チョーゴーキン! ――車両模型に転生したアラサー女子、異世界の街道をひた走る

eggy

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 すぐに、がさがさと足音が近づいてきた。
 先にいただいだい色髪の騎士に、ローブの男と緑髪の騎士が並ぶ。

「××××」
「××××」
「××××」

 当然、何を言っているのか分からないんだけど。
 こちらを指さして言葉を交わしている様子からして、この見たこともない超合金装甲車模型の発見に、何やかやと疑問や意見を出しているんだろう。
 特にローブの男が興味深げで、こちらの上面に触れたり顔を近づけて観察したりしてくる。そうして見直してみると何となくこの男、何処か研究者っぽく見える。

「××××」
「××××」
「××××」

 何度か言葉を交わし、それからいきなりローブ男はあたしを両手で抱え上げた。
 元未婚女性としては悲鳴を上げたくなる状況なんだけど、当然声は発せられない。それに少しでも動いて見せたらさらに興味持たれたり警戒されたりしかねないので、ここはじっと辛抱することに決める。
 男に抱えられてやや広い草の平地に戻ると、そこに横たわった焦茶色に見える大王熊だいおうぐまのなれの果ては、さっき見たときよりあちこち切り開かれた様子だ。食用に肉を切り取ったのか、いわゆる素材のようなものを探したのか、とにかくこの三人の作業の結果だろう。
 その近くで一度立ち止まり、何やら言い交わして、三人は歩き出した。
 必要な作業を終えて、移動を開始することにしたのか。
 見回すと、辺りにはやや暗さが落ちてきている。よく分からないけどさっきの確認で時刻は16時を過ぎていたのだから、そろそろ陽が沈み始める頃なのかもしれない。
 それから三人は少し歩いて、小さな川の近くで立ち止まった。
 担いでいた袋とあたしを大きな岩の近くに降ろし、何やら動き始める。どうもここで休憩か野宿の準備をするようだ。
 とりあえず三人の目が少し離れた隙に、潜望鏡を立てて自分の上面を観察してみた。幸いさっきの兎野郎の攻撃でも傷はついていない。超合金、かなりの硬度を期待してよさそうだ。
 しばらく協力して動き回り、三人は焚き火を点けたり川から水を汲んできたりして、火を囲み腰を下ろして落ち着いた。
 やがて荷物から出してきた干し肉みたいなものを囓って、食事を始める。

「××××」
「××××」
「××××」

 もちろん言っていることは分からないんだけど、交わしている会話の調子は面白おかしいものでなく、そこそこシリアスな感じに聞こえる。何となくの感じでは、ローブ男がリーダーで騎士二人に指示をしているようだ。
 その後見る見るうちに陽は落ちて、やはり三人はここで野宿をするらしい支度を始めた。
 ローブ男と橙騎士が背負い袋を枕に地べたに横たわり、緑騎士が焚き火近くに胡座をかく。不寝番をするのだろうか。もしかすると三人交代制なのかもしれない。
 辺りは闇に沈み、焚き火の周囲だけが灯りに包まれる。
 やがて、二人の寝息が聞こえてきた。
 あたしはというと、寝る前にローブ男の荷物と合わせすぐ傍らに鎮座させられた。すっかりこの男の持ち物に加えられたようだ。
 真正面になってしまった位置関係からして、不寝番の目を盗んで逃亡するのは無理そうだ。

――しばらくは、なすがまましか仕方ないかなあ。

 少し、朗報があった。
 動かないまま視界を探ってみると、この場所で充電の続きができるようだ。さっきのベストポジションよりは少し弱いけど、そこそこゲージに色がついている。おそらくのところ、朝までには完全充電されるのではないか。
 それをよすがにして、このまま大人しくしていることにしようか。
 うーーん、と内心唸り。改めて思考を巡らせる。
 さっきからの出来事、特にこの人間たちに捕獲されてからの流れは、映像が途絶えたり飛んだりぼやけたりなど一切なく、リアルに自然に続いている。
 つまりはこれが夢の中という可能性は弱まり、現実という方に軍配を上げざるを得ない気がしてくる。
 それも、人間たちの髪の色やあの魔獣たちの存在からして、明らかにこれまで生きていた世界とは異なる。
 要するに、あたしは異世界で超合金模型に転生した、という現実だ。

――やっぱり、夢の中と思いたいんだけど。

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