聖女の恋は始まらない

竹間単

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■第三章 世界を変える力

●第29話


【side ジェイミー】

 それからは毎日がとてつもなく忙しかった。
 私は寝る間を惜しんで組織対策のために動き回った。
 その結果、頑張った甲斐あって、望んだ結果を得ることが出来た。
 訓練場で王宮騎士団を鍛え、王宮魔法使いたちと一緒に結界を張りに行ったことで、王城内では私が凄腕の魔法使いだといううわさが回ったのだ。
 ついでに口止めをしていたはずなのに、私が王宮騎士団に全勝したという話も王城内で囁かれているようだ。
 こちらの話は広まらなくて良かったのだけれど、人の口には戸が立てられないものなのだろう。

 うわさが回った結果、私に鋭い目を向けていた使用人たちは態度を変え、今では怯えた目で私を見るようになった。
 ……こういうときは、温かい目で見るようになるものではないの?
 なんだか受け入れられたと言うよりも、恐いから怒らせないように気を遣われている気がする。
 こんな対応を望んだわけではなかったのだけれど……まあいっか。

 しかし肝心の組織の内通者は、依然として見つかっていない。
 ルーベンと私は執務室で経過報告をするたびに難しい顔をする日々だ。

「うーむ。組織の内通者なら、当然のことながら組織と連絡を取っているはずです。それなのに、こうも尻尾が掴めないなんて。誰が内通者か分からない以上、下手に内通者捜索の協力を頼むわけにもいきませんし……」

「その人自身が内通者ではなかったとしても、その人の動きで内通者に不信感を与える可能性がありますからね。今のまま少人数で探るしかないのでしょうね。人数不足を補うために、魔法を駆使してはいるのですけれど。王城内で怪しい魔法が使われたら分かるように掛けた感知魔法にも、何も引っ掛かりません」

 私は忙しい日々の中で、王城内のすべての部屋に、魔法が使用された際に感知する感知魔法を掛けた。
 なおこれを行なうにあたって、私が部屋を回っていることが知られたら内通者に警戒されてしまう恐れがあるため、サリー侍女長に協力をしてもらった。
 どの部屋がいつ無人になるのかを書き出してもらったのだ。
 この前の尋問でサリー侍女長が組織の内通者ではないことが確定しているための協力要請だ。

 ちなみに私から頼むと角が立つため、ルーベンからサリー侍女長にお願いをしてもらった。
 サリー侍女長からの情報漏洩が心配だったけれど、ルーベン曰くルーベンが口止めをするとサリー侍女長は必ず秘密を守ってくれるらしい。

 ルーベンはサリー侍女長が義理堅いから秘密を守ってくれるのだと思っているようだけれど、私の意見は少し違う。
 サリー侍女長は、ルーベンと二人だけの秘密を持つことで、ルーベンとの絆を感じたいのだと思う。

 かつて乳母だったとは言っても、階級は一国の王子とたかが侍女だ。
 ルーベンが成長するに連れ、どうしても二人の間には距離が出来てしまう。
 だから二人だけの秘密を持つことで、その距離を少しでも縮めたいのだろう。

 サリー侍女長がルーベンのことを恋愛対象として見ているのならこの行為は見過ごせないものだけれど、先日のサリー侍女長のルーベンを慈しむ目を見れば分かる。
 サリー侍女長は、ルーベンのことを愛しい息子のように思っているのだ。

「無人の部屋に私が出入りしていることを知ったら、サリー侍女長は怒るでしょうか?」

「問題は無いでしょう。そもそも無人になる部屋のリストが欲しいと頼んだとき、この件にはジェイミーも関わっていると伝えてあります。さすがに組織の内通者を探していることは伏せましたが」

 サリー侍女長は、この件に私が一枚噛んでいることを知っているのか。
 何も言ってこなかったから、てっきり知らないのだと思っていた。

「サリー侍女長、私が絡んでいると聞いて嫌がってはいませんでしたか?」

「安心してください。サリーは最初こそジェイミーのことを怪しんでいましたが、日々のジェイミーの活躍を耳にして考えを変えたようです」

「えっ? そうだったのですね」

 私自身が日々の行動で、私の安全性を証明したことになるのだろうか。
 ……いや、これはルーベン目線の意見だ。
 ルーベンはサリー侍女長に甘いところがあるから、サリー侍女長が私に対して敵意を持っていることに気付いていないだけかもしれない。
 引き続き、サリー侍女長との交渉はルーベンに頼んだ方が良さそうだ。

「サリーは秘密を守ってくれますが、他の使用人には無人の部屋に入るところを見られないようにしてくださいね。他の使用人はサリーほど口が堅くはないでしょうから。ジェイミーはマスターキーを使っているため、物盗りとは思われないでしょうが、無人の部屋をジェイミーが出入りしているとうわさにはなってしまうはずです」

「あっ。もう全部屋に感知魔法を掛け終わっているので、今後誰かに見られることはありません」

「もうですか!?」

 ルーベンが目をぱちぱちと瞬かせた。
 効果を持続させる魔法は、その場限りの魔法よりも、掛けることが大変だからだ。
 一部屋ごとに感知魔法を掛けるとなると、相当の時間が掛かるとルーベンは思っていたのかもしれない。
 しかし私を並の魔法使いと一緒にしてもらっては困る。
 誰にも見られないように部屋が無人のときに侵入することが難しいだけであって、感知魔法を掛けること自体は造作もないのだ。

「ちなみに部屋だけではなく、廊下や庭園にも感知魔法を掛けてあります」

「それも終わっているのですか!?」

「廊下などは移動の際、ついでに魔法を掛けることが出来ますからね」

「……ジェイミーと魔法の話をしていると、自分が無能に思えてきます」

 ルーベンがしゅんとした様子でうつむいた。
 しかしそんな風に落ち込む必要は無い。

「誰にでも向き不向きがありますから。私は魔法が得意な代わりに、ルーベンのような政治手腕はありません。それに私も最初の人生では聖力使用の鍛練ばかりしていたので、魔法は下手でしたよ」

「……慰めてくださってありがとうございます」

「慰めたのではなく、本心ですよ。ルーベンが王位を継いだらこの国は安泰です……いえ、今の国王陛下が良くないと言っているわけではありませんよ。ルーベンがすごいと言いたかったのです」

 私が慌てて国王批判ではないことを付け足すと、ルーベンがプッと吹き出した。

「ジェイミーから見た俺は、すごいのですね。初めて知りました。すごいです」

「表現が幼稚だと言いたいのですか!? 自分でも幼稚だとは思いましたけれど!」

 私が顔を赤くしながらそう言うと、ルーベンがまた笑った。
 近い未来に組織に狙われるから笑うような余裕は無いと思っていたのに、ルーベンのこんな顔が見られるなんて。
 嬉しい誤算だ。
 悲惨な未来が待っているかもしれないからと言って、ルーベンの辛そうな顔ばかりを見るのは悲しいから。

「それにしても困りましたね。王城すべてに感知魔法を掛けているのに、内通者の魔法が引っ掛からないなんて。内通者であるからには、定期的に組織と連絡を取っているとは思うのですが。まだ報告の時期ではないのでしょうか?」

 王城内に感知魔法さえ掛けておけば、内通者が組織と連絡を取る際に使用した魔法が感知に引っ掛かると思っていたのだけれど、そう簡単にはいかないようだ。
 王城内に感知魔法を掛けられる可能性を、組織も考慮しているのかもしれない。
 そうなった際に内通者が疑われることがないよう、上手い連絡の取り方をしているのだろう。

「たぶんですけれど、組織と内通者は魔法で連絡を取っているわけではないのでしょうね。ですが、誰かに見られるかもしれない手紙を使って連絡をしているとも思えませんから……内通者は、町で直接組織の者と会っている気がします」

 それが一番確実で、なおかつ内通者だとバレにくい。
 さすがに組織の者と待ち合わせて廃墟などに出入りをしていたら怪しいけれど、町ですれ違いざまに報告書を手渡しているだけなら、発覚の可能性は極めて低い。

「アナログな連絡手段だと、感知魔法は意味を成さないですね。この目で組織の者との密会現場を見るしかありません」



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