性悪エリート高校の「たのしいうんどうかい」

ゴオルド

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第一部 青蝶編

3 チーム分け ―学内の地位って何だ―

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 入学して1カ月半が経過した。

 俺、藪島やぶしま亮平りょうへいは、ものの見事に落ちこぼれていた。
 まあ、当然だよな、偏差値59だからな。クラスメートは東大を目指してるようなのばっかりだしな。

 初回の数学でもう付いていけなかった。見たこともない公式を知っている前提で授業が進むんだが。数学だけでなく、化学と物理と英語と漢文も無理だった。英語教師からTOEICの点数を書いて提出しろとか言われたが、受けたことないんですけど? 化学教師が「中学ですでに学習済みだろうから説明は省く」って言った用語が、俺にとっては未知の言葉なんですが?

 これが学力の差ってやつなのか! ひゅー! 震えちまうぜ!

 そういうわけで、勉強はついていけないし、クラスメートも性格がアレなやつしかいないしで、俺は休みがちになってしまった。

 まあ、要するに不登校ってやつだ。

 どうもやる気が出ない。そんな理由で学校を休むとは我ながら甘ったれてるよな。情けない。でも俺だってどうにかしたいと思って努力はした。自宅学習を頑張ってみたりとかさ。だが偏差値59がいきなり偏差値75になるなんてことはなくて、かなり厳しい状況だった。

 そう、厳しい。
 俺、いま相当に厳しい。

 これ、もし不登校じゃなくても、まじめに登校したとしても、テストで点数取れなくて進級できないやつなんじゃねえか? そんな気がする。っていうか間違いなくそうだろうな。

 将来のことを考えたら、俺は転校すべきなのだろう。もっと偏差値の低いところに入り直すべき。

 そういうわけで、転校先を探しながら、登校したりサボったり。予習と復習を頑張っても授業がさっぱり理解できなかったり。

 そんな高校一年の春だった。



 5月の終わりのこと。
 その日、放課後に委員会があった。

 委員会ってのは、あれだ、風紀委員とか保健委員とか生徒会とか、ああいうやつな。なんとなく景条館にはそんなもんはないという気がしていたが、普通にあった。生徒は何かしら委員をやらないといけないらしい。

 というわけで俺は保健委員になった。ほら、不登校気味だろ? そのうち保健室のお世話になりそうじゃん。俺向きだろ、保健委員。

 そういうわけで、きょうは定例会とやらがあるとかで、放課後、保健委員会室に顔を出した。
 場所は委員会棟だ。うちの高校って委員会用の建物があるんだ、びっくりだろ?

 委員会棟は、校門の近くに建ってて、往来の喧騒が聞こえてくる。喧騒――つまり酔っ払いの歌声とかゲロ吐いてる音とかパトカーや救急車のサイレンとか誰かが何らかの器物損壊を行っている音とか、そういうなんか物騒な物音だ。

 教室のある建物は敷地の奥の方にあるから静かで、このあたりの治安が悪いことを忘れそうになるが、委員会のたびに俺は故郷《ホーム》に戻ってきたという妙な感覚になる。なぜなら俺も決して上品とはいえない環境で育ってるから。なんせ族流無《ぞるむ》県ぞるむ市の出身だからな。この学校に通ってるやつのほとんどは俺と似たようなもんだとは思うけど。


 で、保健委員室のソファに腰掛けて、「今月の目標。五月病に気をつけましょう」について委員同士でぬるい意見交換をしているとき、隣席の先輩が話しかけてきた。

「そういえば、そろそろだな」
「え、何がですか?」
「体育祭のチーム分けの発表だよ。毎年5月の終わりに張り出されるんだ」
「はあ、そうなんですか」
 これからどこに転校しようかなーなんて考えている俺にはあんまり関係がないというか、興味を持てない話題なのだ。しかし、だからといって、そっけない態度をとるのもな、人としてしょっぱいよな。というわけで、多少は話に乗ってみた。

「体育祭ですかあ、開催時期はいつなんでしたっけ」
「10月だよ」
「随分先ですね」
 その時には俺はこの高校の生徒じゃなくなってるだろうな。
「きっと盛り上がるんでしょうね」
「うん、まあ、そうだな、生徒の家族だけじゃなくて一般客も入るし、地元の飲食店の出張販売やバザーもあるから。でも、肝はそこじゃなくてさ……」
 先輩がにやりと口元を歪めて笑った。
「大事なのはチーム分けなんだよ」
「はあ」
 いまいちピンとこない。先輩は、反応の鈍い後輩に困ったような表情を浮かべて笑った。
「この高校ではね、体育祭のチーム分けがとても大事なんだよ。だって、これで学内での地位が決まるからね」
「学内の地位、ですか?」
 ちょっと何言ってるんですかね、パイセン。意味わかんねっす。

 別の先輩たちも興味を引かれたのか、話に加わってきた。
「ねえねえ、毎年この時期になると、校長先生にちょっと早いお中元を贈る父兄もいるらしいわよ」
「それで良いチームに入れてもらえるのなら、安いもんだな」
「へえ、君も贈ったのかい?」
「まさか。でも、噂には聞いてる」
 笑い合う先輩たちの目が笑っていないように見えるのは気のせいなのか?

藪島やぶしまくんも、登校日数に難を抱えているから、早急にデパートに行って、メロンか神戸牛を手配したほうがいいよ」
「めっ、メロンか神戸ビーフっすか……?」
 え、ワイロ? それってつまりワイロか?
「あら、校長は日本酒がお好みだそうよ」
「いやいやブランデーを集めていらっしゃるんじゃなかったか?」
「君たちは何を言ってるんだ。商品券に勝るものはないだろうが」
 先輩たちが贈り物について議論を始めてしまった。

「え、あの待ってください、何ですかそれ。体育祭で良いチームに入りたいからワイロとか変じゃないですか。俺、そういうズルみたいなやつ嫌いなんですけど」

 先輩たちは顔を見合わせて、ぷっと笑った。なんか感じ悪くねえ? でも、何か言い返してやろうっていう気にもなれなくて、俺は黙り込んだ。うあー、どうも調子が出ない。
 窓の外に目をやると、のっぺりと白濁したような青空が平面的に広がっていた。あまり綺麗とはいえない濁った青だ。五月ってのは空の青さが陰鬱だから、それが人間にもうつるもんなのかもしれないな。


 その数日後。
 藤棚広場の巨大掲示板に、布団か? ってぐらいの大きな紙が張り出された。その紙は5枚あって、それとは別に、毛筆で書かれた横長い紙が張ってあった。「第62回 景条館体育祭 チーム分け」とある。

 これが噂のやつか。学内での地位が決まるとかなんとか。


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