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番外編 後日譚
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偵察に出した兵の報告によると、約百名の一団は粛々とこの砦に近づいている。今しも、砦前の街道を囲んだ広く草茂る平地に達しようというところだ。
尖兵の指揮を執る中隊長は、五百の兵を率いて砦の門を出た。
近づく一団は平地の半ばまで進み、砦側の尖兵隊と二百ガターほどの距離を置いて足を止めた。
確かに正規の軍らしい、と中隊長は判断する。
揃って金属と革を合わせた鎧を身につけ、前方の者は盾や弓矢をすぐ構えられる状態で携えている。二本立てた旗の印は、旧リュシドール子爵領のものだ。
弓矢を構えた兵を連れて、中隊長は前に出た。
それを見て、向こうの集団からも大将らしき男が一歩前に出た。
「某はこの軍を預かる中隊長、バシュラールである。我が領地を脅かす不審な一団、何者であるか」
「リュシドール子爵領領軍小隊長、エテュアンと申す。我々は子爵家の正統な後継者ランベール・リュシドール様を将に抱き、ルドワイヤン伯爵家、モクレール子爵家、ミュラトール子爵家の友軍を加えたリュシドール子爵領領軍である。こちらの不法な占拠をやめ、直ちに領都を明け渡していただきたい」
「この地は我がミニョレー伯爵領が領有するものである。そのような要求を聞くことはできぬ」
「聞き届けられぬとあれば、交戦やむなし」
「承った。応戦しよう」
頷き、両隊長とも表情を変えずに軍の中に下がる。
本来の領地間の戦闘であればもっと改まった七面倒なやりとりが重ねられるはずだが、今回の相手はわずか百名、そこらの農民一揆や野盗の襲来と大差ない。中隊長としては短時間で一蹴して終える心積もりだった。
間もなく敵軍の先頭が盾を構え、全員足を揃えて小走り程度の速度で前進を始めた。
わずかに態勢を整える隙間に、やや妙なものが見えた。先頭の盾のすぐ後ろ、数台の荷車のようなものが続いている。
少しだけ首を傾げながら、中隊長は命を発した。
「弓隊、前へ!」
「はっ!」
五十名ほどの弓隊が前に出て横三列の並びとなり、交替で次々と矢を放つ。敵軍は進み足を緩め、先頭に並べた盾でそれを受けた。
相手からも矢が飛んでくるが、射撃数も圧倒的な人数差に比例する。砦側の絶え間ない攻撃に、少人数の敵軍は徐々に足を進められなくなっていた。
「行け、一気に鎮圧せよ!」
「はっ!」
並んだ弓隊の隙間から、盾と剣や槍を構えた歩兵が数十名、一斉に駆け出した。背後から弓矢の牽制が続き、剣の攻撃兵はさらに後ろに準備されている。これだけですぐに敵の人数を数倍する勢いで、早々に決着はつくだろう。
ほとんど切れ切れとなった敵の射撃を盾で防ぎながら、もう先頭の兵はあと数十ガター程度まで迫っている。
うおおーー、と吶喊の声が蒼天に高々と揚がる。
次の瞬間、だった。
「ぎゃあーーー!」
「うがあーーー!」
「痛えーーー!」
盾と剣を構えた兵たちが、次々とその場に倒れ伏していた。
何が起きたか、と中隊長と周囲の兵たちは目を瞠った。
矢を受けたわけでもない。まだ敵と剣を交えたわけでもない。
ただ何もない草原で、数十名の兵たちが倒れのた打ち出している。
地面などに罠をしかけた、はずもない。相手はここに来たばかりだし、場所は砦から昼夜見張られている位置どりだ。
目を凝らしても、異状は見えない。ただ、緑の草原の上、その緑がぼやけているかのように映るばかりだ。
「何をしているか! 次、続け!」
「おお!」
味方を鼓舞するような大声を上げてさらに数十名、盾と剣を構えて駆け出していく。
それが。
先にのた打つ兵たちの後ろに達したところで。
「ぎゃあーーー!」
「うがあーーー!」
同様に叫び、顔を押さえて倒れていくのだった。
剣や盾を放り出し、特に目や鼻の辺りを手で覆い、なすすべない様子で転がり回る。
いったい何だ、と中隊長は目を凝らした。
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偵察に出した兵の報告によると、約百名の一団は粛々とこの砦に近づいている。今しも、砦前の街道を囲んだ広く草茂る平地に達しようというところだ。
尖兵の指揮を執る中隊長は、五百の兵を率いて砦の門を出た。
近づく一団は平地の半ばまで進み、砦側の尖兵隊と二百ガターほどの距離を置いて足を止めた。
確かに正規の軍らしい、と中隊長は判断する。
揃って金属と革を合わせた鎧を身につけ、前方の者は盾や弓矢をすぐ構えられる状態で携えている。二本立てた旗の印は、旧リュシドール子爵領のものだ。
弓矢を構えた兵を連れて、中隊長は前に出た。
それを見て、向こうの集団からも大将らしき男が一歩前に出た。
「某はこの軍を預かる中隊長、バシュラールである。我が領地を脅かす不審な一団、何者であるか」
「リュシドール子爵領領軍小隊長、エテュアンと申す。我々は子爵家の正統な後継者ランベール・リュシドール様を将に抱き、ルドワイヤン伯爵家、モクレール子爵家、ミュラトール子爵家の友軍を加えたリュシドール子爵領領軍である。こちらの不法な占拠をやめ、直ちに領都を明け渡していただきたい」
「この地は我がミニョレー伯爵領が領有するものである。そのような要求を聞くことはできぬ」
「聞き届けられぬとあれば、交戦やむなし」
「承った。応戦しよう」
頷き、両隊長とも表情を変えずに軍の中に下がる。
本来の領地間の戦闘であればもっと改まった七面倒なやりとりが重ねられるはずだが、今回の相手はわずか百名、そこらの農民一揆や野盗の襲来と大差ない。中隊長としては短時間で一蹴して終える心積もりだった。
間もなく敵軍の先頭が盾を構え、全員足を揃えて小走り程度の速度で前進を始めた。
わずかに態勢を整える隙間に、やや妙なものが見えた。先頭の盾のすぐ後ろ、数台の荷車のようなものが続いている。
少しだけ首を傾げながら、中隊長は命を発した。
「弓隊、前へ!」
「はっ!」
五十名ほどの弓隊が前に出て横三列の並びとなり、交替で次々と矢を放つ。敵軍は進み足を緩め、先頭に並べた盾でそれを受けた。
相手からも矢が飛んでくるが、射撃数も圧倒的な人数差に比例する。砦側の絶え間ない攻撃に、少人数の敵軍は徐々に足を進められなくなっていた。
「行け、一気に鎮圧せよ!」
「はっ!」
並んだ弓隊の隙間から、盾と剣や槍を構えた歩兵が数十名、一斉に駆け出した。背後から弓矢の牽制が続き、剣の攻撃兵はさらに後ろに準備されている。これだけですぐに敵の人数を数倍する勢いで、早々に決着はつくだろう。
ほとんど切れ切れとなった敵の射撃を盾で防ぎながら、もう先頭の兵はあと数十ガター程度まで迫っている。
うおおーー、と吶喊の声が蒼天に高々と揚がる。
次の瞬間、だった。
「ぎゃあーーー!」
「うがあーーー!」
「痛えーーー!」
盾と剣を構えた兵たちが、次々とその場に倒れ伏していた。
何が起きたか、と中隊長と周囲の兵たちは目を瞠った。
矢を受けたわけでもない。まだ敵と剣を交えたわけでもない。
ただ何もない草原で、数十名の兵たちが倒れのた打ち出している。
地面などに罠をしかけた、はずもない。相手はここに来たばかりだし、場所は砦から昼夜見張られている位置どりだ。
目を凝らしても、異状は見えない。ただ、緑の草原の上、その緑がぼやけているかのように映るばかりだ。
「何をしているか! 次、続け!」
「おお!」
味方を鼓舞するような大声を上げてさらに数十名、盾と剣を構えて駆け出していく。
それが。
先にのた打つ兵たちの後ろに達したところで。
「ぎゃあーーー!」
「うがあーーー!」
同様に叫び、顔を押さえて倒れていくのだった。
剣や盾を放り出し、特に目や鼻の辺りを手で覆い、なすすべない様子で転がり回る。
いったい何だ、と中隊長は目を凝らした。
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