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第一部 青蝶編
16 夜使野
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階段をおりながら、オモチが「……ゼクウ、あの……」と、何か「これから大事なことを言いますよ」感を漂わせながら話しかけてきた。熱があるからか、それとも今は授業中で大声を出すのを控えているのか、その声はかなり小さい。
「この前、青蝶の団長さんとお話をしたときのことなんだけど。ボクを間違ってないって言ってくれてありがとう……」
「なんだよ急に。っていうか礼を言われるようなことじゃないって。オモチはほんとに間違ったこと言ってなかったんだし」
友達を信じられないのは寂しいことだとオモチは言った。何一つ間違ってねえし。
オモチは、前髪の向こう側でにこりと笑った。
「あのときゼクウに間違っていないって言ってもらえて、ボクは勇気づけられたんだ。この高校に入学してから、もしかしたら間違っているのはボクのほうかもしれないって、クラスメートは敵だって思うは当然なのかもしれないって、自分を疑ってしまうこともあったから……ありがとう、ゼクウ」
「お、おおう、そんな改めて言われると恥ずかしいな」
なんかギャグとか言って誤魔化したくなってきたが、いいギャグが思いつかない。弱ったな。俺の気持ちを知ってか知らずか、オモチはまじめそうに話を続ける。
「確かにこういう話ってちょっと照れくさいね。でも、ボクは大事なことはちゃんと言わなきゃって思うから……」
「そっか」
そういうやつなんだな、オモチって。大事なことはちゃんと言う、か。気が弱そうなくせに、青蝶の団長に自分の意見を言ってみせたのは、本人なりに信念があるからなんだろうな。
「そういうの、格好いいな」
俺もちょっとオモチの真似をして、臭い本音を言ってみた。
1階に到着した。1組は通用口のすぐ隣だ。二人、教室の窓から、そっと中を窺う。夜使野はどこだ……?
「いない……みたいだね……」
「今日は休みか」
そういえば副長の姿も見えないな。夜使野と同じクラスのはずなのに。副長はサボりだろうか。
授業終了を知らせるチャイムが鳴った。教師が教室から出てきて、俺たち二人に何か言いたげな視線を寄越した。1年生が授業をサボってこんなところで何やってんだ、と叱られる……こともなく、その教師は何も言わずに去っていった。景条館の教師というものは、基本生徒に関心がないというか、勉強以外のことを教育しようという意識は皆無なのだ。
「じゃあ、保健室に行こうぜ。体調悪いのに付き合わせて悪かったな」
「ううん、ボクが勝手についてきただけだから……」
その時だった。
数人の女子たちがくっつき合うようにして教室から出てきた。次の教室への移動なのだろう、教科書とノートをそれぞれ胸に抱いている。
「夜使野のやつがいないから、今日は教室の空気が綺麗だわ」
「あいつがいると空気悪くなるもんね」
「親が政治家だからって生意気だしさ。今日だけじゃなくてずっと学校に来なければいいのに」
「そうそう、着物もぜんっぜん似合ってないくせにさあ。なんで学校に着物で来るんだか。ほんとイタいよね、あいつ」
「それにブスだし」
女子たちは楽しそうに笑った。
「うわ、陰湿な陰口だな、引くわ」
俺の言葉に、女子たちがぴたりと動きをとめた。異様なものを見るような目で俺を見てきた。おお、ついうっかり思っていたことが口から出てしまったみたいだ。
「何だ、てめえ」
「私たちの会話を盗み聞きかよ、サイテーのクソ男だな」
俺は呆れてしまう。
「あれだけ大声で陰口たたいておいて盗み聞きもねえって。というかさ、学校来るなとかブスとか、そういう陰口のほうがサイテーじゃねえの。そらまあ夜使野のやつって自分のチームのやつを召使いみたいに使ってたし、問題がないわけじゃねえとは俺も思うよ。でも、それはそれ、これはこれ、っていうかな。罵詈雑言陰口悪口にも美学ってもんがあるじゃん。言動が批判されるのは当然にしても、全然関係ない外見のことを陰口のネタにするのは違うんじゃねえの。っていうかブスじゃなくね? さっき陰口たたいてたときのおまえらの顔のほうがよっぽどブスだったけどな」
夜使野のやつは顔は四角いが、パーツは整ってるんだよな。それに比べてこいつらが陰口たたいてたときの顔はどんだけ醜いことか。性悪が顔に出てたぞ。本人たちはわかってねえんだろうな。他人の批判ばっかりしやがって。
……まあ、なんで着物で登校してんのかは俺も疑問に思うが……。
女子たちは唾でも吐くみたいに顔を歪めた。
「何言ってんのこいつ。長々と語って、自分に酔ってね? キッモ」
「もう行こう」
女子たちは大きな足音を立てて行ってしまった。少し行ったところで、ちらっとこっちを振り返って、口元を歪めてみせた。あれきっと路上だったら唾を吐いてるな。そういう感じの顔だった。
「これぞ「ぞるむ市の女子」って感じだったな……って……」
ちょうどそのとき、すぐ近くの通用口から夜使野本人があらわれた。
今日も和服を着ていた。水色のやつだ。俺とオモチに射るような視線を定め、まっすぐに近づいてきた。歩くのに合わせてポニーテールが左右に振れている。なんか妙な迫力があって怖い。俺とオモチが一歩後ずさるより先に、夜使野は目の前に来ていた。
心なしか目元が赤い。もしかして泣いてた? いやまさかなあ。
「この前、青蝶の団長さんとお話をしたときのことなんだけど。ボクを間違ってないって言ってくれてありがとう……」
「なんだよ急に。っていうか礼を言われるようなことじゃないって。オモチはほんとに間違ったこと言ってなかったんだし」
友達を信じられないのは寂しいことだとオモチは言った。何一つ間違ってねえし。
オモチは、前髪の向こう側でにこりと笑った。
「あのときゼクウに間違っていないって言ってもらえて、ボクは勇気づけられたんだ。この高校に入学してから、もしかしたら間違っているのはボクのほうかもしれないって、クラスメートは敵だって思うは当然なのかもしれないって、自分を疑ってしまうこともあったから……ありがとう、ゼクウ」
「お、おおう、そんな改めて言われると恥ずかしいな」
なんかギャグとか言って誤魔化したくなってきたが、いいギャグが思いつかない。弱ったな。俺の気持ちを知ってか知らずか、オモチはまじめそうに話を続ける。
「確かにこういう話ってちょっと照れくさいね。でも、ボクは大事なことはちゃんと言わなきゃって思うから……」
「そっか」
そういうやつなんだな、オモチって。大事なことはちゃんと言う、か。気が弱そうなくせに、青蝶の団長に自分の意見を言ってみせたのは、本人なりに信念があるからなんだろうな。
「そういうの、格好いいな」
俺もちょっとオモチの真似をして、臭い本音を言ってみた。
1階に到着した。1組は通用口のすぐ隣だ。二人、教室の窓から、そっと中を窺う。夜使野はどこだ……?
「いない……みたいだね……」
「今日は休みか」
そういえば副長の姿も見えないな。夜使野と同じクラスのはずなのに。副長はサボりだろうか。
授業終了を知らせるチャイムが鳴った。教師が教室から出てきて、俺たち二人に何か言いたげな視線を寄越した。1年生が授業をサボってこんなところで何やってんだ、と叱られる……こともなく、その教師は何も言わずに去っていった。景条館の教師というものは、基本生徒に関心がないというか、勉強以外のことを教育しようという意識は皆無なのだ。
「じゃあ、保健室に行こうぜ。体調悪いのに付き合わせて悪かったな」
「ううん、ボクが勝手についてきただけだから……」
その時だった。
数人の女子たちがくっつき合うようにして教室から出てきた。次の教室への移動なのだろう、教科書とノートをそれぞれ胸に抱いている。
「夜使野のやつがいないから、今日は教室の空気が綺麗だわ」
「あいつがいると空気悪くなるもんね」
「親が政治家だからって生意気だしさ。今日だけじゃなくてずっと学校に来なければいいのに」
「そうそう、着物もぜんっぜん似合ってないくせにさあ。なんで学校に着物で来るんだか。ほんとイタいよね、あいつ」
「それにブスだし」
女子たちは楽しそうに笑った。
「うわ、陰湿な陰口だな、引くわ」
俺の言葉に、女子たちがぴたりと動きをとめた。異様なものを見るような目で俺を見てきた。おお、ついうっかり思っていたことが口から出てしまったみたいだ。
「何だ、てめえ」
「私たちの会話を盗み聞きかよ、サイテーのクソ男だな」
俺は呆れてしまう。
「あれだけ大声で陰口たたいておいて盗み聞きもねえって。というかさ、学校来るなとかブスとか、そういう陰口のほうがサイテーじゃねえの。そらまあ夜使野のやつって自分のチームのやつを召使いみたいに使ってたし、問題がないわけじゃねえとは俺も思うよ。でも、それはそれ、これはこれ、っていうかな。罵詈雑言陰口悪口にも美学ってもんがあるじゃん。言動が批判されるのは当然にしても、全然関係ない外見のことを陰口のネタにするのは違うんじゃねえの。っていうかブスじゃなくね? さっき陰口たたいてたときのおまえらの顔のほうがよっぽどブスだったけどな」
夜使野のやつは顔は四角いが、パーツは整ってるんだよな。それに比べてこいつらが陰口たたいてたときの顔はどんだけ醜いことか。性悪が顔に出てたぞ。本人たちはわかってねえんだろうな。他人の批判ばっかりしやがって。
……まあ、なんで着物で登校してんのかは俺も疑問に思うが……。
女子たちは唾でも吐くみたいに顔を歪めた。
「何言ってんのこいつ。長々と語って、自分に酔ってね? キッモ」
「もう行こう」
女子たちは大きな足音を立てて行ってしまった。少し行ったところで、ちらっとこっちを振り返って、口元を歪めてみせた。あれきっと路上だったら唾を吐いてるな。そういう感じの顔だった。
「これぞ「ぞるむ市の女子」って感じだったな……って……」
ちょうどそのとき、すぐ近くの通用口から夜使野本人があらわれた。
今日も和服を着ていた。水色のやつだ。俺とオモチに射るような視線を定め、まっすぐに近づいてきた。歩くのに合わせてポニーテールが左右に振れている。なんか妙な迫力があって怖い。俺とオモチが一歩後ずさるより先に、夜使野は目の前に来ていた。
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