聖女の恋は始まらない

竹間単

文字の大きさ
7 / 39
■第一章 出逢ってしまう運命

●第7話

しおりを挟む

【side ルーベン】

 まったくもって変な状況だ。弟の手下に暗殺されかけ、森で力尽きたら、老婆と添い寝をすることになった。
 こんな体験をしているのは、世の中で俺だけだろう。

 隣で眠る老婆を見た。
 老婆からは、すーすーと規則正しい寝息が聞こえてくる。

 結局俺は昨晩老婆と同じベッドで眠ることになった。
 病人が床で寝ることも、老婆が床で寝ることも、好ましくないという話になった結果、こうなってしまったのだ。

 もしも祖母が今も生きていたら、こんな感じだったのだろうか。
 丸まった背中は小さく、肌は透き通るように白く、銀の髪はツヤツヤサラサラで……あれ。
 昼間の老婆はもっとしわくちゃで、髪もパサパサだったような気がする。

 俺は上体を起こし、老婆の身体を乗り越えるようにして顔を見た。
 そして……叫び出しそうになる自身の口を慌てて押さえた。
 そこにいたのは老婆ではなく、若い女だったのだ。
 若い女が先程まで老婆の着ていた服を着て、身体を丸めて寝ている。
 それに女の顔には見覚えが無いはずなのに、妙な懐かしさがある。

「どういうことだ!? 俺が聞いた若い女の声は、気のせいじゃなかったのか!?」

 老婆は仮の姿で、この女の真の姿はこちらだということだろうか。
 しかし何故この女は老婆に変装をしていたのだろう。若い女のままだと俺に襲われると思ったから?
 ……そんな馬鹿な。これだけの大怪我をしているのに、女を襲う元気があるわけがない。
 元気があったところで嫌がる女を襲うのは俺の趣味ではない……が、この女は俺の嗜好など知らないからこれは関係ないか。
 とにかく、俺に襲われるから変装したというのはおかしな話だ。
 とすると、考えられるのは……この女は逃亡中の身か?
 いや、それもどうだろう。逃亡中に森で倒れている俺を助けるだろうか。
 イマイチしっくりこない。

「…………うう……ん……」

 女が寝返りを打った。
 変身魔法が解けていることには気付かず、呑気に寝息を立てている。

「城に帰ったら調べさせるか」

 気になることだらけだが、今の俺に出来ることは何も無いと判断し、俺は再び布団に身体を潜り込ませた。


   *   *   *


「若者よ、よく眠れたかい?」

 朝食の良い香りで目覚めると、鍋をかき回す女は老婆の姿に戻っていた。
 いや、戻っていたというのは違うか。元々の姿は若い女の方なのだから。

「……あれ。どうして俺は、あっちが本当の姿だと知って……?」

「何か言ったかい?」

「いいえ、何でも」

 理由は分からないが、この女が自分の正体を隠そうとしていることは確かだ。
 それならば、昨夜見たことは言わない方が良いだろう。

「さあ、豆と木の実のスープが出来上がった。たんとお食べ」

 女は完成したばかりのスープをテーブルの上に置いた。俺と自分の二人分だ。

「城に戻ったら、必ずあなたにお礼をします」

「礼が欲しくてお前さんを助けたわけではない。変な気は回さぬことじゃ」

「では何か困っていることはありませんか? 俺に出来ることなら何でもします」

「怪我人に出来ることなど、早く回復することだけじゃよ」

「ですが……」

 俺が食い下がると、女は思い出したようにある提案をした。

「では来月の王城のパーティーを、わしのような平民でも入れるようにしてはくれないかい?」

 王城に誰でも入れるように……は、現実的に考えて無理だろう。防犯面で問題がありすぎる。
 しかし命の恩人の頼みだ。なるべく叶えたい。

「どうにか平民でもパーティーに出られるように取り計らいます」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

私が消えたその後で(完結)

毛蟹
恋愛
シビルは、代々聖女を輩出しているヘンウッド家の娘だ。 シビルは生まれながらに不吉な外見をしていたために、幼少期は辺境で生活することになる。 皇太子との婚約のために家族から呼び戻されることになる。 シビルの王都での生活は地獄そのものだった。 なぜなら、ヘンウッド家の血縁そのものの外見をした異母妹のルシンダが、家族としてそこに溶け込んでいたから。 家族はルシンダ可愛さに、シビルを身代わりにしたのだ。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

私の療養中に、婚約者と幼馴染が駆け落ちしました──。

Nao*
恋愛
素適な婚約者と近く結婚する私を病魔が襲った。 彼の為にも早く元気になろうと療養する私だったが、一通の手紙を残し彼と私の幼馴染が揃って姿を消してしまう。 どうやら私、彼と幼馴染に裏切られて居たようです──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。最終回の一部、改正してあります。)

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

処理中です...