聖女の恋は始まらない

竹間単

文字の大きさ
33 / 39
■第三章 世界を変える力

●第33話

しおりを挟む

「失礼いたします……ジェイミー様?」

 執務室に入ったエディットは、私が執務室にいることに驚いていた。
 私は今日この時間、王宮騎士団と訓練をしている予定だったからだろう。
 エディットはきっと今の今まで、訓練終わりの私のために熱いお風呂を用意していたはずだ。
 しかし王宮騎士団との訓練に参加する予定は、急遽取り止めになった。
 昨日、組織の内通者が動いたから。

「待っていましたよ、エディット」

「ジェイミーの専属侍女のエディットで間違いはないね? さあ、そちらに掛けて」

「は、はい。ですが、ただの侍女であるわたくしがソファに掛けるのは……」

「王子の命令に背きたいということかな?」

「いっ、いいえ! 座らさせていただきます!」

 ルーベンに促されたエディットは、恐る恐る執務室のソファに座った。
 エディットが立ったままでは会話がしづらいというのもそうだけれど、ルーベンがエディットに座るように促したのは、ソファに座らせることでエディットが瞬時に逃げることが出来ないようにする意図もある。
 そう、エディットはこれから逃げたくなるような話をされるのだ。

「ここに呼ばれた理由は分かっているかな?」

 ルーベンに問われたエディットは、ビクリと肩を跳ねさせた後、私のことを見つめた。
 この場に私がいることで、エディットが専属侍女として粗相をしたと私がルーベンに告げ口をしたとでも思ったのかもしれない。

「もしかしてわたくしはジェイミー様に……」

「今日の呼び出しは、私への対応とは関係ありません」

 私がピシャリと告げると、エディットはルーベンと私を交互に見てから、震えた声を出した。

「……申し訳ございません。わたくしはどのような過ちを犯してしまったのでしょうか。わたくしは何故、ルーベン殿下に呼ばれたのでしょう? 自覚が無くて恥ずかしい限りですが」

「自覚が無い? 違うよね。自覚はあるが、過ちを隠したいのだろう?」

「!?!?」

「口で説明するよりも、記録映像を見せた方が早いかな。ジェイミー、お願いします」

 ルーベンに声をかけられた私は、ルーベンの机の上に置いていた水晶玉を、ソファの前まで持ってきた。
 そして水晶玉の説明を始める。

「これは監視魔法に映ったものを見ることの出来る水晶です。いわゆる受信機ですね。通常なら今現在の様子しか見ることは出来ませんけれど、私はこの水晶に記録魔法も掛けていました」

 エディットの目が大きく見開かれた。
 ここでようやく昨日の自分が失態を犯したことに気付いたのだろう。
 見る見るうちにエディットの顔色が悪くなっていく。

「顔を蒼くしたということは、気付いたようですね。そうです。エディットが組織の者にメモを渡すところがしっかりと記録されています」

 私は記録されていた映像を水晶玉に映し出した。
 映像にはエディットが町を歩く様子と、一人の男とすれ違う瞬間に握っていたメモを手渡すところが映っていた。
 エディットが男にメモを渡し、エディットも男からメモを受け取っている。

「反論はありますか?」

 俯いていたエディットが、がばっと立ち上がった。
 攻撃をしてくるのかと警戒したものの、そういったことはなく、エディットは目に涙を溜めた状態で身振り手振りを交えながら懸命に自分の無実を訴え始めた。

「これは、捏造です! わたくしはこんなことはしていません! きっとこの映像は魔法で作られたものです!」

「往生際が悪いですね。この魔法を使ったのは私だと説明したでしょう? 私が捏造をしたとでも?」

「ルーベン殿下! 長年王城に仕えてきたわたくしと、つい最近やってきたジェイミー様の、どちらの話を信じるのですか!?」

 あろうことかエディットは、私がこの映像を捏造したのだとルーベンに訴え始めた。
 一世一代の大舞台だ。
 ……そんな演技が通用するわけがないのだけれど。

「勇気がありますね、エディット。この私が捏造をしたと、ルーベンに訴えかけるなんて」

「だってわたくしは、こんなことはしていません! わたくしがしていないのですから、捏造に決まっています! 魔法なら捏造も可能ですよね!?」

「可能か不可能かで言うなら、理論上は可能ではありますね。ものすごく複雑な術式を用いなければならないため、やろうと考える人はいないでしょうけれど」

「一般の魔法使いがやらなかったとしても、ジェイミー様は別のはずです。ジェイミー様は王宮騎士団を全敗させる実力をお持ちなのですから!」

 あー。今さらだけれど、王宮騎士団を全敗させてしまったのは良くなかったかもしれない。
 エディットを通じて、その事実が組織の耳に入ってしまったようだから。
 どうにも私は、隙が多くてうっかりしていて詰めが甘い性格のようだ。

 こうなったら仕方がない。
 王宮騎士団が弱いと知った組織が乗り込んでくる前に、王宮騎士団を鍛え上げなくては。
 その前にこちらから組織に乗り込むことになりそうだけれど、とにかく鍛えなければ。
 すでに地獄の責め苦の方がマシだと思うような鍛え方はしているけれど、地獄の責め苦が飴だと思えるレベルまで訓練の内容を厳しくしよう。
 ……私の迂闊な行動のせいで申し訳ない、王宮騎士団。

「魔法が得意なジェイミー様なら、記録魔法の捏造くらい簡単なはずです!」

「実力があるからと言って、無駄なことに魔力を使う理由にはなりません。エディットが組織の内通者である証拠を捏造する理由が、私にはないのです」

「それは……きっとわたくしのことが気に入らないからでしょう!? だからジェイミー様はわたくしを専属侍女から外すために……!」

「もしそうだとしたら、こんな面倒くさいことはせずに、侍女を変えてくれと口で言います。それだけで話は終わるのですから」

 侍女を外すためだけに監視魔法と記録魔法を使うなんて、あまりにも馬鹿げている。
 エディットも苦し紛れに言っただけだろうけれど。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

私が消えたその後で(完結)

毛蟹
恋愛
シビルは、代々聖女を輩出しているヘンウッド家の娘だ。 シビルは生まれながらに不吉な外見をしていたために、幼少期は辺境で生活することになる。 皇太子との婚約のために家族から呼び戻されることになる。 シビルの王都での生活は地獄そのものだった。 なぜなら、ヘンウッド家の血縁そのものの外見をした異母妹のルシンダが、家族としてそこに溶け込んでいたから。 家族はルシンダ可愛さに、シビルを身代わりにしたのだ。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

私の療養中に、婚約者と幼馴染が駆け落ちしました──。

Nao*
恋愛
素適な婚約者と近く結婚する私を病魔が襲った。 彼の為にも早く元気になろうと療養する私だったが、一通の手紙を残し彼と私の幼馴染が揃って姿を消してしまう。 どうやら私、彼と幼馴染に裏切られて居たようです──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。最終回の一部、改正してあります。)

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。 理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。 ……正直、めんどくさい。 政略、責任、義務、期待。 それらすべてから解放された彼女は、 聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。 毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。 何もしない、何も背負わない、静かな日常。 ところが―― 彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、 一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが 異様なほど平和になっていく。 祈らない。 詠唱しない。 癒やさない。 それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。 「何もしない」ことを選んだ元聖女と、 彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。 これは、 誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、 いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

処理中です...