チョーゴーキン! ――車両模型に転生したアラサー女子、異世界の街道をひた走る

eggy

文字の大きさ
14 / 122

14 侵入した 2

しおりを挟む
 ある程度腹を決めて落ち着き、周囲を見回す。
 さっきの食事のときより、焚き火は小さくなっている。たきぎを無駄に使わないということか。見張りの緑騎士が、傍に積んだ木の枝を時おり足している。
 二人の寝息は、静かに続く。
 そんな長閑な様子に、本来ならこちらも眠気が差してきそうなところだけど。しつこいようだけど、そんな気配はない。
 このまま徹夜して、体力の不安がありそうにない。むしろ充電が進んで、力が戻ってきている感覚だ。
 そうだとは言うものの、やっぱりすることがなくじっとしていると、何となく――頭がぼうっと――浮遊していく感じを――覚える。
 …………。

――……え?

 気がつくとあたしは、ぼんやりした薄闇の中にいた。
 さっきまでの森の中、じゃない。
 見渡しても、何もない――いや――。
 少し離れて、人が地面に座っていた。
 ややぼやけた感じだけど、何とか判別できる。青い髪、濃灰色のローブ姿。
 ついさっきまで焚き火の傍で寝ていた、あのローブ男だ。
 はっきり目を開いて、あたしを見つめてくる。

『君は、誰?』

 その言葉が、理解できた。
 日本語とは異なる、聞いたことのない言語のはずなのに、何故か意味がとれる。

『そちらこそ、誰だ』

 あたしが発した言葉も、相手の言語に一致しているようだ。
 やや驚いたように目を瞠り、男は応えた。

『私はエトヴィン・ラングハンスという、王宮所属の科学者だ。今はこの森に、ある薬草を探しに来ている』
『そうか』

 ある程度まともな返答をされて、こちらの態度をどうすべきか、迷ってしまう。
 いろいろ疑問はあるけど、とにかく今は会話が成立しているらしい。
 特に元日本人として、初対面の相手に対する言葉遣いに悩むのだけれど。
 この世界が想像される中世ヨーロッパ風とかナーロッパとかそんな感じ――いやそうじゃなくてもとにかく――だとしたら、こちらの性別が女だと知れると対等近く扱われない恐れを感じるんだよね。
 まあ何であれ現状は性別など無関係の存在なんだから、ここはその辺秘匿の方針でいこうと思う。

『いや何と言うか、いろいろ分からず混乱している状態なのだが。失礼ながら、まず一つ確認したい。私からあんたはローブ姿の男性と見えているのだが、あんたから私はどう見えているのだろうか』
『そこは答えに苦しむな。何も見えていない、と言うか、ぼんやりそこに存在する、どうも人間らしい、としか分からない』
『そうなのか』
『私は今、確かに眠っているはずなのだ。私の認識でここは夢の中、君は私の夢への侵入者と思える。しかし見た目ははっきりしないのに、声は鮮明だ。夢なのか現実なのか、理解に苦しむ』
『なるほど。訳が分からないのは、私も同じだ。私の名は、ハルキという』

 このあたしの名前、子どもの頃からしょっちゅう、音だけだと男にまちがえられることが多かった。悠姫という漢字を見せればまず、日本人には女と信じてもらえたわけだけど。
 音だけだと、外国でもどちらかというと男性名寄りに聞こえるんじゃないかな。
 この推定異世界ではどうなのか、まったく予想つかないんだけど。

『ハル――ケィ?』
『発音しにくければ、ハルでいい』

 日本語の発音が外国人には難しいというのはよく使われるネタだけど、どういう原因によるものなのかよく知らないんだよねえ。
 今の場合何となく、ル、キ、という並びがすべて子音+母音の組合せになっているのが馴染まないんじゃないか、と勝手に推測してみる。
 ハルだけなら、最後の母音の発音は曖昧でも、それらしく聞こえるっしょ。

『うむ済まない、ハル、だな』
『信じてもらえるか分からないが、少し前までおそらくこことは違う世界で生きていた。それが突然、この森に落ちてきた、という感覚だ』
『落ちてきた?』
『ますます信じられないかもしれないが、今の私の姿は、さっきあんたに運ばれてきた焦茶色で箱型の物体だ』
『何だと?』

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜

naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。 ※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。 素材利用 ・森の奥の隠里様 ・みにくる様

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

指令を受けた末っ子は望外の活躍をしてしまう?

秋野 木星
ファンタジー
隣国の貴族学院へ使命を帯びて留学することになったトティ。入国しようとした船上で拾い物をする。それがトティの人生を大きく変えていく。 ※「飯屋の娘は魔法を使いたくない?」のよもやま話のリクエストをよくいただくので、主人公や年代を変えスピンオフの話を書くことにしました。 ※ この作品は、小説家になろうからの転記掲載です。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

処理中です...