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■第二章 とても長い一日
●第18話
「いざ雑談と言われると、何を話せばいいのか迷いますね」
運ばれてきた料理に手を付けながら、ジェイミーが困ったように眉を下げた。
「どのような話でもいいですよ。好きな物とか、好きなこととか。ジェイミーには趣味がありますか?」
「趣味……考えたこともなかったです。聖女の仕事や魔法の鍛練、過去改変のための準備など、やることがたくさんありましたので」
ジェイミーが申し訳なさそうに述べた。
ああ、趣味が無いなんて、そんなことがあるだろうか。
ジェイミーの人生は、どれだけ遊びの少ないものだったのだろう。
聞いているだけで悲しくなってくる。
ちなみに俺の趣味は、仕事をサボって昼寝をすることだ。
なぜ仕事をサボったときの昼寝はあんなにも気持ちが良いのだろう。
あの心地良さを知ってしまうと、知らなかった頃には戻れない。
「趣味が無いのは変ですかね?」
ジェイミーが困惑した様子で質問をした。
変ではないが、寂しい気はする。
「別に趣味は無くても構いませんが、あった方が人生は楽しくなると思いますよ。それに深刻なことばかりを考えていると、眉間にしわが寄っちゃいますからね。息抜きは必要ですよ」
「息抜きですか……うーん。いざ息抜きを考えようとすると、思いつかないものですね」
ジェイミーは少し真面目すぎるきらいがあるのかもしれない。
……ということは、森でのあの老婆の演技も、特に楽しんでやったものではなかったのだろうか。
「ジェイミーの趣味、老婆の演技はどうですか?」
試しに俺があのときのことを口に出してみると、みるみるうちにジェイミーの顔が赤くなっていった。
「恥ずかしいので、あのときのことは忘れてください!」
「恥ずかしくはないと思いますよ。あの老婆の演技は、なかなか上手かったですから」
「あのときは必要に駆られて仕方なく演技をしていたのです。だから絶対に趣味にはなり得ません!」
そうか。実はもう一度あのときの老婆の演技を見てみたかったのだが、残念。
無理強いをするようなことでもないので、あれはレアな体験だったと思っておこう。
「あの。ルーベンのオススメの趣味はありますか? 老婆の演技以外で」
自分では趣味を見つけられないと判断したのだろうジェイミーがそんなことを聞いてきたが、俺の趣味である「仕事をサボって昼寝をすること」は、ジェイミーに受け入れられる気がしない。
そうなると、一般的な趣味を勧めた方がいいのだろう。
「刺繍や編み物、それに読書を趣味にする令嬢が多いとは聞きますね。あとは町へ買い物に行ったり、観劇したり。流行りのスイーツ店へ行くことが趣味だという話もよく聞きます」
「…………」
あれ。何だろう、この間は。
ジェイミーが複雑そうな表情で俺のことを見つめている。
「どうかしましたか?」
「……ルーベンは令嬢の趣味事情に詳しいなあと思っただけです」
「一般論ですよ、一般論」
俺の言葉を聞いたジェイミーは、しかし浮かない顔をしている。
その顔を見てハッと気付く。
これはもしや、アレではないだろうか。
「もしかしてジェイミーは嫉妬をしているのですか?」
「いっ、いいえ! 趣味の話をするくらいに親しい令嬢がいるのか、と思っただけです!」
それを嫉妬と呼ぶのではなかろうか。
個人名を出したわけでもないのに、他の令嬢の趣味事情を知っているというだけで嫉妬をするなんて、ジェイミーは可愛いなあ。
それにこんな小さなことで嫉妬されるほどジェイミーに愛されているなんて光栄だ。
「妬いているジェイミーも可愛いですね」
「妬いていません!」
ジェイミーが嫉妬を否定してそっぽを向いてしまった。
ぷりぷりと怒って頬を膨らませていて可愛い。
ジェイミーは何をしていても可愛い。
一分一秒ごとに可愛いを更新してくる。
……自分はこれまでの三度の人生とやらで、どれほどジェイミーに惚れていたのだろう。
我ながらちょっと引くくらいにジェイミーのことが愛しくてたまらない。
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