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第1部 第77話
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自分は、生まれた時から平民議員としての地位が約束されていた。
うちの家系ではハッサンという、わしからしたらひい祖父さんに当たる男が、このトウの町で初めて「平民議員」という国が作った平民の中では最高に高い地位を手にしてから、それからは、ずっと我が家がその「平民議員」の立場を継いできた。
だから、自分の将来は、自分で考えることもなく決まり、その将来の為に必要な物は当たり前に自分に齎されていた。
はっきり言って、苦労なんかしたこともなかった。
親父も、祖父さんも、中央で「平民議員」として活躍し、その功績を称えられて、この町では、何でも思い通りになっていた。
そんな姿を見て、自分の未来も変わらないものだと思っていた。
それからも環境は良くも悪くもならず、自分も年月と共に成長し結婚を機に、親父から「平民議員」の地位を受け継ぐことになった。
そして、案の定、「平民議員」の地位は、何の努力もせずに自分の元に転がり込んできた。
何て、人生は楽に生きれるんだ!と、笑いが込み上げてきたくらいだった。
だけど、自分は知らなかった。「平民議員」の本当の姿を・・・
トウの町では、自分は「平民議員」を輩出してきた一族で、平民の中ではエリート扱いでずっといた。
でも、王都で見せられた「平民議員」の立場は、立場などないも等しいものだった。
中央の政治の場では、領地などを持もつ、中央で多少なりとも力をもった「貴族議員」と、財力だけに留まらず、王家でさえも発言や行動には慎重になるとされている程の派閥を率いる高位貴族が大臣職を務めていて、何事に於いても貴族中心に政治が動いて行く様には、「平民議員」の入る術はなかった。
どこの町の「平民議員」も、自分の故郷を売り込み、中央からの仕事を持ち帰ることなんて出来なかった。
悔しいというより、歯が立たない、締め出しの状態には笑う他なかった。
まあ、自分自身もどうにかしたいと言う意志もなかったし、後から聞いたら親父たちも、現実を見て、中央では何もしないことが一番いいのだと思ったと聞き、それで過ごせるのなら、それでいい。と思っていた。
そんな思いを持った時期、ジムラルの叔父に呼び出された。
自分は昔から、この叔父に可愛がられていた事もあり、叔父に凄く懐いていた。
だから、叔父に呼び出された時に、中央での立場の無い「平民議員」の話も何気なくしてみたら・・・
そしたら、偉く、叔父が憤慨したのだった。
今思えば、叔父は自分よりも野心があったんだろうな。
トウの町で、役場というなかなか就職するにも難関とされ、平民にしたら憧れの職場で勤めていたのにだ、叔父ジムラルは、そこで妥協するつもりはなかったようで。
気付いたら、王都にいる自分のところに、叔父は頻繁に顔を出して、色々な伝手を得て、パーティーなどに引っ張られて行った。
そんな時だった、ある高位貴族の従者に声を掛けられたのは。
自分に、中央の政治の場で発言をして欲しいと。
その時は、驚いて、言葉が出なかったのを今も覚えている。
良く考えも理解もしないまま、あの時は、従者に齎された話を聞いて、一種の興奮状態のようになっていたのだと思う。浮かれた気持ちで、その申し出を叔父と共に承諾し、自分は言われた通り、その頼まれたことを成し遂げた。
すると、これまで、誰もが自分に注目しなかったというのに、急に、周りの態度がガラリと変わり出した。
驚きと共に、今までに得た事のない感情が押し寄せ、自分の中にあるプライドがそれにより歓喜した。
あぁ、自分は、他の者とは違うんだ。誰も成し得れなかった「平民議員」の立場を、自分は変えたのだと!
その時は、お膳立てされての成功だという事も忘れ、自分に酔いしれていたんだ。
今までと違う中央での立場、また、皆からの注目や称賛が欲しくて、発言の機会を再び得る為に、自分は、叔父と共に、その高位貴族に付き従い、いつの間にか飼いならされていったのだった。
気付いた時には、叔父は王都での生活に加え、女まであてがわれて、完全に、奴の思いのまま動く存在に成り下がって、喰いものにされていた。
いや、叔父だけではない、自分も、ううん、自分たちの故郷のトウ全体が喰いものにされてしまっていた。
結局、自分で作り上げたと思った「平民議員」の地位は、貴族の奴隷のような扱いになっていた。
そうさ、わかっていたさ。これ以上、この「平民議員」にしがみ付いていても、自分は奴隷のままだと。
だけど、あの時に得た中央の連中の眼差し、自分を称賛するあの声、どうしてもこの手に再び取り戻したい。
自分は、他の「平民議員」とは違う存在だ。
その為なら、何でもする。
それに、皆も許してくれるはずだ。
そう、自分に言い聞かせるようにこれまでもやって来た。
息子にも、自分のように、わしの子なのだから、同じように特別な存在となれ!、と。
その為に、自分は、何だってする。
発言力があり、力の強い存在になれば、きっと、町も人も全てがうまく回る。
だから、絶対に、この勝負には負けられない。
ウラスが、アッシュを憎悪の目で睨みつける。
「お前は、一体、何を知っているんだ!「平民議員」の立場も、本当のことなんて何も知らない癖に。綺麗ごとだけでは政治の場では勝てないんだぞ!」
「私は何も知らない。役場で勤めていながらも、何も知らなかった。だけど、知ったからには変えてやる。変えて見せる!」
アッシュの言葉に、ウラスは鼻を鳴らして笑う。
「何がお前に出来るんだ。金も力もコネも、何にもないお前に。わしが作り上げた功績を超えられるのか?わしが作った功績を超えて、お前が、「平民議員」としての地位を作れるとでもいうのか?お前なんかに出来るというのか!」
「父さん!もういい加減にしろよ!」
父が、アッシュに向けて放つキツイ言葉に対して、とうとう、ケーシーも我慢ならずに割って入ったのだった。
「何がいい加減にしろだ!わしは、こいつにわからせているだけだ!綺麗ごとを並べる癖に、裏では、横領などに手を染めて、そんな奴が「平民議員」になっていいのか?「平民議員」になる資格すらないわ!」
「私は、横領なんてしていない!」
ウラスから出た横領の言葉に、アッシュはここに来て、初めて弁明を述べた。
「誰かが、私に罪を着せたんだ!」
「ほう?それは誰なんだ?聞いた話では、役場の者皆で、お前が作成した横領に繋がる書類を見つけたようじゃないか?お前は、役場勤めの頃から、疑われていたのかな?」
ニタニタと笑うウラスに、アッシュはこの上ない怒りが込み上げる。
「仕組まれたと言っているだろう!」
「役場の皆にか?」
せせら笑うウラスの姿が、憎々しい。
「父さん!」
ケーシーが挑発するウラスを止めようとするが、ウラスは聞く耳を持たない位に、興奮状態になってきている。
「煩い!お前は、黙って、わしの後を引き継げばいいんだ!」
「嫌だ!だったら、辞退してやる!こんなことやってられるか!」
そう言って、ケーシーはウラスの元に行き、父の体を突き飛ばした。
ウラスは、驚きと共に、急な息子から受けた行為に耐えれず、大きく尻を地面に打ち付けた。
「ケーシー!何を言っているんだ!わしに逆らうのか!わしがお前の為にどれだけ手を尽くしたか解っているのか!」
ウラスは地面から起き上がることが出来ないでいたが、口は動くようで、今度は息子相手に罵り出す。
「あぁ、知っているさ!汚いことして築いてきた「平民議員」の立場のことを!」
ケーシーは父に向けて、軽蔑の眼差しを向けていた。
「お前、何を言っているんだ・・」
ウラスがここに来て、漸く、狼狽えるような声を出した。
その姿に、ケーシーはぐっと唇を噛みしめてしまい、言葉が出せないでいた。
そんな時だった。
「遅くなった」
近くで馬車を止めて、体が弱っている所長を支えながらアッシュの元に、漸く戻って来たエディがそう声を掛けたのだった。
うちの家系ではハッサンという、わしからしたらひい祖父さんに当たる男が、このトウの町で初めて「平民議員」という国が作った平民の中では最高に高い地位を手にしてから、それからは、ずっと我が家がその「平民議員」の立場を継いできた。
だから、自分の将来は、自分で考えることもなく決まり、その将来の為に必要な物は当たり前に自分に齎されていた。
はっきり言って、苦労なんかしたこともなかった。
親父も、祖父さんも、中央で「平民議員」として活躍し、その功績を称えられて、この町では、何でも思い通りになっていた。
そんな姿を見て、自分の未来も変わらないものだと思っていた。
それからも環境は良くも悪くもならず、自分も年月と共に成長し結婚を機に、親父から「平民議員」の地位を受け継ぐことになった。
そして、案の定、「平民議員」の地位は、何の努力もせずに自分の元に転がり込んできた。
何て、人生は楽に生きれるんだ!と、笑いが込み上げてきたくらいだった。
だけど、自分は知らなかった。「平民議員」の本当の姿を・・・
トウの町では、自分は「平民議員」を輩出してきた一族で、平民の中ではエリート扱いでずっといた。
でも、王都で見せられた「平民議員」の立場は、立場などないも等しいものだった。
中央の政治の場では、領地などを持もつ、中央で多少なりとも力をもった「貴族議員」と、財力だけに留まらず、王家でさえも発言や行動には慎重になるとされている程の派閥を率いる高位貴族が大臣職を務めていて、何事に於いても貴族中心に政治が動いて行く様には、「平民議員」の入る術はなかった。
どこの町の「平民議員」も、自分の故郷を売り込み、中央からの仕事を持ち帰ることなんて出来なかった。
悔しいというより、歯が立たない、締め出しの状態には笑う他なかった。
まあ、自分自身もどうにかしたいと言う意志もなかったし、後から聞いたら親父たちも、現実を見て、中央では何もしないことが一番いいのだと思ったと聞き、それで過ごせるのなら、それでいい。と思っていた。
そんな思いを持った時期、ジムラルの叔父に呼び出された。
自分は昔から、この叔父に可愛がられていた事もあり、叔父に凄く懐いていた。
だから、叔父に呼び出された時に、中央での立場の無い「平民議員」の話も何気なくしてみたら・・・
そしたら、偉く、叔父が憤慨したのだった。
今思えば、叔父は自分よりも野心があったんだろうな。
トウの町で、役場というなかなか就職するにも難関とされ、平民にしたら憧れの職場で勤めていたのにだ、叔父ジムラルは、そこで妥協するつもりはなかったようで。
気付いたら、王都にいる自分のところに、叔父は頻繁に顔を出して、色々な伝手を得て、パーティーなどに引っ張られて行った。
そんな時だった、ある高位貴族の従者に声を掛けられたのは。
自分に、中央の政治の場で発言をして欲しいと。
その時は、驚いて、言葉が出なかったのを今も覚えている。
良く考えも理解もしないまま、あの時は、従者に齎された話を聞いて、一種の興奮状態のようになっていたのだと思う。浮かれた気持ちで、その申し出を叔父と共に承諾し、自分は言われた通り、その頼まれたことを成し遂げた。
すると、これまで、誰もが自分に注目しなかったというのに、急に、周りの態度がガラリと変わり出した。
驚きと共に、今までに得た事のない感情が押し寄せ、自分の中にあるプライドがそれにより歓喜した。
あぁ、自分は、他の者とは違うんだ。誰も成し得れなかった「平民議員」の立場を、自分は変えたのだと!
その時は、お膳立てされての成功だという事も忘れ、自分に酔いしれていたんだ。
今までと違う中央での立場、また、皆からの注目や称賛が欲しくて、発言の機会を再び得る為に、自分は、叔父と共に、その高位貴族に付き従い、いつの間にか飼いならされていったのだった。
気付いた時には、叔父は王都での生活に加え、女まであてがわれて、完全に、奴の思いのまま動く存在に成り下がって、喰いものにされていた。
いや、叔父だけではない、自分も、ううん、自分たちの故郷のトウ全体が喰いものにされてしまっていた。
結局、自分で作り上げたと思った「平民議員」の地位は、貴族の奴隷のような扱いになっていた。
そうさ、わかっていたさ。これ以上、この「平民議員」にしがみ付いていても、自分は奴隷のままだと。
だけど、あの時に得た中央の連中の眼差し、自分を称賛するあの声、どうしてもこの手に再び取り戻したい。
自分は、他の「平民議員」とは違う存在だ。
その為なら、何でもする。
それに、皆も許してくれるはずだ。
そう、自分に言い聞かせるようにこれまでもやって来た。
息子にも、自分のように、わしの子なのだから、同じように特別な存在となれ!、と。
その為に、自分は、何だってする。
発言力があり、力の強い存在になれば、きっと、町も人も全てがうまく回る。
だから、絶対に、この勝負には負けられない。
ウラスが、アッシュを憎悪の目で睨みつける。
「お前は、一体、何を知っているんだ!「平民議員」の立場も、本当のことなんて何も知らない癖に。綺麗ごとだけでは政治の場では勝てないんだぞ!」
「私は何も知らない。役場で勤めていながらも、何も知らなかった。だけど、知ったからには変えてやる。変えて見せる!」
アッシュの言葉に、ウラスは鼻を鳴らして笑う。
「何がお前に出来るんだ。金も力もコネも、何にもないお前に。わしが作り上げた功績を超えられるのか?わしが作った功績を超えて、お前が、「平民議員」としての地位を作れるとでもいうのか?お前なんかに出来るというのか!」
「父さん!もういい加減にしろよ!」
父が、アッシュに向けて放つキツイ言葉に対して、とうとう、ケーシーも我慢ならずに割って入ったのだった。
「何がいい加減にしろだ!わしは、こいつにわからせているだけだ!綺麗ごとを並べる癖に、裏では、横領などに手を染めて、そんな奴が「平民議員」になっていいのか?「平民議員」になる資格すらないわ!」
「私は、横領なんてしていない!」
ウラスから出た横領の言葉に、アッシュはここに来て、初めて弁明を述べた。
「誰かが、私に罪を着せたんだ!」
「ほう?それは誰なんだ?聞いた話では、役場の者皆で、お前が作成した横領に繋がる書類を見つけたようじゃないか?お前は、役場勤めの頃から、疑われていたのかな?」
ニタニタと笑うウラスに、アッシュはこの上ない怒りが込み上げる。
「仕組まれたと言っているだろう!」
「役場の皆にか?」
せせら笑うウラスの姿が、憎々しい。
「父さん!」
ケーシーが挑発するウラスを止めようとするが、ウラスは聞く耳を持たない位に、興奮状態になってきている。
「煩い!お前は、黙って、わしの後を引き継げばいいんだ!」
「嫌だ!だったら、辞退してやる!こんなことやってられるか!」
そう言って、ケーシーはウラスの元に行き、父の体を突き飛ばした。
ウラスは、驚きと共に、急な息子から受けた行為に耐えれず、大きく尻を地面に打ち付けた。
「ケーシー!何を言っているんだ!わしに逆らうのか!わしがお前の為にどれだけ手を尽くしたか解っているのか!」
ウラスは地面から起き上がることが出来ないでいたが、口は動くようで、今度は息子相手に罵り出す。
「あぁ、知っているさ!汚いことして築いてきた「平民議員」の立場のことを!」
ケーシーは父に向けて、軽蔑の眼差しを向けていた。
「お前、何を言っているんだ・・」
ウラスがここに来て、漸く、狼狽えるような声を出した。
その姿に、ケーシーはぐっと唇を噛みしめてしまい、言葉が出せないでいた。
そんな時だった。
「遅くなった」
近くで馬車を止めて、体が弱っている所長を支えながらアッシュの元に、漸く戻って来たエディがそう声を掛けたのだった。
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