チョーゴーキン! ――車両模型に転生したアラサー女子、異世界の街道をひた走る

eggy

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 それでもやっぱり気が逸るようで足どりは速められ、その夜は昨夜と同じ場所まで戻って休むことになった。
 夢の中でエトヴィンからいろいろ知識を得。
 見張り時間にエトヴィンの風魔法練習につき合い――かなり、草の葉を斬る精度は高められてきた――。
 夜明け前に起き出して、帰行を再開する。
 本当に気が逸るらしく、今まで以上に会話も少ないまま、山行は続いた。
 そのまま午近く、前々日に狼魔獣と遭遇した草叢に差しかかる。
 まだそのまま、七頭の死骸が転がっていた。

「今までにも増して、周囲に警戒して進もう」
「は」
「はい」

 正面や左右の林を見回し、足速に草叢を進む。
 と、カルステンが声を上げた。

「正面、何かいる!」
「む」

 足を止め、行く手を窺うことになった。
 バリ、バリ、と木が折れるような音が聞こえてくる。

「何か大きい――まずい、大王熊だいおうぐまだ!」
「何だと!」
「逃げろ! 右手だ!」

 エトヴィンの指示に、一斉に右の林目がけて駆け出す。
 しかしその間に正面から焦茶色の巨体が躍り出し、即座にこちらをロックオンしたようだ。

 グワアアアーー。

 ひと声咆哮し、四つん這いでこちら目がけて駆け出す。
 速い。
 大きさ速度ともに、軽トラックを連想させそうなほどだ。
 これが、林の中でも木々をなぎ倒して緩まないのだという。
 図体が大きく、肉食で凶暴。その鋭い爪も牙も、食らったら生身の人間はまず助からない。
 表皮が硬く、剣も槍もほとんど通じない。
 森などで向こうに見つかったら、人間はほぼ死を覚悟するしかないと言われている。
 という相手なのだから、三人の男は必死で足を速める。
 他に、打つ手はない。
 あたしは前進を止め、後ろを振り向いた。

「ハル殿?」

 走りながらエトヴィンが振り向くけれど。
 構わず先に行け、とあたしはハンドを振った。

――別に、ヒーローを気どる柄じゃない、んだけどね。

 今の場合、颯人かもしれない少年の命が懸かっているんだ。
 颯人を救うためなら、何でもやってやる!
 幸いというか、命を懸けて、という必要もないんだから。おそらく、この巨大魔獣の牙でも爪でも、何なら踏み潰されても、あたしは壊れない。
 あの三人が逃げる時間だけでも作ってやろう。

 グワアアアーー。

 そのまま正面から近づくと、こんな見たこともないだろう地を這う小さな運動物に、怪訝そうに大熊は二本足で立ち上がった。
 両前足を振り上げて、威嚇の格好だ。
 その持ち上がった顔、両目目がけて、いきなり水鉄砲をお見舞いする。

 グワアアアーー。

 首を振って、熊は咆哮した。
 さすがに狼に比べて、身体のバランスを失うほどじゃない。けれど、まちがいなく効いている。
 二発、三発、続けて射撃すると、前足で目の前を覆って吠え続ける。
 次には、その大きく開いた口目がけて水鉄砲を連射した。
 一発で拳二つ分程度の水では、あの大口にたいした打撃はないだろうけど。
 連射、連射、で十発ほども続けると、口脇から水が溢れ出し。ガハガハ、と巨体を屈めてせ始めていた。
 すかさず、あたしは前進。地団駄を踏む後ろ足に駆け寄り、風の刃を放つ。
 右足首付近に、切れ目は入れられたか。しかし、血が流れる気配もない。
 表皮が硬い予想の相手に、効果が小さいのは先刻承知。それでも少しでも切れ目が入るなら、これをくり返すのみ!
 斬る!
 斬る!
 斬る!

 グワアアアーー。

 次の瞬間、狙う足が持ち上がり。
 あたしの全身に衝撃が走った。

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