悪役令嬢は扉をあける~乙女ホラゲの悪役になったのでホラーフラグは折りつつ恋愛フラグは回収します!?~

竹間単

文字の大きさ
33 / 102
【第二章】 たとえ悪役だとしても

第31話

しおりを挟む

 昼休みになったので食堂へ行こうとすると、ドアの前で手招きをしている生徒がいた。
 昨夜『死よりの者』の犠牲になる予定だった二年生の生徒だ。
 横には私と同じく彼女に呼ばれたのだろうウェンディもいた。

「ちょっとだけ時間をもらってもいいかな。昨日のこと、もう誰かに話した?」

 すっかり忘れていた。
 だって夢にローズが出てきたり、クラスメイトに脅されかけたり、魔法の授業でやらかしたり、かなり忙しかったから。

「話してはいませんわ」

 私の答えを聞いた二年生は、うんうんと頷いた。

「私も実感が無くてまだ誰にも言ってないのよね。幻覚だって言われても嫌だし。だけど、先生たちには報告をしておいた方がいいと思うの。昨日は被害が無かったけど、清掃員を殺したのはあの魔物かもしれないし」

 今度はウェンディが何度も頷いていた。

 少し未来に『死花事件』の犯人として処刑が待っているローズとしては、この件は内密にしておきたい気もする。しかしここで秘密にしたいと言ってしまっては、二人に怪しまれるかもしれない。
 今後のことを考えるなら、ウェンディに疑念を持たれる展開だけは避けたいところだ。

「分かりました。では先生方に報告をしに行きましょう」

「よかったー! 実は私だけで昨夜の出来事をきちんと話せるか不安だったから二人を誘ったんだよね。そもそも一番の功績者を置いて私だけで報告しに行くのも変な感じだし」

「それならウェンディさんだけで良かったのではありませんか?」

「こういうのは人数がいた方が、信憑性が上がるのよ」

 言うや否や、二年生の生徒は私の手を引いて職員室まで歩き始めた。
 ふと見るとウェンディも手を繋がれている。私もウェンディも彼女とは昨夜が初対面のはずだが……。
 よく言えばコミュニケーション上手、悪く言えば他人との距離間がおかしな人なのかもしれない。


   *   *   *


 二年生の生徒に連れられて三人で教師に昨夜の報告をした帰り、彼女は昨夜助けてくれたお礼と言ってランチを奢ってくれた。


「それでさ、昨日の魔物の話なんだけど……あの魔物、何なのか知ってる?」

 食後の紅茶を飲みながら、二年生の生徒が話を切り出した。

「いいえ、あのような魔物は初めて見ました。王国に出没する魔物については一通り勉強したつもりですが……」

「そうよね。私もあんな魔物は初めて見たもの」

「私も分かりません。人間の言葉を喋るということは、知性の高い魔物だと思いますが」

 私の言葉を聞いた二人が、一斉に私のことを見た。

「え? なに!?」

 二人はお互いに顔を見合わせてから、また私のことを見た。

「魔物が話していたの? 私には聞こえなかったけど」

「私も聞こえませんでした」

「えっと……話すと言うか、テレパシーが頭の中に響いてきたと言うか……」

「私はテレパシーも聞こえなかったわ」

「私もです。なんだか頭がキーンとはしましたけど……ローズさんにはあれが言葉に聞こえたのですか?」

 一体どういうことだろう。
 確かに魔物は言葉を話していたのに、二人には聞こえなかった?
 しかし、私の幻聴で済ませるには、あまりにもはっきりと聞こえたし……。
 だけど私だけが『死よりの者』の声を聞けるとなると、仲間認定されてしまうかもしれない。
 てっきり二人にも聞こえたと思っての発言だったが、迂闊だった。

「それで、魔物は何を言っていたの?」

「えっと……やっぱり私の気のせいだったかもしれません。怖くて幻聴が聞こえちゃったみたいです。ああっ、幻聴って怖いわぁ!」

「今さっき頭の中にテレパシーが響いてきたと言っていませんでしたか?」

「テレパシーにも幻聴ってあるんですね。やっぱり幻聴って怖いわぁ!」

 ここから幻聴に持って行くのは強引な気もしたが、迫真の演技で押し通した。

「ねえ、魔物の話よりおしゃれの話をしませんか? 令嬢が集まったら、流行りのドレスや宝石の話題で盛り上がるものと相場は決まっていますもの」

 そして無理やり話題の変更を行なった。
 流行りのドレスや宝石の話題など何も知らないが、下手に魔物の話をしてボロが出るよりはいいはずだ。

「この状況でおしゃれの話? あなたって噂に違わず強いのね」

「そうですか? オホホホホ」

「ですがローズさんの申し出も一理ありますね。怖いときに怖い話をしては一層恐怖心が増しますから。楽しい話をするのはいいかもしれません」

 意外なことに私の話にウェンディが乗ってくれた。
 そして二年生の生徒もウェンディの意見に賛同したようだった。

「おしゃれと言えば、ローズさんの爪の着色はとても綺麗よね」

「私も思っていました。高級感がありますよね」

 二人に言われて自身の爪を確認する。
 黒一色で彩られた爪は、悪役らしくはあるがローズにとても似合っている。

 …………あれ。
 原作ゲームのローズはこんな爪だっただろうか。

 それこそおしゃれで爪の色を変えているのかもしれないが、ローズの爪が黒かった記憶はない。
 はて、と首を傾げる。

「どうしましたか?」

「あっ、何でもないの。ちょっと着色にムラを見つけちゃっただけ」

「その美しさで満足しないなんておしゃれ上級者は違うね。私ももう少しおしゃれに気を遣おうかな」

「おしゃれと言えば私の住んでいた村で流行っていた髪型が可愛くて。村なので洗練されてはいないかもしれないですが」

「なになに、教えて!」

 適当な返事をすると二人はおしゃれ話に花を咲かせ始めた。
 しかし私はどうしても自分の爪が気になってしまい、二人の話は頭に入って来なかった。

 なぜなら原作ゲームの冒頭、入学式でローズの爪は黒くはなかった。
 私がローズになってから黒く染めたわけではないから……原作ゲームのローズは元々黒かった爪の着色を入学式直前に落とした?
 何のために?
 爪の色を変えてはいけないという校則は無かったはずだ。
 そうではないとしたら…………私がローズになった瞬間もしくは私がローズになる前に、すでに原作ゲームとは相違点が生まれていた?



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...