性悪エリート高校の「たのしいうんどうかい」

ゴオルド

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第一部 青蝶編

19 校則違反

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 副長はアイスコーヒーを持って戻ってきた。
 一口飲んでから、コップをテーブルに置いた。それと紙のチケットも。ローカルアイドルの写真と「ぞむぞむしちゃおう」というキャッチコピーの載ったそれは、ナゲット無料券のようだ。ミスのお詫びということなのだろうか。

「ゼクウは案外優しいな」

 そんなことを言われるとは思っていなかったから驚いた。優しいのか、これは? 自分ではわからん。ただ自分があのバイトが凹むところを見たくなかっただけなんだし、どっちかっていうと自分勝手なやつなんじゃねえか?

「優しくはないんじゃないですかね」
「いやあ、優しいさ。優しいか冷たいかでいったら優しいさ。ただ正しいか間違ってるかでいったら、ゼクウは間違ってるとは思うけどなぁ」
「むむ」
「でもそれも個性だし、魅力でもあるからなぁ。良いか悪いかで言ったら、悪くはねえなぁ」
「そういうもんですかね」
 副長が何を言いたいのかよくわからない。


「それで副長、次のターゲットの話ですが」
「ああ」
 副長はスマホを取り出して、写真を表示させた。やる気のなさそうな無気力っぽい男子生徒がそこには写っている。

 緑鳥みどりチームの団長は、真津村まつむら万音まねという男子生徒だ。

「緑鳥の団長は3年3組だ。浅羽あさばと同じクラスだなぁ」

 浅羽って誰だっけと思って、そういえば団長がそんな名前だったことを思い出した。団長はきりっとした雰囲気のなかなかの男前である。まじめそうだし運動部のエースみたいな見た目だから、チャラそうな外見の副長とは水と油かと思いきや、実際は仲が良さそうだ。ミーティングのときも二人は楽しげに話していたし。人は見かけによらないってこういうときにも言うんだっけ? ちょっと違うか。

 そもそもうちの団長ってどういう人なんだろ……。
 あのまじめなスポーツマンっぽい人が白月に入れられてるのって変だよな……。ああ見えて校則違反をしていたりして? そういえば対教師班の動きはどうなっているんだろうか。


「団長たちは教師と交渉してるんですよね」
「ああ」
 副長はコーヒーを覗き込むようにしながら飲んでいる。
「1年の俺が出しゃばるつもりはないんですが、進捗とかどんな感じなんでしょうか」
「複数の教師相手にいろいろ動いてはいるようだぞ。ただ、かなり慎重にやっているみたいだなあ。罠にかけられることがあったら大変だからなあ」
「罠って、どんな罠ですか」
「法律を盾にするような罠だなあ。たとえば教師の個人情報をネタに署名を迫ったら、脅迫罪や強要罪に該当するといって逆に脅されたりするからなあ」
 なるほど、いろいろ面倒なことがあるようだ。
「けっこう怖いですね……」
「まあなあ。でも浅羽はヘタは打たねえ。だから放置で良いんじゃないかあ?」
「はあ」
 結局わかったのは、副長は団長を信頼しているらしいということだけだった。

「じゃあ、話は変わるんですけど。緑鳥の団長はどういう人物なんですか」
「さあなあ」
 副長、ほんと情報収集源としては全然頼りにならないな。

「団長から何か聞いてませんか」
「ひょっとしたら聞いたかもしれねえが覚えてねえなあ」
 もう、どうしてくれようか。

「ああでも、校則違反にはうるさいらしいぞ」
 そんなミニ情報しかないのか……。


 副長はトレーを俺のほうへと押した。

「とりあえずポテトが冷めるから早く食えよぉ」
「ごちそうになります! ありがとうございます!」
 おごりのポテトを一切の遠慮もなく食べさせていただいた。こういうのは遠慮するほうがかえって失礼だ、と父が言っていた。信じるぜ、父ちゃん!

「おお……。飲むように食う……。やはりよく食う……イメージ通りだ……」
 副長は目を丸くして俺を見つめている。いや、観察している。動物園のふれあいコーナーにいるヤギを見るような目で俺を見ている。

「ナゲットも食うか?」
「はい、食います」
 副長はすぐさま買ってきてくれた。さっきもらった無料券を使ったようだ。遠慮なく食べる俺を見て、副長は「おお……」とつぶやいている。妙に嬉しそうだ。

「もしかして、副長ってフィーダーだったりします?」
「フィーダー? 給餌者という意味かあ?」

「ちょっと違って、他人を太らせるのが好きな性癖のことです」
「そういう専門用語は知らなかったぜぇ。いや、俺はフィーダーではないなあ」

「じゃあ、なんでそんなに嬉しそうなんですか」
「餌付けがうまくいきそうだからなあ」
 俺は餌付けされていたのか。ずいぶんと舐められたものだ。

「ゼクウは手懐けたら何でも言うことを聞きそうだからなあ。いい鉄砲玉になるだろうなあ」
 すごいカミングアウトをされているなあ。

「でもまあポテトとナゲット奢ってもらったし、俺、何かしてもいいですよ」
「何か? 俺にしてくれるのか? 本当に?」

 急に真剣な口調になった副長にじっと見つめられて、どきっとする。変なことを頼まれたら困る。それこそ運び屋とか頼まれても困る。校則違反通り越して法律違反は無理すぎる。

「いや、あの、ポテトとナゲット相応の何かですから、そんな大きいことは無理ですけど……」
 副長は真っ直ぐなまなざしで俺を見つめたままだ。なんだよ、なんか怖いんだけど。

「ゼクウ、おまえは白月の団長になってみる気はないか……もちろんゼクウが3年になったときの話だけどな」

 うおお、何を言い出すんだ、この人。

「だ、団長に? 俺がですか。いや、俺は転校しますし。っていうか体育祭のチーム分けは今年で終わらせるんじゃなかったんですか!」
 副長は、はっとした顔になった。
「あ、いや、そうか、それもそうだな。今年こそ署名を集めてみせるんだよなぁ。すまねぇ、失言だったなあ」
 副長が目を細めて、猫っぽい顔になった。そのときだった。


「そこの君たち!」
「は?」
 突然、知らない男が声をかけてきた。え、誰だ。男がスマホを構えると、シャッター音がした。俺と副長の写真を撮られたようだ。

「放課後に制服姿のままでの買い食い行為は校則違反だぞ。この件は学校に報告させてもらう!」

 どうやら景条館の生徒らしい。俺たちと同じ制服を着ていた。

「なんだてめえ、うちの副長の写真を勝手に撮ってんじゃねえぞ」
 俺がコーラのストローを折って、とがった折り目を喉元に突きつけようとしたら、副長が割って入ってきた。視界が副長の背中でいっぱいになる。そのせいでクソやろうの顔が見えない。

「おまえは緑鳥《みどり》のもんだな?」
 何だと!? 俺が前に出ようとしたら、副長は再び俺の肩を掴んで引き戻した。

「ゼクウは下がってろ。喧嘩になったら危ないからなあ」
「喧嘩なら俺だってやれますよ!」
「だから、むしろそれが危ないんだよなあ。ゼクウは傷害で逮捕されかねないからなあ」
「あ、そっちでしたか」

 うん、と頷いてから、副長は男に向き直った。

「おい、ここに緑鳥の団長を呼べよぉ。話があるからよぉ」
「断る。用件があるなら、そちらが出向くべきだよ。呼びつけるなんて失礼だろう」

「ひとを盗撮しといて、よく言うなあ」
「な! 盗撮だなんて人聞きの悪い!」
 男は気色ばんだ。

「でも、さっき俺たちを盗撮したよなあ」
 副長が俺に振ってきたので、全力で乗った。
「したした! された! きっとネットに写真をばらまくつもりだ! ネットいじめをやるつもりだな、最低だな! 俺、不登校になっちゃう!」
 男は盛大に顔をしかめた。副長が「不登校はもともとだろぅ」と小さく呟いたが聞こえなかったふりをした。
「この盗撮魔め! 変態っ! いじめ反対っ!」
「だ、だから人聞きの悪いことを言うな! 僕は校則違反の証拠をおさえただけだ! 君たち、よくもぬけぬけと他人の行いを批判できたものだな!」
 男は顔を赤くしている。すっかり興奮状態のようだ。
「だいたい盗撮などというが、このような場所での撮影は問題ないし、校則違反を取り締まるためという正しい目的もあるし、いかなる法令及び条例にも違反していない!」

 ううん、と副長は唸った。

「まあ、違法で悪質な盗撮とまではいえないことは認めざるを得ないけどなあ……」
「なに言ってんですか副長! 違法じゃないなら何してもいいんですか。合法でも盗撮は盗撮ですよ。相手の許可を得てないんだから許されざる大罪です! 法が許してもあったかい血の通った人の心が許さない! っていうか俺が許さん、そのスマホ、へし折ってくれるわ、クソが!」
 俺が男に襲いかかろうとしたときだった。

「何をやっているんだ、おまえたちは」
「……へっ?」

 ハスキーな声に振り向けば、そこにエコバッグを提げたうちの団長が立っていた。

 
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