聖女の恋は始まらない

竹間単

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■第一章 出逢ってしまう運命

●第7話


【side ルーベン】

 まったくもって変な状況だ。弟の手下に暗殺されかけ、森で力尽きたら、老婆と添い寝をすることになった。
 こんな体験をしているのは、世の中で俺だけだろう。

 隣で眠る老婆を見た。
 老婆からは、すーすーと規則正しい寝息が聞こえてくる。

 結局俺は昨晩老婆と同じベッドで眠ることになった。
 病人が床で寝ることも、老婆が床で寝ることも、好ましくないという話になった結果、こうなってしまったのだ。

 もしも祖母が今も生きていたら、こんな感じだったのだろうか。
 丸まった背中は小さく、肌は透き通るように白く、銀の髪はツヤツヤサラサラで……あれ。
 昼間の老婆はもっとしわくちゃで、髪もパサパサだったような気がする。

 俺は上体を起こし、老婆の身体を乗り越えるようにして顔を見た。
 そして……叫び出しそうになる自身の口を慌てて押さえた。
 そこにいたのは老婆ではなく、若い女だったのだ。
 若い女が先程まで老婆の着ていた服を着て、身体を丸めて寝ている。
 それに女の顔には見覚えが無いはずなのに、妙な懐かしさがある。

「どういうことだ!? 俺が聞いた若い女の声は、気のせいじゃなかったのか!?」

 老婆は仮の姿で、この女の真の姿はこちらだということだろうか。
 しかし何故この女は老婆に変装をしていたのだろう。若い女のままだと俺に襲われると思ったから?
 ……そんな馬鹿な。これだけの大怪我をしているのに、女を襲う元気があるわけがない。
 元気があったところで嫌がる女を襲うのは俺の趣味ではない……が、この女は俺の嗜好など知らないからこれは関係ないか。
 とにかく、俺に襲われるから変装したというのはおかしな話だ。
 とすると、考えられるのは……この女は逃亡中の身か?
 いや、それもどうだろう。逃亡中に森で倒れている俺を助けるだろうか。
 イマイチしっくりこない。

「…………うう……ん……」

 女が寝返りを打った。
 変身魔法が解けていることには気付かず、呑気に寝息を立てている。

「城に帰ったら調べさせるか」

 気になることだらけだが、今の俺に出来ることは何も無いと判断し、俺は再び布団に身体を潜り込ませた。


   *   *   *


「若者よ、よく眠れたかい?」

 朝食の良い香りで目覚めると、鍋をかき回す女は老婆の姿に戻っていた。
 いや、戻っていたというのは違うか。元々の姿は若い女の方なのだから。

「……あれ。どうして俺は、あっちが本当の姿だと知って……?」

「何か言ったかい?」

「いいえ、何でも」

 理由は分からないが、この女が自分の正体を隠そうとしていることは確かだ。
 それならば、昨夜見たことは言わない方が良いだろう。

「さあ、豆と木の実のスープが出来上がった。たんとお食べ」

 女は完成したばかりのスープをテーブルの上に置いた。俺と自分の二人分だ。

「城に戻ったら、必ずあなたにお礼をします」

「礼が欲しくてお前さんを助けたわけではない。変な気は回さぬことじゃ」

「では何か困っていることはありませんか? 俺に出来ることなら何でもします」

「怪我人に出来ることなど、早く回復することだけじゃよ」

「ですが……」

 俺が食い下がると、女は思い出したようにある提案をした。

「では来月の王城のパーティーを、わしのような平民でも入れるようにしてはくれないかい?」

 王城に誰でも入れるように……は、現実的に考えて無理だろう。防犯面で問題がありすぎる。
 しかし命の恩人の頼みだ。なるべく叶えたい。

「どうにか平民でもパーティーに出られるように取り計らいます」



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