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駄1部 第75話

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アッシュらと遭遇してから、ケーシーは選挙活動の取り組みに力が入らないでいた。



もう、活動に費やす日がないというのにだ。



自分は、この選挙活動中、違反などもせずに真っ向から立ち向かってきた。



だが、自分の見えない所で、身内による犯罪行為が横行していたのを知った。



いや、本当はわかっていたんだ!



だけど、自分には止められなかった。



止める術がわからなかった。



だって、自分は生まれた時から、この環境に居て、それが当たり前であったから。



うん、言い訳であることもわかっている。



自分がバカで、意気地がないことも・・・



だけど、今だけ目を瞑り、自分が「平民議員」へとなった際には、父や叔父がしてきたことから手を引き、自分は自分の思い描く「平民議員」になればいい、いや、なってやる!



そう思いこむ事で、この選挙を乗り越えてやろうと、あの日、ケントにあった日にそう決めた。



だけど、アッシュらと会った時、隠している嘘がバレない様にするために、自分から出る言葉は何故か、自分を追い込む有様だった。



それに対して、アッシュらに詰め入られてしまい、逃げ場がなく感じた時、焦りから、アッシュの秘書の胸倉を掴んでいた。



あの時、アッシュに止めに入って貰わなければ、俺は、あの秘書に手を上げていたと思う・・・



普通にしていればいい、普通に・・・



そう思えば思う程、隠していることがいつ暴かれるかと心が平常ではいられない。



そこを、あの秘書は感じて俺を煽ってきた。そして、まんまと術中に嵌りかけた。



「チクショー・・」



ケーシーは、自分の手を見つめていた。



ずっと、幼い頃からの夢だった。



自分は、祖父や父らと同じく、「平民議員」として生きていく。



自分には決まった将来があり、これは誰にも奪われる事のない未来なんだと・・・思っていた。



だけど、今の俺にはこの未来が見えない。



俺は何も悪い事をしていないのに、俺はアッシュのように、正々堂々と前を向けない。



アッシュのように、多くの者から信頼も得れてさえいない。



悔しいが、何一つ、俺はアッシュに敵わない。



あぁ、どうしたらいいんだ。



ここに来て、逃げ出せるのか?



いいや、無理だ。



『全ては、お前の勝利の為だよ』



ケントの言葉が甦る。



そう、俺が「平民議員」となる為に動いていたんだ。



いつも苦しそうな顔を見せていた父の弟であるハンス叔父さん。



人が良いと評判だった社長のサンテさんも、息子の自殺未遂から体調を崩してしまった。



パーティ―での選挙活動の資金集めに失敗してから起こった町での税金トラブル。



ははは・・・全部、俺の為に起きたこと。



知らなかったじゃない。知っていたし、見えてもいたさ。



どうしようもない。どうにもできない。



『勝たなきゃならない』



色々な人の憎悪の目がケーシーに向かってくるように見える。



こ、こわい。



逃げたい、けど、もう逃げられない。



ケーシーは耳を塞ぎ蹲る。



『助けてくれ!』



誰でもいい、自分をこの深い闇から救いだしてくれ!



ケーシーは暗い闇の中にぽつりと居た。



光が差さない場、そこにぽつんと一人置き去りにされてしまった。



『だ、誰か・・・』



闇が広がる中、ケーシーが救いを求めて手を差し出すが、そこには誰も存在していない。



『あぁ、誰か俺を見つけてくれ!』



暗い中、彷徨うケーシーだが、光も人も見当たらない。



『はあ、俺はこれからもずっと、この闇から出られないのか・・』



ふっと、そんな事が頭を過りケーシーは絶望し掛けた。



だが、どこからか声がした。



『互いに色々とあったが、これまで通り、正々堂々と最後の日を迎えようじゃないか?』



「アッシュ?」



声が聞こえた方を見る。



そこには、白い光が降り注ぐ。



ケーシーは無我夢中で、その光に手を伸ばそうとした・・・



「オイ!、ケーシー起きろ!」



自分を呼ぶ父ウラスの大きな声だった。



「しっかりしろ!もうすぐ、町での投票が開始されるぞ!」



父が、尚も怒鳴るような声で伝えてくる。



そうか、今日は投票日か・・・



アッシュと遭遇してから、ケーシーは自分の行動が上手く思い出せないでいた。



あの時、もう投票日まで数日だった。



そして、今日、自分の運命が決まる日が来ていた。



父ウラスは、息子が意識が定まずぼーっとしている姿を見て、大きく舌打ちをした。



その舌打ちに、ケーシーは我に返り父の顔を見ると。



ケーシーの目に映る父は不敵な笑みを携えている。



「心配するな。手は打っている。お前は、私の後を継いで「平民議員」として生きていけばいいんだ」



ウラスは息子に向けて、今度は優しい言葉を掛けた。



だが、ケーシーにはその言葉が何よりも辛く、苦しいものだったことを、父ウラスにはわからなかった。

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