14 / 44
■第二章 とても長い一日
●第14話
私が一人で考え込んでいると、ルーベンがパンと手を叩いた。
「ジェイミーの状況は理解しました。差し当たって考えるべきなのは、聖女が現れたという組織の認識をどうやって消すか、聖女を求めて攻めてくる隣国をどう対処するか、魔物をどうするか、疫病をどうするか、ジェイミーの存在をどう扱うか、ですね」
決める事柄を述べるたびに指を一本ずつ立てていったルーベンは、今や五本の指すべてを天に向けている。
五個も考えなければならない事柄があるなんて。
「考えることが、あまりにも多いですね……」
「はい。早くも頭が痛くなってきたところです」
「私もです。頭を痛ませつつ、一つずつ潰していきましょう」
私が自身のこめかみを押さえながら顔を上げると、ルーベンも自身のこめかみを押さえているようだった。
「ジェイミーも頭が痛くなったのですか?」
「はい、とっても」
「ふふっ」
私の答えを聞いたルーベンが、楽しそうに笑みを零した。
「何かおかしいですか?」
「いえ、お揃いだなと思いまして。さすがは元夫婦ですね」
「お揃い、元夫婦……イッ、イチャイチャしている場合ですか!」
「ジェイミーは今のやりとりを、イチャイチャしているように感じたのですか? 純粋で可愛いですね」
ルーベンが可愛いと言った。
あまりにもさらりと、自然に。
「これまでのルーベンは、そういうことを言う人じゃなかったのに……!」
「他の男の話をすると妬いちゃいますよ?」
「他の男って、私がしているのは過去のルーベンの話で……って、それは今どうでもいいのです! 考えることがたくさんあるのですから、会話を横道に逸らさないでください!」
私がぷんぷんと怒ると、ルーベンはまた楽しそうに笑った。
なんだかルーベンの笑顔を見るのは、ずいぶんと久しぶりのことの気がする。
二回目以降の人生は、辛いことばかりだったから。
「順々に解決策を考えていきましょう。まずは、ええと……」
「組織に聖女が現れたと思われている件ですね。そもそも組織がその結論に辿り着いた理由は何でしょう?」
どの問題から考えようかと迷っていると、ルーベンが私の言葉を引き継いでくれた。
組織が聖女の存在に気付いた理由……実はこれには心当たりがある。
「もしかすると私が森に張った結界が原因かもしれません。魔物が町に入ることが分かっていたので、あらかじめ森に結界を張っておいたのです」
きっと組織はあの結界を見て、聖女が現れたと思ったのだろう。
しかも結界を張っているのだから、王宮からの指示があったとも考えたに違いない。
国内に魔物が入らないように結界を張ったり魔物退治の人員を派遣するのは、基本的に王宮の仕事だから。
「ふむ。確かに組織が森に張られた結界を確認したのなら、聖女が現れたと思ってもおかしくはありません。さらに森で暗殺されかけた俺が生きて戻ってきましたからね。森で結界を張っていた聖女に治療してもらったと考えた可能性があります」
考えた可能性がある……そりゃあこれが事実だからね。
聖女である私が森で結界を張り終えて、さてそろそろ移動するかと思っていたところに、重傷を負ったルーベンがやってきたから家で匿って治療をしたのだ。
そういえば私が森に結界を張ったことで、ルーベンを暗殺しようとしていた者たちが魔物に襲われなかったから、ルーベンは刺されてしまったのだった。
そうなることを予測できていなかったとはいえ、ルーベンには悪いことをしてしまった。
「あの、ルーベン。すみません。ルーベンが森で襲われたのは、私のせいなのです」
「えっ……まさか俺に監禁された仕返しで、弟に俺の暗殺をけしかけたとか? ジェイミーを監禁したのは別の俺とはいえ、俺は俺なのでジェイミーを責められませんが……そうですか、殺すほど……」
「違いますからね!?」
見当違いの予想で落ち込み始めたルーベンに、慌てて私の言葉の意味を説明する。
「過去三度の人生では、ルーベンを暗殺しようとしていた者が森で魔物に襲われたことで、ルーベンの暗殺は失敗に終わっていたのです。ですが今回は私が森に結界を張ってしまったから、暗殺者が魔物に襲われず、ルーベンを……」
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
巻き込まれではなかった、その先で…
みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。
懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………??
❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。
❋主人公以外の他視点のお話もあります。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。
❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」