性悪エリート高校の「たのしいうんどうかい」

ゴオルド

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第一部 青蝶編

7 反撃 ―やり返さないわけないだろ―

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 教室に戻ると、まだ生徒たちは残っていた。

「おい、落ちこぼれが戻ってきたぞ」
「なんだよ、もっと殴ってほしいのかよ、変態だな」
「やだ、キッショ」

 あっという間に、連中に取り囲まれてしまった。まったくワンパターンなやつらだ。
 俺を取り囲んでいる連中の中に、お目当ての生徒がいた。ラッキー! 俺はほくそ笑んだ。

 その男子は、にやにや笑いながら俺を見ていた。ふん、笑っていられるのも今のうちだからな。

「おまえ、佐和田さわだっていったよな」
「な、なんだよ」
 突然指名され、佐和田は警戒するように一歩さがった。

「この前の中間テストの結果、さっき職員室でチラ見してきたんだけどさ。おまえ学年10位に入ってたぞ。すげえなあ、成績良くて良かったなあ!」

 俺が邪悪な笑みを浮かべてそう言うと、佐和田はぱっと顔を輝かせた。だがすぐに顔から表情を消した。そして、肩に首を埋めるみたいな奇妙な体勢になって顔を歪めると、恨めしげに俺を睨んだ。どうやら俺の狙いを理解したようだ。

 教室がざわつき始めた。
「学年10位以内って……」
「はあ? そんなの聞いてないんだけど」
「この前、消しゴム貸してやったよな、こんなことなら貸さなきゃ良かった」
「前から思ってたけど、あんたって臭いよね」
「あ、俺も思ってたわ。鼻曲がりそう」
 さっきまで俺を攻撃していたクラスメートたちは、今度は一致団結して佐和田を罵っている。

 この高校では、偏差値が高い方が「教師には優遇される」ことになっている。しかし、偏差値が高いと「生徒同士の足の引っ張り合いのターゲットにされる」というマイナス面もある。
  つまり偏差値殴り合いバトルでは、偏差値が高いほど敵が増えるのだ。模試や試験のたびに友人関係もがらりと変わる、それが我が校である。クソである。

「トップテンに入ったか、なるほどね。君、そういうことなら話は変わるよ」
「ウザいからもう話しかけんなよ」

 クラスメートたちが佐和田にかける言葉は、聞くに堪えないものだった。ほんとクズしかいねえな、このクラス。クズで育ちが悪くて頭が良いって、最悪の組み合わせだな。

 俺は教室を出て、白月チームの集合場所に行くことにした。顔が腫れてるから休んだほうがいいのか? でもまあ一応な。不登校児のくせに、体育祭のミーティングにちゃんと出ようとしている自分が少し面白かった。ちょっとだけ笑える。
「ふっ、い、痛ってえなあ」
 笑うと顔が痛い。それでさらに笑ってしまって、ますます痛い。地獄かよ。


 グラウンドに出てみたが、白月の生徒たちの姿が見えない。それどころかどこのチームの生徒もいない。ランニングをしているどこかの運動部がいるだけだ。いや、グラウンドのはじっこのほうに白旗を持った人が一人立っている。慌てて駆け寄ろうとしたが、びりびりする痛みが腰に走った。しかたない、ゆっくり歩いていくしかない。

「済みません、遅れました」
「おまえ、その怪我は……」
 旗を持った人は、きりっとした眉毛を心配そうに下げた。ハスキーな声が、さらにかすれたようになった。あ、この人、団長だ。色が黒くてスポーツマンっぽいガッチリ先輩だ。たしか名前は浅羽といったっけ。

 団長は、俺の全身に上から下まで視線を走らせて、「痛むか?」と聞いてきた。
「まあ、ちょっとだけ。でも平気っす」
「おまえは1年だな? 何か困ったことになっているんだったら俺で良ければ話を聞こう」
「いや、もう大丈夫です、反撃してやりましたし」
「そうか。大した奴だ」
 そんなまっすぐに言われると、なんかこっちが恥ずかしいのですが。正直いって同士討ちさせただけだし。い、居心地が悪いな……、いや悪いってのは違うな、何だろ、なんかうまく言えない。

「ああ、そうだ」
 団長は制服のポケットから袋入りのグミを取り出すと、俺に差し出した。
「コラーゲンには炎症を抑える効果がある、という説があって、本当かどうかはわからないが、俺は部活で打撲したときはコラーゲン入りのグミを食べるようにしている。効く、ような気がする。プラセボ効果かもしれないが」
「お、おお、そうっすか……」
 俺はグミを受け取ると、礼を述べて頭を下げた。なんだか桃太郎にきびだんごをもらった犬のような気分だ。鬼退治についていくのか、俺。

「それで、せっかく来てもらったのに申しわけないが、今日のミーティングは中止だ。副長の山田がミーティングがあることを忘れて帰ってしまったからな」
「お、おお、そうっすか……」
 副長って、水着姿だった男だよな。帰っちゃったか、それじゃあ、しょうがないな。

 結局ミーティングは明日に延期とのことだった。
 では失礼します、そう挨拶して帰ろうとして、ふと気まぐれを起こした。

「団長は、俺の顔がぼこぼこに殴られてるのとか、気付く人なんですね」
「それだけ派手にやられていれば、さすがに気付く」
「いえ、そういうことじゃなくて……。なんていうのかな……、この学校の生徒たちって、いろんなことに無関心っていうか、興味ないっていうか、自分のことしか考えないっていうか、それがどうも違和感っていうか、その……」
「受験と勉学にしか興味を持たない、他人にも無関心、それが異様に見えるときがある、言いたいのはそういうことだろう?」
「は、はい」
 団長は軽く頷いた。
「景条館はもともとそういう気質の生徒が集まりがちだが、入学後に生徒同士がエコーチェンバーを起こして、さらに悪化してしまうんだ。入学時にはまともだった者でさえ、あっという間に染まっていく」

 確かにうちのクラスも、入学からわずか二月程度しか経過していないのにもかかわらず、変な思想が悪化している気がした。入学時には勉強が得意なことを鼻にかけている程度だったのが、今では落ちこぼれは内臓を提供するぐらいしか使い道がないなんて言うほどになっている。

「でも、団長は景条館に染まっていないんですね。俺の負傷に気付いて話を聞いてくれようとして、グミまでくれて」
「それが白月だ。白月の団長というものだ」
 団長は目を合わせてきた。迷いのない目つきをしている。
「おまえも3年になったら、1年に同じことをしてやれ」
 でも俺は転校する予定で……そんな言葉を飲み込んだ。
「……はい」

 俺は、この景条館に入学して初めて心に血の通った人間としゃべった、そんな気分だった。何にも染まらない白を好ましく思った。

 今夜はゆっくり休めよ、そう言われて、俺は帰宅した。

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