ。その代わりに、剣によって出来たのだろう大きな傷があり、そこから血が溢れていた。
彼に近付いて脈があるかを調べると、辛うじて生きてはいるようだった。しかし意識は無いようで、私に腕を掴まれても何の反応も示さなかった。
「……とりあえず家に運ばないと。このままだと血の匂いで、それこそ猛獣がやって来るわ」
応急処置として簡単な止血魔法を掛けてから、運ぶために男に浮遊魔法を掛ける。
すると、今まで髪で隠れていた彼の顔が明らかになり……。
「今回も、会ってしまうのね」
倒れていたのは、私のよく知る男だった。
過去の私と、三度出会い、三度恋をし、すべての人生で不幸になった男。
この国の第一王子である、ルーベン・ヴァノワだ。
* * *
森の中にある簡素な家の簡素なベッドに、ルーベンを寝かせる。
高貴な彼には、この家もこのベッドも、ものすごく不釣り合いだ。
「治癒魔法を掛けたから命に別状はないけれど、血を失い過ぎたわね」
彼の負った傷はかなり深く、さらに崖から落ちたことで骨折もしていた。この状態で森を移動したのだから、彼の胆力はすさまじい。
それにしても。
「これまでの人生でルーベンがこんな怪我を負ったことはなかったのに。今回はどうして?」
謎の現象に首を捻っていると、ふとあることに思い至った。
私は今回の人生で、これまでとは決定的に違うことを行なったのだ。それは。
「今の時期に私が森に結界を張ったから、ルーベンが襲われたの……?」
これまでの人生との違いは、そこだ。しかしどうしてそれがルーベンの暗殺未遂に繋がるのだろう。
私は一つずつ、順序立てて思い出してみることにした。
これまでの三度の人生で、森からやって来た魔物が町を襲うことを知っていた私は、今回は前もって森の中に結界を張った。これにより、魔物が森を抜けて町へ行くことが出来なくなった。
「結界とルーベンに何の関係が……?」
そこではたと気付く。
「もしかしてルーベンは……今回だけではなく、これまでも暗殺を計画されていた?」
しかしこれまでは暗殺が遂行される前に、暗殺者が町に現れた魔物に襲われて暗殺計画が中止になっていた可能性がある。
ところが今回、私が森の中に結界を張ったことで、魔物が暗殺者を襲わなかった。
そして魔物の襲撃に遭わなかった暗殺者は、予定通りにルーベンの暗殺を行なったのではないだろうか。
もしそうなら、辻褄が合ってしまう。
「ということは……この怪我は、私のせいよね」
怪我の治療が済んだらさっさとルーベンを王城の近くにでも置いてこようかと思っていたけれど、自分のせいで怪我をした人間を雑に扱うのは罪悪感が湧きすぎる。
「しばらくはここで面倒を見た方がいい、わよね?」
そもそも暗殺者に狙われたのだから、瀕死の状態で王城の近くに置いたら今度こそルーベンはトドメをさされてしまうかもしれない。
瀕死の彼は、逃げることも戦うことも出来ない。
目を覚ます前に襲われたら、助けすら呼べない。
「今回の人生ではルーベンと関わりたくないのだけれど……さて、どうしたものかしら」
ベッドの上で眠るルーベンを見下ろしながら、私は考えを巡らせた。
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