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■第二章 とても長い一日
●第24話
騎士たちが私を見て固まっているため、先程お喋りをしていた茶髪の騎士の腕を掴んで訓練場の真ん中まで歩いた。
騎士の筋力があれば私に引っ張られたとしても動かずにいられるはずだけれど、茶髪の騎士は黙って私に引っ張られていた。
まだ年若い彼は、こういうときにどう対処をすればいいのか分からず、私の勢いに流されてしまったのかもしれない。
「今さらだけれど、あなたの名前は?」
「……フレデリックっす」
「そうですか。では、フレデリック。かかってきてください」
フレデリックから距離を取って杖を構える。
フレデリックにも剣を構えるよう、目で合図をする。
「かかってこいと言われても困るっすよ……」
「困惑するのは自由ですけれど、せめて剣を持っておかないと後悔しますよ?」
私にそう言われたフレデリックは、指示をくれとばかりに黒髪の騎士を眺めた。
黒髪の騎士……ああ、確か彼は王宮騎士団の騎士団長だったっけ。
数十年振りに見たから忘れていた。
騎士団長は、フレデリックに向かって、一度肩をすくめてから頷いた。
止めてもごねそうで面倒くさいから、気が済むようにさっさと相手をしろと言っている気がする。
フレデリックもそう受け取ったらしく、訓練用の木製の剣を一本手に取った。
「剣を構えたのですから、向かって来てはいかがですか?」
「それは、その……」
「来ないなら、私から行きますよ!」
これ以上待ってもフレデリックからは向かってこないだろうと判断した私は、魔法を発動させた。
杖から出た火球が、フレデリック目がけて飛んでいく。
「なっ!? 無詠唱っすか!?」
「動体視力でかわすもよし、剣を使って防ぐもよし、ですよ!」
「くっ!」
飛んできた火球をフレデリックが動体視力と足の筋力で避ける。
フレデリックが避けると同時に、避けた先へと新たな火球を放つ。
「王宮騎士団の騎士が、こんな小娘の魔法に負けていたら笑えませんよ。そのような腕で、誰を守れると言うのですか!」
飛んでいった火球を、フレデリックが剣で弾いた。
使用しているのが木製の剣でありながら炎が剣に燃え移っていないところを見ると、火球が剣に接地する前に風圧で弾いているようだ。
普段の素振りの成果が出たのだろう。
フレデリックが火球を剣で弾けることを確認した私は、今度は炎の渦をフレデリック目がけて放った。
炎の渦は火球と違って弾くことは出来ない。
火球のような点での攻撃ではないため、一部を弾いてもそれ以外の炎が向かってくるのだ。
そのことに気付いたのだろうフレデリックは、炎の渦を弾くことはせずにその場で勢いよく剣を振った。
剣を振ったことで発生した風が、炎の渦を蹴散らす。
「剣の風圧で炎を防ぎましたか。良い判断です」
フレデリックが炎の渦の対処をしたところで、これ見よがしに杖を振った。
「ですが、後ろがお留守です!」
私の言葉にハッとしたフレデリックが、急いで後ろを振り返る。
しかしそこには何もない。
ただのハッタリだから。
「こんな子ども騙しに引っ掛からないでください。敵から目を離してはいけませんよ!」
フレデリックが目を離した隙に、私は杖の周りに氷魔法をまとい、氷の槍を生成していた。
そして氷の槍を両手で持ちながら、フレデリックに突進していく。
ガキンッと、鋭い音が響いた。
「決まりましたね」
フレデリックの手からは、剣が落ちている。氷の槍で叩かれたためだ。
勝負あり、だ。
「つ、強い……!」
当然だ。
私は過去に、聖女として各地を飛び回っていたのだ。
旅の間には、魔物も盗賊も魔法使いも相手にした。
付き添いの護衛はいたけれど、私は護衛よりも強かった。
そんな私が、若い騎士相手に一対一で負けるわけがない。
「最初の相手であるフレデリックは、どうやって手加減をしようか考えていたでしょうし、負けても仕方のないところがあります。ですが、王宮騎士団のみなさん。これで私の実力は分かって頂けましたね?」
唖然としていた騎士たちから、拍手が起こる。
もう誰一人として、私を守るべき令嬢としては見ていない。
「次の相手は、私に怪我をさせることを怖がらずに向かってきてくださいね。しないとは思いますけれど、万が一怪我をしたとしても治癒魔法で治せますから」
「そうだった……ジェイミー嬢は治癒魔法が使えるんだった……」
「こんなに強いのに攻撃特化の魔法使いでは、ない……?」
騎士たちがざわざわとし始めた。
攻撃特化型ではない魔法使いに、自分たちの仲間が負けてしまった事実に気付いたからだろう。
「そうです。私は特化型ではなくオールラウンダーですね。つまり広く浅く、です。そんな私に、毎日戦闘訓練をしているあなたたちが負けはしませんよね?」
私は杖を持っていない左手で、フレデリックのいる場所を指し示した。
次の相手になりたい人はここへ来てくれ、という意味だ。
すると私の仕草で意図を理解したフレデリックが、深くお辞儀をしてからその場を去った。
もしフレデリックが怪我をしていたら治してあげようと思っていたものの、どうやら怪我は無い様子だった。
最後の一撃は剣を狙ったから問題ないと思っていたけれど、炎の渦でも火傷をしていないのだから、私に負けたとは言っても卑下するような実力ではない。
もちろん、まだまだ訓練を積む必要はあるけれど。
「次の方、どうぞ」
もう誰も私の行動を止めようとはしなかった。
それどころか、騎士たちが一斉に木製の剣を手にした。
みんな、やる気があってよし!
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