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『信じられないと思うが――』
『そうすると君は、我々の命の恩人か?』
『は?』
『さっき昼過ぎ、我々はこの森で思いがけず大王熊と遭遇した。護衛二人を連れているが到底敵う相手ではなく、逃げるすべなく接近されて死を覚悟するしかなかった。それがいきなり何か焦茶色のものが空から降ってきて、かの凶暴な魔獣を征伐してくれた。その救いの主《ぬし》が君――あなたというわけなのだろう?』
『あ、ああ――そういうことになるな』
『そうか、あなたには幾重にも感謝申し上げたい。本当にあなたは、我々の命の恩人だ』
『はあ……』
やっぱり、あたしの転落先は魔獣のドタマに見事命中、という次第になっていたらしい。
その事実だけなら、この男の主張にまちがいないんだろうけど。
『しかし、私は自分でも分からないうちに上空から落下していた。魔獣の頭に命中したのは、信じられないほどの確率と言える偶然に過ぎない。私が感謝される謂れはないぞ』
『それでもです。あなたがこの場に現れたのが何らかの奇跡によるものか神の采配の故か分かりませんが、とにかく我々にとってはあなたの存在に感謝しかない』
『何だか、大袈裟だなあ』
『この恩には、必ず何かをもって報いたいと思います』
『報いる、ねえ……』
少なくとも、礼に金品をもらっても何の役にも立ちそうにないんだよね。使いようがないし、そもそもそんなものを持ち運ぶ方法さえありそうにない。
だんだん妙に口調が丁寧になってきて、何処か前のめりに目を輝かせたような様子のエトヴィンという男も、その辺はすぐ思い至ったらしい。
『とにかくも、もちろん十分とはいかないでしょうがこの森であなたが不自由のないようにお世話しますし、貴方がこの先行きたいところでもあるのでしたら助力させてもらいましょう』
『ああ、森の中を当てなく彷徨うことを思えば、ありがたいが』
『ええ。あ――え? その言い方ですと、ハル殿のこの身体、移動することは可能なのですか』
『ああ、まあ』
『失礼ながら足も何もなく、歩けるとは思えないのですが』
確かに、足など何処にもないもんなあ。
車輪はキャタピラに囲まれていて、さらに全身同色で目立たない。
おそらくのところこの世界では、車輪は存在していてもキャタピラはないんじゃないかと思われる。
『説明が必要かな。本当に何故私の意識だか魂だかがこの中に入ってしまっているのか、見当もつかないんだが。この箱のようなものは、私が生きていた世界での乗り物を縮小した模型なんだ。正確には現実のそうしたものをもとにした、空想物語に登場する高性能なものを模型化したことになる』
『乗り物、ですか』
『うん。現実の大きさなら、上にある口を開閉して人が乗り降りできる。両側の下部に車輪がついているんだが、それをキャタピラというもので囲んでいて、それらを同時に回転して前後に動くことができる』
『そ、そうなのですか。人間やムマなどの獣が引くというわけでなく?』
『ムマというのは、そうした車などを引くのに使われる動物なのだろうか』
『ご存じないですか。ええ、体高は大人の女ほどある四つ足の獣です。それほど速さは出ませんが力はあるので、大きな町の中では人や荷物を載せた車体を引く〈ムマ車〉というものが使われているのです』
『なるほど』
聞いた限りでは、牛か馬か、という辺りの動物なんだろう。速さはなく力があるということでは、牛に近いのか。
『とにかく、そうした引く力は要らない。現実のものは動物の力を使わない動力が開発されていて、それを搭載している。こちらは模型なわけで、そんな動力が使われているのか別の何かで動いているのか自分でも分からないのだが、とにかく動くことはできる』
『それは是非、見てみたいものです』
『夜が明けたら、見せよう――と言いたいのだが、本当に見せてよいものか、ためらいもある』
『ああ、そうだな。そんな不思議な力で動いていると知れたら、ふつうの民衆からは奇跡の存在扱い、科学者からは挙って研究の対象、それから――もしかすると教会から神の使いと讃えられる? または神の意思に反する存在――』
『どれをとっても、面倒極まりないことになりそうだな』
『そうすると君は、我々の命の恩人か?』
『は?』
『さっき昼過ぎ、我々はこの森で思いがけず大王熊と遭遇した。護衛二人を連れているが到底敵う相手ではなく、逃げるすべなく接近されて死を覚悟するしかなかった。それがいきなり何か焦茶色のものが空から降ってきて、かの凶暴な魔獣を征伐してくれた。その救いの主《ぬし》が君――あなたというわけなのだろう?』
『あ、ああ――そういうことになるな』
『そうか、あなたには幾重にも感謝申し上げたい。本当にあなたは、我々の命の恩人だ』
『はあ……』
やっぱり、あたしの転落先は魔獣のドタマに見事命中、という次第になっていたらしい。
その事実だけなら、この男の主張にまちがいないんだろうけど。
『しかし、私は自分でも分からないうちに上空から落下していた。魔獣の頭に命中したのは、信じられないほどの確率と言える偶然に過ぎない。私が感謝される謂れはないぞ』
『それでもです。あなたがこの場に現れたのが何らかの奇跡によるものか神の采配の故か分かりませんが、とにかく我々にとってはあなたの存在に感謝しかない』
『何だか、大袈裟だなあ』
『この恩には、必ず何かをもって報いたいと思います』
『報いる、ねえ……』
少なくとも、礼に金品をもらっても何の役にも立ちそうにないんだよね。使いようがないし、そもそもそんなものを持ち運ぶ方法さえありそうにない。
だんだん妙に口調が丁寧になってきて、何処か前のめりに目を輝かせたような様子のエトヴィンという男も、その辺はすぐ思い至ったらしい。
『とにかくも、もちろん十分とはいかないでしょうがこの森であなたが不自由のないようにお世話しますし、貴方がこの先行きたいところでもあるのでしたら助力させてもらいましょう』
『ああ、森の中を当てなく彷徨うことを思えば、ありがたいが』
『ええ。あ――え? その言い方ですと、ハル殿のこの身体、移動することは可能なのですか』
『ああ、まあ』
『失礼ながら足も何もなく、歩けるとは思えないのですが』
確かに、足など何処にもないもんなあ。
車輪はキャタピラに囲まれていて、さらに全身同色で目立たない。
おそらくのところこの世界では、車輪は存在していてもキャタピラはないんじゃないかと思われる。
『説明が必要かな。本当に何故私の意識だか魂だかがこの中に入ってしまっているのか、見当もつかないんだが。この箱のようなものは、私が生きていた世界での乗り物を縮小した模型なんだ。正確には現実のそうしたものをもとにした、空想物語に登場する高性能なものを模型化したことになる』
『乗り物、ですか』
『うん。現実の大きさなら、上にある口を開閉して人が乗り降りできる。両側の下部に車輪がついているんだが、それをキャタピラというもので囲んでいて、それらを同時に回転して前後に動くことができる』
『そ、そうなのですか。人間やムマなどの獣が引くというわけでなく?』
『ムマというのは、そうした車などを引くのに使われる動物なのだろうか』
『ご存じないですか。ええ、体高は大人の女ほどある四つ足の獣です。それほど速さは出ませんが力はあるので、大きな町の中では人や荷物を載せた車体を引く〈ムマ車〉というものが使われているのです』
『なるほど』
聞いた限りでは、牛か馬か、という辺りの動物なんだろう。速さはなく力があるということでは、牛に近いのか。
『とにかく、そうした引く力は要らない。現実のものは動物の力を使わない動力が開発されていて、それを搭載している。こちらは模型なわけで、そんな動力が使われているのか別の何かで動いているのか自分でも分からないのだが、とにかく動くことはできる』
『それは是非、見てみたいものです』
『夜が明けたら、見せよう――と言いたいのだが、本当に見せてよいものか、ためらいもある』
『ああ、そうだな。そんな不思議な力で動いていると知れたら、ふつうの民衆からは奇跡の存在扱い、科学者からは挙って研究の対象、それから――もしかすると教会から神の使いと讃えられる? または神の意思に反する存在――』
『どれをとっても、面倒極まりないことになりそうだな』
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