性悪エリート高校の「たのしいうんどうかい」

ゴオルド

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第一部 青蝶編

15 交渉

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「人の着物にジュースかけるほうが悪いんでしょ!」
 夜使野よしのはキレ気味に反論した。

「でも……クリーニング代を出して、謝って、それ以上を求めるのは……おかしいと思います……ううん、それどころかクリーニング代を出させるのも違いますよね……だって、彼女は団長さんの命令でジュースを持たされていたんでしょう? 団長さんにも責任あるのに……それなのに彼女だけを責めるなんて……」
 オモチの声は小さくて、口調はあくまでも穏やかで、だけど、一歩も引かない姿勢を見せた。
「……そんなことしていたら、人と仲良くできないと思います……」

「え……? な、仲良く……?」
 夜使野は虚を突かれた顔をした。

「あの、誰だって悪気なくミスすることって……あると思うんです……。それをそんなに強く責めていたら……誰も愛せなくなるし、誰からも愛されなくなると思います……」
「な、なによ、それ……」

「……ボ、ボク、ずっと思ってたんです……。この高校の人たちって、友達を平気で裏切る人ばっかりですよね……。すごく他人に厳しくて……自分が得するかどうかばっかり気にして……他人を利用することしか考えてなくて……。友達を信じられないのって、寂しいんじゃないかなって……。もしかしたら団長さんも……寂しいんじゃないかなって思ったんです……」

 夜使野は顔が真っ赤になった。頭から湯気が出そうなほどだ。

「か、勝手に決めつけないでよ! 余計なお世話よ! 私は、と、友達なんかいなくたって、頭は良いし、家はお金持ちだし、幸せなんだから!」
「……す、すみませんっ……」

 猛獣のような目で睨まれて、オモチはそこで勇気の残量がつきてしまったようだ。言葉をなくして俯いてしまった。

「オモチの言うことって間違ってないと俺は思う」
 余計なお世話かなと思いつつ、だけど俺はそう言わずにはいられなかった。オモチははっとしたように顔をあげて、俺をまじまじと見つめてきたので、頷いてみせた。オモチはほっとしたように、かすかに口の端をあげた。

「間違ってるわよ!」
 だが、夜使野の金切り声で、オモチの笑顔は消えてしまった。

「あんたたちは、なにもかも間違いだらけよ! なによ白月のくせに」
 わめく夜使野が、少し哀れに見えてきた。強がっている、そうとしか見えなかった。何か、オモチが彼女の隠している痛みに触れてしまったようだった。

「この着物だって!」
 自分の胸元に手をやる。
「パパが似合うって言ってくれたのよ。パパは私のことを褒めてくれない人で、特に外見のことは絶対に褒めないの……。私はママみたいに美人じゃないから……。でも、着物のときだけは似合うって言ってくれるの。そんな大事な私の着物をジュースで汚されたのよ。それなのに私がどうして責められなきゃいけないのよ!」

 オモチは黙っている。
 これはオモチが始めたケンカであるから、俺がでしゃばるのもいかがなものかと思って、俺も黙っていた。


 しばらくの沈黙の後、夜使野は立ち上がった。
「ほんっと、鬱陶しいわ、あんたたち」
 そう吐き捨てると、着物姿の割に大股で校舎のほうへと行ってしまった。

「追いますか?」
 副長は首を横に振った。



 数日後。
 俺は授業を抜け出して、藤棚広場で自習でもしようと思い、廊下に出ると、オモチと遭遇した。

「あれ、オモチじゃん。今授業中だけど、どっか行くのか? なんかあったとか?」
 俺だって授業中だというのに廊下にいるわけで人のことをいえた立場ではないが、気になった。いじめが再発したのだろうか?
「あ、ゼクウくん……」
 オモチはふるふると首をふった。長い前髪が動きに合わせて揺れる。
「ちょっと熱がある感じがして……。保健室に行こうと思ったんだ……」
「そっか。じゃあ、途中まで一緒に行こうぜ。あとゼクウクンって言いづらくね? ゼクウでいいよ」

 二人、廊下を並んで歩く。通り過ぎる教室から教師たちの声が聞こえてきた。うん、何を言ってるのかまるで理解できないな。これ本当に高校1年のカリキュラムで合ってるのか? 合ってるんだろうな、こんちくしょう。

「ゼクウくんは……ゼクウは、どこに行くの?」
「あ、俺? 俺はちょっと自習しに藤棚広場に。あそこ気に入ってんだよな。でも、その前に夜使野《よしの》の様子でも見にいってみようかなって。まあ、様子を見たところで特に何かあるわけじゃないけどさ。藤棚広場に行くついでだな、ついで」
 オモチが立ち止まった。
「どうした?」
「ボクも一緒に行って良い?」
「え、別に良いけど。でも熱は」
「平気だから……」
 本人がそう言うなら断る理由もない、というわけで、二人で1階の3年1組へと向かうことになった。

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