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■第一章 出逢ってしまう運命
●第12話
【side ジェイミー】
男が進んでいった地下へと続く道を下りる。そして男が入った組織のアジトと思われる場所の扉を、中の様子を窺うために少しだけ開けた。
その瞬間。何かが光ったと思った時にはもう遅かった。
すぐに私の身体は動かなくなった。拘束魔法だ。
「なっ……」
「立場が逆転したなあ、お嬢ちゃん」
どうやら私は、待ち伏せをされていたようだ。
アジトの中に運ばれた私は、王城に侵入した男とその仲間たちに取り囲まれてしまった。
男の仲間と思われる杖を構えた二人の男が、私に目視不能魔法の解除と拘束魔法を掛けたのだろう。
「お嬢ちゃんが追いかけて来るだろうことは分かってたぜ。『聖女の慕情』に興味津々だったからな。もっと話を聞きたくなったんだろう?」
私が答えずにいると、男はニヤニヤと下品な笑みを浮かべた。
「話を聞きたいんじゃなくて、組織を潰したかったのか? まあ、どっちでもいいさ。結果は同じだからな」
男は私の身体の上に足を乗せると、どんどん体重をかけていく。
「…………うっ」
「どうして俺がペラペラ喋ったと思う? 簡単にお嬢ちゃんを消せると思ったからだよ。お嬢ちゃんが単独で動いてるだろうことは、すぐに分かったからな」
男は私の身体から一旦足を下ろすと、私の腹を蹴った。何度も何度も。
拘束魔法によって防御体勢の取れない私は、されるがままだ。
「…………うぐっ、かはっ」
「あのときのお嬢ちゃんは、問答無用で俺を殺すべきだった。殺さずに話を聞きたがるから、こんなことになるんだぜ。昔から、好奇心は猫を殺すって言うだろ」
「この組織は何なの!? どうして知られていない聖女の能力を……んぐっ」
「お嬢ちゃんに質問する権利はないんだよ。主導権は俺たちにあるんだからな」
男が私の頭をぐりぐりと踏んできた。
床に押し付けられた頬骨が悲鳴を上げる。
「だがまあ、冥途の土産に教えてやろう。俺たちは平和を愛する者たちの集まりだ」
「人の頭を踏みつけておいて平和? よく言うわね!」
男は身体を屈め、私の髪を持って頭を持ち上げると、口の端を極限まで釣り上げた不気味な笑みを見せつけてきた。
「組織は平和のためなら悪にでもなる。『聖女の慕情』が世界を壊す可能性があるなら、『聖女の慕情』を消費させるために悲劇的な状況だって作る」
「『聖女の慕情』を持つ人が世界を破壊する可能性なんて、ほぼ無いも同然じゃない。たった一つしかない願いで世界を滅ぼそうなんて考える人は、かなり特殊だわ」
「そうかもしれないが、可能性はゼロじゃない。組織は世界が滅ぶ可能性をゼロにしないと気が済まないんだ」
可能性がゼロじゃないから、たったそれだけで、ルーベンは三回も死んだの?
そんなのは、あんまりだ!
理不尽な組織への怒りが募る中、同時にとある考えも浮かんでしまった。
私がルーベンと恋に落ちなければ……。
聖女に愛されなければ、『聖女の慕情』を得ることもない。
もしそうなら、ルーベンが狙われることもなかった。
私は、怒りと悔しさとやるせなさと、言葉に出来ない感情の数々に押し潰された。
目からはぼろぼろと涙が零れる。
「おいおい、もう終わりか? もっと抵抗してくれないと嬲り甲斐がないぜ。泣いたら見逃してもらえるなんて思ってないよな?」
男の声が遠くに聞こえる。私はこのままここで殺されるのだろう。
何度も命がけで助けてくれたルーベンを不幸にする私なんて、もうどうなっても構わない。
ただ、今回もルーベンを守ることが出来なかった。そのことだけが、心残りだ。
「手をあげろ!」
大声とともに大勢の人間がアジト内に雪崩れ込んできた。
すぐに金属のぶつかる音が響く。
「大丈夫……ではありませんね。帰ったらすぐに手当てをしましょう」
そう言って私の身体を持ち上げたのは、ルーベンだった。
「どうして、ここが……」
「あなたのことを追跡していたのです。城の外へ移動する際に転移魔法を使っていたので、痕跡を追うのに時間がかかってしまいましたが……その前に拘束を解かないとですね」
ルーベンに指示された王宮魔法使いの一人が、私の拘束魔法を解いてくれた。
「万が一あなたが組織の一味だったらどうしようかと思いましたが、そうではないようで安心しました。いえ、安心するような状態ではないのですが」
ルーベンが私の涙を拭い、頬に付いた砂を優しく払いながら囁いた。
彼の手は、くすぐったくて、心地がいい。
「王家は、組織のことを知っていたのですか?」
「はい。危険視はしていたのですが、なかなか尻尾を掴めずにいました。しかし今日、王城の廊下で男を尋問するあなたを見つけて……組織が城に魔物を放とうとしたこと、そして組織の目的が判明しました」
「あの現場を、目撃されていたのですね」
「王城には王宮魔法使いが何人もいますから。目視不能の魔法を掛けつつ、しっかりと確認させていただきました」
私はやっと力が入り、動くようになった上体を起き上がらせた。
すると図らずもルーベンの膝の上に座る形になってしまった。
「あっ、えっと!?」
動揺する私をよそに、ルーベンは話を続けている。
話を遮るわけにもいかないので、その体勢のまま聞き続けることにした。
「だからあなたは組織と敵対している者だとは思っていたのですが……もしもあの男に懐柔されて組織に入ろうとしていたらどうしようかと悩んでいたのです」
「こんな組織に入るわけがないじゃないですか。あなたを害そうとする組織なんかに」
「どうして俺を……いえ、どうしてと思うことはこれだけではありません。俺に正体を知られることを嫌がっていたことも、組織が王城に魔物を放とうとしている事実を知っていたことも。あなたは分からないことだらけです」
これが私の四度目の人生だと言ったら、あなたは信じてくれるでしょうか。
……たとえ信じてくれなくても、きっと話す必要がある。
「あなたに話したいことが、たくさん、たくさん、あります」
「俺も聞きたいことが山ほどあります。あなたのことも、どうしてこんなにあなたに心奪われるのかも。分からないことだらけです」
あなたに私を知ってほしい。
私の過去も、現在も、すべてを。
「ぜんぶ教えます。ぜんぶ伝えます。これまでに起こったことも、私の気持ちも、何もかも」
だから、どうか、受け止めてください。
奇妙な人生を歩んできた私のことを、受け入れてください。
「ぜひ聞かせてください。このあとの予定はあいていますか?」
「きっと朝までかかっても話しきれません。とても長い話ですから」
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どの人生でもあなたに愛された、幸せな女の話。
「それなら毎晩聞きましょう。王城へ来てくれますね?」
「……はい」
この人生では、あなたを不幸にしないと誓います。
あなたを誰よりも幸せにすると誓います。
「ところで……あなたのお名前は?」
「ジェイミーです」
「良い名前ですね。俺はこの国の第一王子、ルーベン・ヴァノワです」
「よく、知っています」
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