性悪エリート高校の「たのしいうんどうかい」

ゴオルド

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第一部 青蝶編

14 青い蝶とオモチ

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 副長はイドを引きずるようにして廊下を歩いていき、やがてグラウンドへと出た。

 放課後になってから結構時間が経っているはずだが、まだ日は高かった。春ももう終わりなんだな。いよいよ夏の到来、いやその前に梅雨か。雨の日の登校ってあんまり好きじゃないんだよなあ。雨の日に家にいるのは好きだけど。つまり俺って根っからの不登校なのか!? そんなことを考えながらあたりを見回して、に気付いた。

 異様な光景だった。
 グラウンドのど真ん中、大きなパラソルとビーチベッドが置かれ、そこに寝そべっている和服姿の女子生徒がいるのだ。和服とビーチベットの組み合わせは奇妙だが、それをいったら何でグラウンドでバカンスみたいな状況なんだよと突っ込むのが先のような気もしてくる。

「一体何なんだ、あれは……彼らは……青いハチマキをしているが……」
 委員長が呆然と呟いた。
「ああ、いたな。あれが青蝶の団長、夜使野よしの芽衣香めいかだぜぇ」
「あれがですか!?」
 副長はそちらに向かって歩き出した。俺たちもついていく。

 ビーチベットに寝そべってスマホを見ている女子――夜使野は、着物姿だった。深い青に黄色い蝶が舞っている柄だ。髪はポニーテールに結い上げている。額には青蝶のハチマキをきつく締めている。

 和服でパラソルでビーチベットでポニーテールでハチマキ……?

 夜使野のまわりには、制服姿の生徒がいて、慌ただしく動き回っている。夜使野にジュースを差し出したり、お菓子の載った皿を持ったり、うちわで扇いだりしている。ジュースは紙パックでも紙コップでもなくて、ガラスのコップに入れられていた。ストローとハイビスカスがさしてある。なんだかトロピカルな雰囲気だ。スマホで曲を流している生徒もいる。アロハ~っていうハワイアンなミュージックだ。

 そのさらに周辺には、体操着やジャージを着た生徒たちがいた。そちらはストレッチをしたり短距離走のスタートの練習をしたりしている。
 和服姿の夜使野を含めて、全員が青いハチマキをしていた。

「センスがおかしい……」
 俺は思わずつぶやいていた。偏差値が高ければ何をしてもいい高校とはいえ、これは何だ。どういうあれだ。校則に違反……している、いや、してない、微妙なラインだ。グラウンドにビーチベットを置いて和服姿でトロピカルなドリンクを飲んではいけませんなんて、そんな決まりはないだろうしな。

 しかし。

「和風なら和風、トロピカルならトロピカルで統一しろよ! なんで和とハワイをミックスさせたんだよ!」

 心の疑問が大きすぎて、思わず声も大きくなってしまった。青蝶あおちょうの生徒たちがこっちに顔を向けた。

「何だ、おまえら。もしかして白月か」
「何しに来たのよ」
「見せもんじゃねえぞ」


 副長は周囲の生徒たちを無視し、まっすぐ夜使野のところへ行くと、
「署名、してくれよ」と、紙を突き出した。

「はあ?」
 それが夜使野の第一声だった。思っていたより高い声だ。ミュージック係が空気を読んで、音楽を止めた。

「体育祭のチーム分け廃止の署名だ。青蝶の団長としてサインしろよぉ」
「嫌だけど」
 小馬鹿にするような半笑いで拒否された。まあ、そうだろうなあ。廃止しても彼らには何のメリットはないだろうし。

 さて、副長はこれにどう返すのだろう。
「そうかぁ……。困ったぜぇ」
 それきり副長は黙ってしまった。
「え? あれ? ん? もしかして副長、ノープランでしたか?」
「実は、そうなんだぜぇ」
 これは弱った。うちの班のリーダー、ちょっとダメな感じだった!

 青蝶の生徒たちも呆れて、中には笑い出す者までいた。夜使野のすぐそばにひざまづいて飲み物を持っていた女子生徒もたまらず笑い出す。

 すると、笑った弾みで飲み物をこぼしてしまった。それも夜使野の着物の上に。いかにも高そうな青い生地にみるみるシミが広がっていく。

「ちょっと! 何してんのよ!」
 夜使野は勢いよく身を起こすと、女子を叱責した。
「も、申しわけありません!」
 女子はすっかり震え上がり、深々と頭を下げた。さっきまでのゆるんだ空気は一変し、あたりはしんと静まり返った。

 女子はハンカチで夜使野の着物を拭こうとしたが、夜使野はハンカチを強引に奪うと、自分で拭き始めた。とんとんと叩くようにジュースをハンカチに吸わせていく。

「はあ、もうイヤになる。この着物、いくらすると思ってるの。あなたの親の年収より高いのよ。ジュースをかけるなんて信じられない。土下座しなさいよ」
「は、はい……」
 女子生徒が土下座すると、夜使野は面白くなさそうに見下ろした。

「このクズ。あなたを青蝶から除名するわ。白月に行きなさい」
「そ、そんな……私が白月だなんんて……イヤです、白月だけは……お願いします、どうか許してください!」
「許すわけないでしょ、あんたみたいなクズはもう白月よ」
 女子は土下座姿のまま泣き始めてしまった。夜使野はジュースの残りを彼女の頭に流しかけた。女子の泣き声がますます大きくなる。夜使野はつまらなさそうに笑った。

「ひ、ひどいです……」
 そう発言したのは、オモチだった。

「え、オモチ!?」
 俺が思わず声をかけると、オモチは俺を真っ直ぐ見上げてきた。長い前髪の間から覗く二つの瞳からは、いつもの気弱さが消えていた。何かを訴えようとする必死な目だ。
「だって、わざとじゃないのに、謝ってるのに、それなのに土下座させて、チームから追い出して、さらにジュースまでかけるなんて……」

 オモチは夜使野に向き直った。
「やりすぎです……」

 いじめられていたオモチは、土下座している女子に感情移入して抗議したくなったのだろうか。あるいは強者に対して「ひどいです」と正しいことを言っちゃう性格だからいじめられてしまったのか。

 どちらにせよ予想外に勇気があって、俺はすっかり感心してしまった。オモチ、やるじゃん。

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