チョーゴーキン! ――車両模型に転生したアラサー女子、異世界の街道をひた走る

eggy

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14 侵入した 2

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 ある程度腹を決めて落ち着き、周囲を見回す。
 さっきの食事のときより、焚き火は小さくなっている。たきぎを無駄に使わないということか。見張りの緑騎士が、傍に積んだ木の枝を時おり足している。
 二人の寝息は、静かに続く。
 そんな長閑な様子に、本来ならこちらも眠気が差してきそうなところだけど。しつこいようだけど、そんな気配はない。
 このまま徹夜して、体力の不安がありそうにない。むしろ充電が進んで、力が戻ってきている感覚だ。
 そうだとは言うものの、やっぱりすることがなくじっとしていると、何となく――頭がぼうっと――浮遊していく感じを――覚える。
 …………。

――……え?

 気がつくとあたしは、ぼんやりした薄闇の中にいた。
 さっきまでの森の中、じゃない。
 見渡しても、何もない――いや――。
 少し離れて、人が地面に座っていた。
 ややぼやけた感じだけど、何とか判別できる。青い髪、濃灰色のローブ姿。
 ついさっきまで焚き火の傍で寝ていた、あのローブ男だ。
 はっきり目を開いて、あたしを見つめてくる。

『君は、誰?』

 その言葉が、理解できた。
 日本語とは異なる、聞いたことのない言語のはずなのに、何故か意味がとれる。

『そちらこそ、誰だ』

 あたしが発した言葉も、相手の言語に一致しているようだ。
 やや驚いたように目を瞠り、男は応えた。

『私はエトヴィン・ラングハンスという、王宮所属の科学者だ。今はこの森に、ある薬草を探しに来ている』
『そうか』

 ある程度まともな返答をされて、こちらの態度をどうすべきか、迷ってしまう。
 いろいろ疑問はあるけど、とにかく今は会話が成立しているらしい。
 特に元日本人として、初対面の相手に対する言葉遣いに悩むのだけれど。
 この世界が想像される中世ヨーロッパ風とかナーロッパとかそんな感じ――いやそうじゃなくてもとにかく――だとしたら、こちらの性別が女だと知れると対等近く扱われない恐れを感じるんだよね。
 まあ何であれ現状は性別など無関係の存在なんだから、ここはその辺秘匿の方針でいこうと思う。

『いや何と言うか、いろいろ分からず混乱している状態なのだが。失礼ながら、まず一つ確認したい。私からあんたはローブ姿の男性と見えているのだが、あんたから私はどう見えているのだろうか』
『そこは答えに苦しむな。何も見えていない、と言うか、ぼんやりそこに存在する、どうも人間らしい、としか分からない』
『そうなのか』
『私は今、確かに眠っているはずなのだ。私の認識でここは夢の中、君は私の夢への侵入者と思える。しかし見た目ははっきりしないのに、声は鮮明だ。夢なのか現実なのか、理解に苦しむ』
『なるほど。訳が分からないのは、私も同じだ。私の名は、ハルキという』

 このあたしの名前、子どもの頃からしょっちゅう、音だけだと男にまちがえられることが多かった。悠姫という漢字を見せればまず、日本人には女と信じてもらえたわけだけど。
 音だけだと、外国でもどちらかというと男性名寄りに聞こえるんじゃないかな。
 この推定異世界ではどうなのか、まったく予想つかないんだけど。

『ハル――ケィ?』
『発音しにくければ、ハルでいい』

 日本語の発音が外国人には難しいというのはよく使われるネタだけど、どういう原因によるものなのかよく知らないんだよねえ。
 今の場合何となく、ル、キ、という並びがすべて子音+母音の組合せになっているのが馴染まないんじゃないか、と勝手に推測してみる。
 ハルだけなら、最後の母音の発音は曖昧でも、それらしく聞こえるっしょ。

『うむ済まない、ハル、だな』
『信じてもらえるか分からないが、少し前までおそらくこことは違う世界で生きていた。それが突然、この森に落ちてきた、という感覚だ』
『落ちてきた?』
『ますます信じられないかもしれないが、今の私の姿は、さっきあんたに運ばれてきた焦茶色で箱型の物体だ』
『何だと?』

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