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第1部 第54話

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猛スピードでやって来ましたケーシー一族が運営する酪農業の地。



以前、この地に来た時は、とっても酷い事件に遭遇した。



今日はその事件の犯人との対面and示談交渉ということで訪れたのだが・・・



大きな酪農業を営むケーシー一族は、この地では一番大きな事業主で、この集落のほとんどの者が何かしらで携わっているようだ。



そんな事業のトップは、ウラスが名ばかりで務めているみたいだが、実質の運営は、ウラスの弟夫妻が切り盛りしているという。



前回の訪問では、その一族の者とは、アッシュらとしては顔を合わせることもなかったんだが、知らない間に、馬車の車輪を壊されるという行為をされたりと、どうやら、相手からは接触されていたようだ。



そんな訳で、ウラスの実家にやって来たのだが・・・



大きな屋敷は屋敷なんだが、何てのだろうか、正に、田舎の成金?的な調度品の数々に呆気にとられる。



例えば、屋敷に入ってすぐに、初代「平民議員」となったハッサンの銅像があったり、何かわかりにくい木彫りの置物があったり、大きな花瓶?壺?なども廊下のあちこちに置かれている。



極めつけは、歴代の「平民議員」たちの肖像画が何枚も掲げられている。



同じ人物ばかり、そんなに要らないだろうと思う位にだ。



「しかし、趣味の悪い家だな」



そんな屋敷内を見渡しながら、ラドが平然と言い捨てる。それには、アッシュが一気に蒼褪めてしまった。



それもそうだ、突然の訪問の上に、現在、アッシュたちは、この屋敷の使用人に案内されながら、応接室を目指してる最中だからだ。



「お、お前、口を慎め・・」



アッシュは小声にして、ラドを叱るが。



「いやでも、これはなァ・・」



と言いながら、ラドが見つめる先には、大きな牛?的なものが描かれた絵があった。



しかも、牛さん?が真正面で、胴体は描かれていない独創的な作品だ。



「へえー、これ、ハッサンてのが描いたんだってさ」



ラドが立ち止まり食い入る様に見つめる。



アッシュも立ち止まるが、何て言えばいいのかわからない・・・



「私は芸術の類は全く造詣がないので、すまないが、意見は差し控えるよ」



何て言って逃げた、アッシュ。



「こちらは、ハッサンさまが6歳の年に描かれたものです」



使用人の言葉に、ラドは吹き出し、アッシュは妙な汗と共に顔を赤らめた。



「6歳のガキの絵に、造詣とかって・・・あはは」



目に涙を浮かべながら笑うラドに、アッシュは口角を上げて睨みつける。



と、まあ、何とも言い難い品が所せましに置かれている屋敷の中を案内されて、二人は漸く、応接室に辿り着いた。



暫く、応接室で待っていると、壮年の男と、そして、アッシュらと年が変わらない年代の男女が入って来た。



「はじめまして、ウラスの弟のハンスと言います」



壮年の男は、どうやらウラスの弟らしいが、ウラスと違い、威圧感は見られない。



「あと、こっちがうちの娘夫婦です」



ハンスは、自分の後ろに控える男女を紹介した。



すると、娘夫婦の夫の方が、苦々しい顔を見せながらも、ハンスの前に一歩踏み出してきたのだった。



どうやら、この人物が犯人のようだ・・



「この度は、うちの義息子が大変な事をしでかして、大変申し訳ありませんでした」



ハンスが、義息子の代わりに頭を先に下げる。



その姿を見て、娘の夫も静かに頭だけ下げだした。



「頭を上げて下さい」



アッシュは時間の経過もあってか、当時ほどの怒りもなく、また、彼らの態度も謝罪に値するものだったので、取り敢えず、和解の方向で話を進めるべきだと踏んだ。



「あのう、つかぬ事を伺いますが、これはケーシー事務所からの指示だったんでしょうか?」



アッシュの問い掛けに、ハンスは思わず、義息子に目をやる。すると、娘の夫は、首を横に振り出した。



「いいえ、俺の独断です。あなたには悪いと思ったんだが、集落の皆の話が聞こえてきて、皆が「平民議員」に対していってる言葉に焦ったというか、で」



娘の夫は、そう言いながら大きく項垂れていく。その夫の姿を見た娘が夫の肩を支えた。



「すみません。主人がこんな事したのは、うちのせいなんです!お、叔父が色々と難題を突き付けて、集落の人も、段々と愛想をつかしてきていて。そこに、あなた方が来られて・・・」



娘は目に涙を溜めて話をし出した。



「うちの酪農事業、集落の人が居てこその事業なんです。けれど、叔父さん達はやりたい放題で搾取ばかりするわで、人も減っていくし、だから、皆はうちの一族に対してよく思っていないことはわかっていたんです。だけど、あの日、主人は、皆の言葉を聞いて怖くなったんです。こんな話が、叔父に伝わったらって。それで、皆に忠告する意味で・・・」



「本当に申し訳ありませんでした」



妻の話が終わるころ、夫は、もう一度、大きく頭を下げた。



「ふーん」



ラドはハンスたちを見ながら呟いた。



「まあ、済んだ話を、あれこれ蒸し返すのもどうかと思うがね」



長い足を組みながら、ラドは目を細めて相手を睨みつける。



「あんたらさ、ケーシーらの身内なんだろ?だったら、この集落のことをもっと、その叔父に言えよ!皆を守るように動けよ!」



ばっかじゃねーの?と、最後は暴言まで吐いていた。



ラドが呆れた風に、最後はケッと唾まで飛ばしていく。



そんなラドに、アッシュも少しため息を零してはみるが、ラドの言い分はよくわかるし、自分もそう感じた。



だから、アッシュも彼らに向けて、少し言いたい事を言ってみることにした。



「先日、この地に来た時に、私も集落の人から伺いました。正直、驚きました「平民議員」のお膝元の地が廃れていて。私はこちらに来る前に、多少の覚悟はあったんです。自分に向けてくる敵意はね。でも、実際は違ってて、「平民議員」に対して、皆良く思ってないんだって。それ聞いて、これじゃあ、ダメだと思ったんですよ。「平民議員」が嫌われてるなんて、絶対にあってはいけないって。変えていかないといけないって。そう思ったんですよ。私は皆がもつ「平民議員」の意味を変える。だから、あなたたちも、うちの秘書の言う通り、一族として、この地を変えていくべきじゃないかと思いますよ」



ちょっと、アッシュは自分は気障な言い回しをしたんじゃないかと思ってしまったが、まあ、そこはご愛敬でいいかと思うようにした。



アッシュとラドの言葉が彼らに伝わるかどうかはわからないが、誰かが背を押す役目も必要なんじゃないかと思い、彼ら二人なりにハンスらへ向けた愛ある鞭だった。



「変えれることが出来るのだろうか・・・」



アッシュらの言葉に、ハンスたち親子はそれぞれが苦悩する表情を浮かべていた。



誰かが動かねば変わらない。大事な物が失われる・・・



きっと、彼らもそれはわかっているはずだと、アッシュたちは思った。



終始重い雰囲気の中での対面ではあったが、最後にはきちんと、訪問目的であった馬車の車輪の修繕費や宿泊費など含めた示談金も頂戴したアッシュとラドは、日が沈み掛ける頃に、ハンスたちが住まう屋敷を後にすることにした。



ただ、これから、トウの町の中心地にある事務所を目指すことに、アッシュが怯み出したのだった。



「これからだと、夜半になるんじゃないか?昼間の様な速度では、私は走れないよ。ここは一泊しても・・」



と、提案してみると。



「わかった、宿泊な。明日、朝一で、今日よりも速く馬飛ばしたらいいから、今夜は泊まるか!」



ラドがニタっと笑ってそう返してきた。その姿に、アッシュは思わずたじろいでしまう。



「あっ、やっぱり、皆が心配するから、今から帰ろう・・・」



アッシュがそう言いながら、馬上に乗り込んでいく。少し、顔色は悪く、肩が落ちてるように見えるが・・・



その姿に、ラドはくくくっ・・と笑いながら、同じく馬へと飛び乗った。



そして、二人は、日が沈む最中、トウの町の中心部を目指すのであった。

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