悪役令嬢は扉をあける~乙女ホラゲの悪役になったのでホラーフラグは折りつつ恋愛フラグは回収します!?~

竹間単

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【第二章】 たとえ悪役だとしても

第33話

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「そ、そういえば、ウェンディさんと二人でのディナーは盛り上がったの? 考えてみたら共通の話題も無いのにあんなことを頼んで悪かったわ」

 別の話題を探して頭の中の引き出しを開けまくっていると、昨日私がウェンディの部屋に入っている間にナッシュがずいぶんと時間稼ぎをしてくれたことをふと思い出した。
 後ろからついてくるナッシュに向かってそう言うと、なぜか眉間にしわを寄せていたナッシュが、一瞬で朗らかな笑みになった。

「『あんなこと』はディナーよりももっと別のことだと思いますが……ディナーは盛り上がりましたよ。主にお嬢様の話題で」

「私の話題?」

 確かにナッシュとウェンディのわずかな共通点は、両者とも私を知っていることだ。
 だけどウェンディにとって私は、会って数日のただのクラスメイトだ。
 そこまで会話が盛り上がるものだろうか。

「小さな共通点だけで会話を盛り上げるなんて、あなたはお喋りが得意だったのね」

「どうでしょう。私はお喋りがあまり得意ではないと思いますが……ただ、お嬢様の話なら朝までだって出来ます! ……あれ。そういえばウェンディ嬢はほとんど聞き役でしたね。口数の少ない方なのでしょうか?」

 うわあ。
 イケメンにディナーに誘われて着いて行ったら、よく知らないどこぞの女の話ばかりをされたのではたまらない。
 なんだかウェンディが可哀想になってきた。

「黙って聞いていましたが、我慢できません! この『顔だけ男』は、女心を全く分かっていないのですね!?」

 私が絶句する一方で、ジェーンはナッシュにビシッと指摘をした。
 いつもなら喧嘩をするなと注意しているところだが、今回ばかりはジェーンに完全同意だ。
 ナッシュは普段付き人としての仕事をそつなくこなすから、てっきりこういうこともスマートに行なうと思っていたのに。
 まあ仕方がないと言えば仕方がないのかもしれないが。
 原作ゲームではナッシュとウェンディが話をするのは、共通の話題が出来てからだった。
 それなのに、今のほぼ何もない状態で二人きりでディナーをしろというのは、私の無茶振りだったのだろう。

「あなたは何を言っているのですか。お嬢様の話は、世界人類誰もが楽しめる話題です。私は最善の話題選択をしたはずです」

「確かに私ならローズ様の話をされるのは大歓迎ですが! でも一般的に、女性と二人きりのディナーで、他の女性の話をするのはマナー違反ですよ!」

「あなたには関係の無いことでしょう?」

「私には関係なくてもローズ様には関係があります。そんなことをされたら、ウェンディさんはきっとローズ様に良い印象を持たなくなりますよ!?」

 言われてみれば、確かに。
 せっかくイケメンと二人きりなのに、そのイケメンに他の女の話ばかりをされたら、話に出てくる女を嫌いになってもおかしくない。
 ……ちょっとナッシュ、何してくれてんのよ!?
 私がウェンディと仲良くなろうとしているときに!!

「まったく。あなたは何を言っているのですか。この世界に、お嬢様を嫌いになる人間などいるはずがありません!」

 …………いるのよ。それもたくさん。
 原作ゲームでのローズの嫌われようを思い出して、私は頭を抱えた。


   *   *   *


 園芸部の部活見学は学園の裏庭で行われていた。
 すでに部活動は始まっており、園芸部員の説明を新入生らしき生徒数人が聞いている。
 話の途中からになってしまったが、私たちもその中に混ざることにした。

「この裏庭は園芸部が好きに使っていいことになっています。ここには野菜に果物、観賞用の花から薬草まで、様々な種類の植物が植えられています。なお植物は育てた生徒の所有物にしていいことになっているので、とれたて野菜を食べるのも売るのも自由です」

 園芸部員は、私たち三人が新入生の集団に混ざったことで新入生の人数が増えたのが嬉しいようだ。
 説明により熱が入り始めた。

「部員によっては育てた薬草を使って回復薬を調合したり、逆に毒草を使って毒薬を作ったりしています。育てたハーブを使ったハーブティーでお茶会をする生徒もいますね。でも一番多いのは、観賞用の花を育てて部屋に飾ったり気になる女性に贈る生徒でしょうね。丹精込めて育てた花を想い人に贈るなんてロマンチックですよね!」

「……毒薬の作れる毒草とその解毒剤になる薬草を一緒に育てることで、荒稼ぎが出来そうですね」

 園芸部員の説明を聞いたナッシュがぼそりと呟いた。

 え。まさか原作ゲームでナッシュが園芸部に入っていたのってそういう目的だったの?
 毒薬と解毒剤を作ってお金を稼ぐため?
 お花を育ててウェンディに贈るためだとばかり思っていたのに!
 なんだか夢を壊された気分だ。

「どうして毒草と薬草を育てるのですか? 植える種類が少ない方が、管理が楽でいいと思いますが」

 純粋なジェーンの質問に、ナッシュは口角を上げて答えた。

「毒を盛るような人間は解毒剤も欲しがるものです。解毒剤が欲しければ金をよこせ、と毒を盛った相手を脅せますからね」

 手の甲にキスをする乙女ゲームの攻略対象らしい仕草を見せた直後にこれは、ナッシュの性格の振り幅が大きすぎて眩暈がする。
 とりあえず、ナッシュへの給料未払いが起こらないよう、公爵にしっかりとお願いをしておこう。
 私はそう心に誓った。



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