性悪エリート高校の「たのしいうんどうかい」

ゴオルド

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第一部 青蝶編

9 あだ名をつけられた

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 しばらく待って、だいたい生徒が集まったなというところで、団長が立ち上がった。
「いまから白月チームの作戦会議を始める。なお、なぜミーティングの場所がサイエンス棟なのかというと、俺らは今後グラウンドを使う権利がないからだ」

 うわあ……。ほんとひどいな。俺は呆れるやら腹が立つやらだ。白月は体育祭の練習とかできないじゃん……。

「さらに言うと、白月チームに所属する生徒は、グラウンドだけでなく学食及びカフェとレストランの使用も禁じられている。あとシャワー室、室内プールと音楽サロン、パソコンルーム、視聴覚室の使用も禁止だ。ほかにも管理者である教師のその日の気分で俺らは出禁になるところもあるから注意するように」

 いろいろ禁じられて、ひどいな!? っていうか学食のほかにカフェとかレストランとかあったのかよ、どこにあるんだよ、学食しか知らねえわ。なんだよ、何がどう違うんだよ。もしやカレーもあるのか?
 俺はカレー好きなんだが、学食のカレーしか食べたことがない。味はイマイチだ。甘口すぎて俺の好みのカレーではなかった。でも、もしカフェとレストランにもカレーがあるのだとしたら……。とんでもなく辛い激うまカレーだとしたら……。くそう。想像するだけでも、なんかすっげえ悔しい。


「補足しておくぜぇ。安全に使える施設もあるぞ」
 今度は副長の山田先輩が、座ったまま周囲に説明を始めた。

「購買と図書館、温室、そしてこのサイエンス棟は利用可だなあ。それらの施設を管理する教師が、白月の協力者となっているからだなあ。歴代の先輩方の努力のおかげだ、感謝しろぉ」

 そうか……、教師の中にも味方はいるのか。勝手に教師なんて全員敵だと思い込んでいた。でも、そうじゃないんだ!
 気持ちが明るくなった。
 なんていうんだ、こう、希望っていうのか? ポジティブなパワーみたいな感じのやつが全身から沸き上がってくるのを感じた。

 それに購買が使えるのは実際かなり助かる。ありがとう、先輩方。
 ほかにどこが使えるんだっけか。図書館だっけ……そういや校門の近くにドデカいバケツみたいな形の建物があったな。確かあれがそうだ。あとサイエンス棟と温室か。サイエンス棟はともかく、温室が使えると言われてもな……。俺は一生温室には行かない気がする。全然興味ないしな。
 ……。
 ……まあでも暇なときに行ってみるか……。転校する前に、記念に。


 団長は、生徒たちをぐるりと見回した。
「では、さっそく本題に入る。まず個人の戦闘力を把握したいと思う。1年!」
 俺は急いで立ち上がって、ビシっと背筋を伸ばした姿勢で団長の言葉を待った。

「まず、偏差値を言ってくれ。一番左の生徒から順に」
 うわ、ここにきても偏差値なのかよ。

「67です」
「70です!」
 さすが景条館。落ちこぼれでも、とんでもなく高い。

 やがて俺の番が来た。
「59です!」
 みんなが、「ん?」という顔になった。
 俺はもう一度叫んだ。
「59です! 藪島亮平といいます、59です!」
「そ、そうか。まあ、その……よく入学できたな」
 みんなが哀れむような目で俺を見ている。そ、そんな目で見ないでくれ! 地味に悲しいだろ!
「推薦入学です、59なのになぜか合格しました!」
 俺は中学では優等生のおりこうさんボーイだったので、内申点がめっちゃいい。そのおかげで推薦合格を果たせたっぽい。……まあ、それが進路選びの失敗のもとだったわけだが。

 ちなみに、ぞるむ市にある俺の出身中学校では、優等生になるのは相当ハードルが高い。なんせ補導歴がなくて校内でエロい行為をしてなくて校内飲酒・喫煙をしていなくて授業中にスマホをいじらず、お菓子を食べずに教科書を開いていなければいけないんだ。フナムシが空を飛ぶより難しい。ぞるむ市はそういう地域だからな。

 金髪の副長が、俺に向かってサムズアップしてきた。なんだ? わからんが、俺もサムズアップを返した。
「えー、なんかすげぇ良いじゃん。いじけてないし、元気もいいし、よく食いそうな顔してるし。そうだ、おまえ、今日から悟空なぁ」
「悟空!? それってあだ名ですか」
 59だから悟空だという。ダジャレ?
「あの、高校生的に、あだ名が悟空なのはちょっと……俺が小学生だったら喜んだかもなんですが……」
「そうかあ? じゃあ、是空ぜくうにしてやろう。色即しきそく是空ぜくうから命名してやったぜ、かっこいいだろぉ」
 そういうよくわからない流れで、俺のあだ名が「ゼクウ」ということになった。

「偏差値の上位3名はそのままで。それ以外は座ってくれ」
 多数の生徒が座ると、立ったままの3人は心細そうにうつむいた。
「2年と3年のトップ3、立て」
 6人が立ち上がった。
 団長は、口元をぐっと引き締めた。
「白月チームが目指すのは、体育祭で勝つことではない。そんなもので勝ったところで何にもならない。俺らがやることはただ一つ。今のような体育祭のチーム分けを廃止させることだ」
 初めて聞く話に、俺は驚くとともに、どこか疑うような気持ちだった。廃止って……そんなことできるのか? 体育祭のチーム分けって、教師が決めるんだよな。それを生徒が覆せるものなのか?

「白月チームの生徒に対するいじめを教師が肯定する、そんなものは認められない。だから、俺らは景条館と戦わなければならない」
 2年と3年は、やったるぜ! という表情で頷いている。それに比べて1年の表情は暗かった。学校と事を構えるなんて面倒すぎる。へたすると内申点が死ぬ。落ちこぼれであっても、それはさすがに気にするだろう。俺みたいに転校予定なら話は別だが。

 1年生のテンションが低いことに気付いたのか、団長が声のトーンを落として語りかけるような口調になった。
「悪いがこれが白月チームの伝統なんだ。我々の先輩方は、20年以上も職員室と戦い、その戦果を後輩たちが受け継いできた。その伝統をここで途絶えさせるわけにはいかない」

 白月の生徒たちは、20年以上も抵抗してきたのか。それってつまり教職員は20年以上も白月いじめをやってきたってことだよな。そして、今後も続ける予定であると。うわあ……。陰湿な大人、引くわ。

 やっぱり諸悪の根源って、あのタヌキを見捨てそうな冷たそうな校長なのかな。あの校長が白月いじめを始めた……いや、年齢がちょっと合わないか。かなり若かったもんな。校長も、白月いじめの伝統を引き継いでいるということなのかもしれない。


 副長が、ふらり、と立ち上がった。
「いろいろ面倒くさいけどなぁ、次の後輩たちのために、俺たちも戦ってやろうぜぇ」
 チャラそうなのに外見に似合わないことを言う先輩だな。ちょっと意外だ。副長に選ばれるぐらいだから、結構熱い人だったりするのだろうか。


 団長が再び口を開いた。
「では、今後の作戦の説明に移る。まず、今立っている偏差値の高い9名から景条館に挑むこととする。理由はわかるな? 偏差値が低い生徒が行動を起こせば一発退学もあり得る」

 内申点が死ぬどころではなくて退学とかいうリスキーな話だった。3年と2年は盛り上がっているが、1年はますます盛り下がっていく。退学のリスクをおかしてまで頑張る必要性を感じないのだろう。自分さえ良ければいい、ここはそういう学園なのだから。

「今からトップナインと団長、副長で作戦を練る。ほかのメンバーは協力が必要になったときに動いてくれ。では、トップ9以外解散」

 何が何だかわからないが、もう帰っていいらしい。じゃあ、帰るか。

「ゼクウも残れよぉ」
 副長に引き留められた。正直そんな予感はしていた。

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