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第1部 第36話

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あれから、馬車の車輪の修繕の為、皆が手分して手を貸してくれる人などを探したが、誰もアッシュたちへ手を貸す者はいなかった。



さっきまで、集落の人とも少し距離をつめれていただけに、この状況には、アッシュたちも肩を落としてしまった。



どうやら、誰かが集落の者とアッシュが距離を縮めたことで、アッシュと集落の者に対しての警告的な意味で、車輪の破壊をしたようだ。



今回の事件により集落の者は怯えてしまい、皆がまたアッシュを拒絶したのである。



こうなっては、この地の者に車輪の修理の協力は難しいと感じて、一同は、この集落に隣接する町へ修理部品を求め、また、今夜の宿も探しにいくことにしたのだった。



だが、その前に、壊れた馬車や荷物を預かって貰う人探しをしだすが、こちらも厳しい状況は変わりなくて・・・



今度は、集落にある駐屯騎士団の派出所を訪ねる事にしたのだった。



この集落は、トウの町の端にあたる事から、隣接した町との境界でのもめ事を視野にして、駐屯騎士団の派出所が置かれている。



なので、そこを頼り、一時預かりを申し出る事にしたのである。



だが、ここでも思わぬ態度で拒絶がされたのだった・・・公の機関であるにも拘らず。



「すみません。だから、本当に一晩で良いんですよ」



さっきから、アッシュは何度もこの言葉を騎士へ投げかけているが、騎士の方からは「いいや、ダメだ!」と断りの言葉しか返ってこずで、時間だけが空しく過ぎていくばかりだった。



しかし、もう後がないアッシュは何度断られても、負けじと彼らにしがみついていく。



「そこを何とか?」



お礼もするからと、頼むが、それには逆に悪い様に取られてしまう有様である。



「お礼?君は「平民議員」に立候補する身でありながら、俺に賄賂を渡すのか!」



騎士の言葉に、アッシュが逆に驚いてしまう。



「えっ!そんなことはないですよ。違いますから!」



慌ててアッシュも弁解しだすが、騎士はニヤリと笑いだして、尚も大声で言い続ける。



「最低だな!そんなことして、票を得ようとして。今までもそうやって来たんだろ!」



「そんなことしてません!やりませんよ!」



アッシュも言われてばかりではいられずに言い返すが、騎士の声量は大きく、アッシュの声はかき消される始末だ。



『まずいなぁ・・・』



アッシュは、状況の悪さに思案してみるが、追い込まれている身では名案が浮かばない。



『どうしよう・・・・』



考えれば、考える程、相手に隙を与えているのか、益々、分が悪い。



「あの、すみません。アッシュさん。お礼はこの様な状況を生むことになりますので、やはり差し控えましょう。ただ、こちらとしては、騎士の方にご協力を頂きたいだけなのですが」



アッシュが追い込まれてるのを助ける様に、ラドが、ここで漸く、口を挟んできた。



「なんだ!俺達はお前たちなんかに協力など出来んぞ!」



騎士は、偉そうな態度でラドに言い放つ。



「いや、そこを何とかお願いします。簡単なことなんです。ちょっと、今回、この地までの道のりが長くて、道中の寛ぎの為に菓子など用意してきたんですよ。それを持って、宿に行くのも荷物になるんで、処分したくて」



ラドはいつから用意していたのか、手伝い人に荷物を持たせて騎士の前に来させていた。



手伝い人がもつ荷物は、アッシュには見覚えのない物ばかりだ。



「菓子類が多いんですがね。王都で販売されてるものでね。日持ちもあまりしないんです。だから・・」



と、言いながら、騎士の目の前の机に、品を並べていく。



そこには、確かに王都で販売されているという、ハロルド商会の商品の菓子が並んでいく。



中には、煙草や酒類も並んでいて、アッシュも目を丸くした。



「こちらをここで処分、お願いしたいのですが?」



騎士はラドの美しい顔に呆けている。



「いいの、か?ほ、本当に捨てて・・」



ごくりと、騎士が唾を飲み込む音が聞こえた。



「ええ、お願いします。あと、お願いついでに、馬車も一晩預かって頂けると、尚、嬉しいんですがね?」



ラドは、とても綺麗な笑顔を騎士に見せたのだった。



「さっきは、その、助かったよ・・」



隣接する町に、手伝い人たちと共に徒歩で向かいながら、アッシュがポツリと呟く。



「いえいえ、私は、アッシュさんの秘書ですからね」



お気になさらずにと軽い言葉で、ラドはアッシュに向けていう。



「しかし、あの集落は酷いですね。搾取されまくりで」



ラドが呆れて、集落の者から聞いた話を思い出しながら話し出す。



さっきの騎士の様子からも、騎士自体もやつらに飼いならされているように見受けられる。



今回ラドが機転を利かせて、色々と小道具を用意してくれて、上手い具合に騎士を引き込んでくれたから良かったが、下手すりゃ、何泊もこの地で足止めされて、また、その間には、手汚い仕打ちを浴びせられていたかもしれないと思うと、本当に腹たたしい。



アッシュたちは今日一日行っただけで、こんな卑劣な行為を受け怒りが爆発しそうなのに、この集落では理不尽なことが頻繁にあるという。それでは、本来救いとなる「平民議員」が嫌われるのも無理はない。



おまけに・・・



「最近は、酪農事業を実質運営しているウラスの弟夫婦も追い込まれている話もありましたね」



ラドがまたポツリと話を再びし出す。



「そんな話もしていたな」



そう、ケーシー一族が営む酪農事業、社長と名乗っているのは、ケーシーの父、前「平民議員」のウラスだが、彼は名ばかりで、その運営は彼の弟が家業を引き継ぎ、懸命に営んでいるという。



ただ、そんな弟にも『上納金』と呼ばれるものを重く押し付けているようで、弟は資金繰りに頭を悩ませているようだ。



そして、それを強いているのは、どうやら彼らの叔父であるジムラルであると聞いた。



『なんて事だ!、寄りによって、公人の立場の人間が搾取側にいるなんてな!』



アッシュは再び、苛立ちを募らせていく。



「どんどん、「平民議員」の素性が見えてきましたね?」



「本当にな。何とかしないとな・・」



アッシュとラドが顔を見合わせて頷き合う。



今日は取り敢えず、車輪の換えを探してから、宿で一夜を過ごし、明日、朝早くに宿を出て車輪を交換してから、あの集落を出る。



アッシュたちはそう計画を立てて、予定通りに進められるように、それぞれが仕事をこなしていったのだった。

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