92 / 103
番外編 後日譚
3
しおりを挟む
***
やはりその周囲に、異状は窺えない。
晴天の草原で、緑がぼやけ輝くばかり。
その向こうで、敵の軍がゆっくり前進を再開した。
すぐに転げ回る百名近い兵たちに近寄り、数名が進み出てそれらを脇へ押しのけた。数兵は剣で命を絶たれているか。
間に空いた隙間を、整然と全軍が行進してくる。なおも続く弓矢の迎撃を、先頭の盾で受けきっている。
「続け! 敵をこれ以上前進させるな!」
「はっ!」
「全軍で迎え討て!」
「おお!」
さらに数十名が、剣を構えて駆け出した。その後ろに、絶え間なく兵が続く。
まだ砦内の全軍は半数も出てきていないが少しずつ補充がされ、このまま数百名は殺到できるはずだ。
それが、また。
先頭が敵まで五十ガターを切ったか、というところで。
「ぎゃあーーー!」
「うがあーーー!」
次々と目鼻を押さえ倒れ伏していく。
後ろから続く者も、同じ辺りまで達したところで同様の次第となる。
目に見えない壁でもあるように、同じ付近で何か攻撃を受けたかという反応だ。
壁――。
「何だ、あれは?」
目を凝らして。先刻より距離が縮まったので、中隊長の目に認められるものがあった。
倒れ伏す兵たちの前に、何か緑のものが散り漂っている。それを顔に浴びて、兵たちはもんどり打っているようだ。
さらに続く兵が、倒れ伏す味方の間を縫うように前に出る。
その顔前に、改めて緑のものが散り広がった。
「ぎゃあーーー!」
「うがあーーー!」
たちまちその兵たちも、地に転がる。
構わず、敵軍は前進を続ける。
次々と殺到する兵たちが、同じくらいの距離の場所で倒れていく。
敵の前進に合わせて、味方兵の倒伏場所もこちらに近づいてきた。
それがやがて、跪く弓隊の位置まで達し。
「ぎゃあーーー!」
「痛えーーー!」
さらに緑が散って、弓を持つ兵たちも昏倒していた。
剣を持つ兵たちも次々倒れ、その位置がますますこちらの集結場所まで近づいてくる。
近づいて、さらに明らかとなってきた。先頭の兵が駆け寄ると、その面前に突然、緑の粉状のものが出現する。次の瞬間、それが周囲に散り広がる。
どうも目や鼻に刺激を与える粉のようで、兵は全員例外なくのた打つ結果となっている。
粉の突然の出現は、訳が分からない。しかし次の散り広がりは、原因が察せられた。
敵軍先頭で盾を持つ数名が、片手を差し伸べている。おそらく風魔法の加護を持つ者だろう。出現した粉を、兵たちの鼻先まで吹き散らしているのだ。
少しでも状況が分かれば、対処のしようはある。
中隊長は指示の声を上げた。
「もっと大勢で横に広がり、一斉にかかれ! 目を狙われているぞ、手で覆って防ぐのだ!」
「おお!」
二百名を超える軍勢が横に広がり、敵軍を囲むべく半円状の形態をとり出した。
敵の先頭まで、百ガターを切る。
ますます味方の陣形が定まり、距離を縮めていく。
ふと中隊長の目に、敵の変化が認められた。
先刻も気づいたが、盾を並べたすぐ後ろに数台小ぶりの荷車らしきものがあるようだ。弓矢攻撃がなくなったと見て盾が引かれ、二台の荷車が見えてきた。それぞれに、全身金属の鎧を装備しているらしい小柄な人間が乗っている。
味方の先頭が、囲みを縮める。
その距離、五十ガター程度まで迫ったか。
指示の通り兵たちは手で目を覆い、粉の出現に備えている。
じりじりと迫り。
次の瞬間。
***
やはりその周囲に、異状は窺えない。
晴天の草原で、緑がぼやけ輝くばかり。
その向こうで、敵の軍がゆっくり前進を再開した。
すぐに転げ回る百名近い兵たちに近寄り、数名が進み出てそれらを脇へ押しのけた。数兵は剣で命を絶たれているか。
間に空いた隙間を、整然と全軍が行進してくる。なおも続く弓矢の迎撃を、先頭の盾で受けきっている。
「続け! 敵をこれ以上前進させるな!」
「はっ!」
「全軍で迎え討て!」
「おお!」
さらに数十名が、剣を構えて駆け出した。その後ろに、絶え間なく兵が続く。
まだ砦内の全軍は半数も出てきていないが少しずつ補充がされ、このまま数百名は殺到できるはずだ。
それが、また。
先頭が敵まで五十ガターを切ったか、というところで。
「ぎゃあーーー!」
「うがあーーー!」
次々と目鼻を押さえ倒れ伏していく。
後ろから続く者も、同じ辺りまで達したところで同様の次第となる。
目に見えない壁でもあるように、同じ付近で何か攻撃を受けたかという反応だ。
壁――。
「何だ、あれは?」
目を凝らして。先刻より距離が縮まったので、中隊長の目に認められるものがあった。
倒れ伏す兵たちの前に、何か緑のものが散り漂っている。それを顔に浴びて、兵たちはもんどり打っているようだ。
さらに続く兵が、倒れ伏す味方の間を縫うように前に出る。
その顔前に、改めて緑のものが散り広がった。
「ぎゃあーーー!」
「うがあーーー!」
たちまちその兵たちも、地に転がる。
構わず、敵軍は前進を続ける。
次々と殺到する兵たちが、同じくらいの距離の場所で倒れていく。
敵の前進に合わせて、味方兵の倒伏場所もこちらに近づいてきた。
それがやがて、跪く弓隊の位置まで達し。
「ぎゃあーーー!」
「痛えーーー!」
さらに緑が散って、弓を持つ兵たちも昏倒していた。
剣を持つ兵たちも次々倒れ、その位置がますますこちらの集結場所まで近づいてくる。
近づいて、さらに明らかとなってきた。先頭の兵が駆け寄ると、その面前に突然、緑の粉状のものが出現する。次の瞬間、それが周囲に散り広がる。
どうも目や鼻に刺激を与える粉のようで、兵は全員例外なくのた打つ結果となっている。
粉の突然の出現は、訳が分からない。しかし次の散り広がりは、原因が察せられた。
敵軍先頭で盾を持つ数名が、片手を差し伸べている。おそらく風魔法の加護を持つ者だろう。出現した粉を、兵たちの鼻先まで吹き散らしているのだ。
少しでも状況が分かれば、対処のしようはある。
中隊長は指示の声を上げた。
「もっと大勢で横に広がり、一斉にかかれ! 目を狙われているぞ、手で覆って防ぐのだ!」
「おお!」
二百名を超える軍勢が横に広がり、敵軍を囲むべく半円状の形態をとり出した。
敵の先頭まで、百ガターを切る。
ますます味方の陣形が定まり、距離を縮めていく。
ふと中隊長の目に、敵の変化が認められた。
先刻も気づいたが、盾を並べたすぐ後ろに数台小ぶりの荷車らしきものがあるようだ。弓矢攻撃がなくなったと見て盾が引かれ、二台の荷車が見えてきた。それぞれに、全身金属の鎧を装備しているらしい小柄な人間が乗っている。
味方の先頭が、囲みを縮める。
その距離、五十ガター程度まで迫ったか。
指示の通り兵たちは手で目を覆い、粉の出現に備えている。
じりじりと迫り。
次の瞬間。
***
136
あなたにおすすめの小説
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~
寿明結未(ことぶき・あゆみ)
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。
それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。
唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。
だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。
――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。
しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。
自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。
飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。
その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。
無断朗読・無断使用・無断転載禁止。
異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい
木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。
下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。
キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。
家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。
隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。
一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。
ハッピーエンドです。
最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる