2 / 44
■第一章 出逢ってしまう運命
●第2話
【side ルーベン】
弟のことは可愛がっていた、つもりだった。弟も俺に懐いていた、はずだった。
だからその弟に命を狙われているとは思ってもみなかった。
誰かにそそのかされた可能性はある。
しかしそそのかされて実行する程度には、俺が死んでも構わないと思っていたこともまた事実で。
今日俺は部下を連れて森へ狩りに出かけた。ほんの気分転換のつもりだった。
だから、同行した部下たちが俺の命を狙っているなどとは露ほども考えていなかったのだ。
部下たちに崖へと追い詰められた俺は、冥途の土産に首謀者の名前を教えてくれと頼んだ。
そこで告げられたのが、弟の名だ。
俺は絶望を抱きつつ、部下の剣で深い傷を作りながら崖から転落した。
崖から転落した俺は、幸か不幸かすぐには息絶えなかった。
そのため全身に痛みを感じながら、崖の下から移動をした。
しかし、だんだんと視界は暗くなっていき、足がもつれて歩くことが出来なくなった。
そして俺は、意識を手放した。
次に目を開けると、木の天井が目に入った。
まず自分が生きていることに驚いた。
次に自分が室内にいることにも驚いた。
そして。
「お前は誰だ?」
見知らぬ人物が視界に入った。
咄嗟に身構えようとしたが、相手の姿を見て攻撃態勢を取ることをやめた。
だって目の前にいる彼女は。
「やっと起きなさったか。若者よ、気分はどうじゃ?」
しわくちゃの老婆だったからだ。
「俺は剣で……あれ。痛くない」
自身の身体を見ると、上半身には包帯が巻かれていた。左腕と左足には木が固定してある。
しかしどちらにも痛みは無い。
「お前……あなたが、治療をしてくれたのですか?」
「応急処置だけじゃよ。今は鎮痛魔法で痛みが無いじゃろうが、胸の傷は深く、腕と足は折れておる。しばらくは寝たきりじゃ」
「応急処置にしてはまるで医者のよう……あなたは何者ですか?」
「ひっひっひ。歳を取ると物知りになるからのう。応急処置程度は心得ておるんじゃよ。それに年季が入った分、他人よりも少し魔法が得意なんじゃ」
老婆は怪しい笑い方をしながら、くるくると杖を振った。すると室内に干されている服が躍り出した。
踊っているあの服は……俺の着ていたものだ。血は洗い流されているようだが、胸のあたりの布に穴が空いている。
「助かりました。てっきり俺の命はもう終わりだと思っていたので」
「わしに見つけられたお前さんは運がいい。なにせ魔物の出るこの森に住んでおる人間は、わしだけじゃからのう」
「無事に帰ったら、あらためてお礼をさせていただきます」
「気にしなさんな。年寄りの暇潰しで助けただけじゃ」
ふとあることを思い出し、俺は部屋の中を見渡した。部屋には俺と老婆以外の人間はいない。
ベッドが一つしかないことや、それ以外の家具に関しても、この家には住人が一人しかいないことを表している。
「寝ているときに、若い女の声が聞こえたような気がしましたが……気のせいでしたか」
「……さてのう。もしかすると、地獄の番人にでも会ったのかもしれんのう」
「地獄の番人が若い女という話は聞いたことがないのですが」
「わしも見たことがないから、何とも言えんのう」
それはそうだ。地獄の番人に出会っているのなら、生きてこの場にいるはずがない。
「とにかく助かりました。俺はこれで……」
起き上がろうとしたところで、目の前が真っ暗になった。
そのままベッドに倒れ込む。
「慌てなさんな。お前さんには血が足らん。大量に流しておったからのう」
視界が真っ暗の中、老婆の声だけが耳に届く。
そうか。俺は血が足りずに貧血を起こしたのか。
「しばらくは寝たきりだと言ったじゃろう。動けるようになるまでここで養生するといい。その状態で外に出ると、敵に簡単にやられてしまうからのう」
確かにこの状態では王城まで帰ることはおろか、町まで行くことすら不可能だろう。
ここは老婆の言葉に甘えさせてもらおう。
「何から何まで迷惑をかけてすみません」
「先程も言ったが、これは年寄りの暇潰しじゃ。お前さんが気にすることは何もない」
「しかし……」
「どうしても恩返しがしたいのであれば、お前さんの話を聞かせておくれ。子どもの頃に何をして遊んでおったのか、どんな色のどんな花が好きなのか、これまでで最も叱られた悪戯は何だったのか。そんな他愛もない話をのう」
俺の話を聞きたがる老婆に、俺は自身の話を語った。
この国の第一王子である件は伏せて、それ以外のことをたくさん。
何故だか老婆に自分の話を聞いてほしいと思ったからだ。俺のことを知ってほしいと……何故こんなことを思ったのかは、分からない。
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
巻き込まれではなかった、その先で…
みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。
懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………??
❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。
❋主人公以外の他視点のお話もあります。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。
❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」