性悪エリート高校の「たのしいうんどうかい」

ゴオルド

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第一部 青蝶編

18 副長とフードコート ―コーラと珈琲の見分け方―

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 青蝶から署名をもらえた。
 体育祭のチーム分け廃止に向けて、初の署名、最初の成功だ。
 
 残りは、あと3人。
 黄鹿きじか赤猪あかいの緑鳥みどりだ。

 教職員からも署名をもらわないといけないが、そっちは俺は今のところノータッチだ。でも、団長と2年生と3年生が動いているんだから、きっと何かしら進展していることだろう。謎の秘伝書もあるらしいし。
 ちなみに2年生と3年生には女子もいた。1年だけが全員男子である。副長ってすぐ脱ぐから、かえってそれで良かったのかもしれない。男だけだからセクハラとかで内部紛争に発展する危険はないだろうし……多分。……いや、委員長なんかは怒りそうだな……。


「順番からいくと、次は緑鳥みどりだなぁ」

 放課後、俺は副長とショッピングモールのフードコートに来ていた。景条館から坂をおりて駅のほうに向かう途中にある、ローカルショッピングモール「ぞるモール」の1階だ。
 ぞるモールのすぐ隣には「ぞるむ市役所」が建っているせいか、ぞるモールはどのフロアも客が多い。特に1階は土日平日関係なく常に混雑している。平日の夕方の今も、フードコートの席は半分以上埋まっていた。

 俺は今、フードコートの「ぞむぞむバーガー」近くの席に、副長と向かい合って座っている。お互い制服――先日衣替えがあったので、夏服だ。半袖の淡い黄色のシャツと、紺のズボンという出で立ちである。ほんと黄色と紺が好きだな、この学校。そういえば副長は金髪だから、髪の色が制服と合ってるといえば合ってる。


 今日の対団長班は、二人だけだ。イドは理々姫《りりひめ》という名のメイドに会うとかで学校そのものを早退、委員長は塾、オモチはピアノのレッスンがあるらしい。
 3人も不在なのだから活動は休みになるかと思ったが、副長は「じゃあ親睦でも深めるか」と言い出した。それで今、親睦を深めようとしているのだが、俺にはこれといって語るようなことがない。部活も塾も習い事も何もやっていないし。趣味も特にこれといってない。強いて言うなら激辛カレーに挑戦するのが好きなことぐらいか?  たまに自分でも作るぞ。両親には不評だが。あっ、あとトンカツもつくれるぞ。こっちの評価は普通だ。

「副長は塾とか習い事とかやってないんですか」
「やってないなあ。でもバイトはやってるぜぇ。今日もシフトが入ってるんだぜぇ」

 景条館ってバイト禁止だったはずだ。うちの担任もよく言ってるぞ、「高校生は勉強以外のことはするな。労働とか家事とか恋愛とか友達付き合いとか、そんなことをする暇があったら勉強しろ」って。いかにも景条館の教師が言いそうなことだ。

 しかし、バイトか。もしやそれが副長の白月入りの原因なんだろうか。

「ゼクウはどうなんだあ? バイトとかしてみたくないか?」
「まあ、そうですね、一度チャレンジしてみるのもいいかもしれません。でも、やるとしたら転校後ですかね」
 今は授業についていくのが精いっぱい……いや、ついていけてないな、大分置いてかれてるな、という状況なため、ちょっとでも取り戻せるよう予習と復習をするので余暇がほとんど潰れている。今の俺にはバイトをする余裕はなかった。白月の活動も始まったしな。

「転校なあ……」

 副長が周囲に視線をさまよわせた。適切な言葉を探しているみたいに。つられて俺もフードコートを見回した。ところどころ剥げた古びたテーブル、一部黒ずんだ椅子。食事をしている客は少ない。ほとんどの人は飲み物をテーブルに置いて、スマホを見たり、書類に何か書き込んだりしていた。テーブルに突っ伏して寝ている人もいる。
 ぞるモール内のスーパーで買い物した客たちが、椅子と椅子の間を縫うように歩いていく。


「……ゼクウは……」
 副長が何か言いかけたとき、
「番号札14番でお待ちの方~」
 ぞむぞむバーガーの人が叫んだ。大絶叫だった。呼び出しアラームなんてものは、このフードコートにはない。料理ができ上がったら店員さんが全力で叫ぶという古くさいシステムなのだ。
 副長がよろめくような不安定な姿勢で立ち上がり、年季の入った木製の番号札を持ってカウンターに行くと、注文した品を持ってきてくれた。

 長い腕でドリンク二つ、ポテトが一つ載ったトレーをテーブルに置くなり、
「どっちがアイスコーヒーで、どっちがコーラかわかんなくなったぜぇ」と言った。
 ちなみに副長が頼んだのはアイスコーヒーだ。
「ああ……。俺はどっちでも良いですけど、副長はコーラは苦手ですか?」
「炭酸は嫌いだなぁ。口の中が痛くなるからなぁ」

 ドリンクのふたを開けて、二人で凝視した。
「泡が……出てるほうがコーラですよ……」
「どっちも泡が出てないかぁ?」
「出てますね。そうだ、においで確認したらどうでしょう」
「おお……」
 副長は嗅ぎ比べてから、一つを選び、一口飲んだ。
「おおぉ……コーラだった……」
「ダメじゃないですか……」
 俺はアイスコーヒーのほうを副長に差し出して、コーラを受け取った。この人ほんとに学年トップなのか? なんか炭酸を飲んだせいかションボリしてるけど。

「で、何の話でしたっけ」
「バイト禁止って話だったか? 偏差値が75あると、バイトがばれても退学にならないんだぜぇ。そのかわり白入りしたけどなあ」

 やっぱりバイトのせいか。校則を破ってでもバイトをしたい理由があるのかもしれない。デリケートな話になりそうで、その辺は深く立ち入らず聞き流すことにした。

 副長は、俺から渡されたドリンクを飲んで、
「こっちもコーラだったぜぇ」と、悲しげにつぶやいた。

 ドリンクは二つともコーラだった。これには副長もションボリ2倍だ。

「ちょっと苦情を言ってくるぜぇ」
「あー、それなんすけど、副長」
「ん?」
「これ、二つとも俺が飲みますから平気ですよ。副長には新しくアイスコーヒー買ってきます」
 俺が立ち上がると、副長はテーブルに頬杖ついて、俺を見上げた。
「苦情を言って、交換してもらったほうが良くないかあ?」
「まあ、それもそうなんですけど。でも注文受けた子ってなんか気が弱そうだったし、怒られたら可哀想じゃないっすか」
 雰囲気がちょっとオモチに似てた子なんだよな。

「まあ、ゼクウの言いたいことはわかるけどなあ。しかし、それとこれは話が別じゃねえかな。反省する機会を奪うことになるのは、良いことかあ? 怒らずに指摘してやるのが相手のためになるんじゃねえかなあ?」
「そう言われると、まあ、確かに」

 副長は、うん、と頷いて、コーラを一つ持ち、ぞむぞむバーガーのカウンターへと行ってしまった。店員に何か告げると、店員が頭を下げて、副長からコーラを受け取った。

 オーダーを受けた子が奥から出てきて、副長に何度も頭をさげている。完全に血の気が引いた顔をしている。あー、やっぱ、ああなるよなあ。あの子バイト辞めたりしなきゃいいけど。


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