62 / 122
62 懐疑した 2
しおりを挟む
それに続いて他の件がすべて偶然に起こるなんて、よほど王子かエトヴィンかが地獄の王にでも呪われているんじゃない限り、あり得ないと思う。
とにかく、これらの経緯を思い返しても。
こんなことがまだ続くなら防ぐ対策の立てようがない、ということだけは言えそうだ。
残っている薬草は、エトヴィンが懐に抱えた一束だけ。中ツ森に引き返して採取する時間の余裕はない。
『あと二日、くれぐれも気をつけて、と言うしかないか』
『そうなります。この残る一束、五枚ずつ二つに分けてカルステンと分担しようと思いますが、とにかく死守するしかありません』
『頑張ってくれ』
とにかく薬草五枚だけでも王宮に持ち込めば、王子の命は救われる、ということだ。
夢の中だというのにかなり切羽詰まった必死さの籠もる声を、エトヴィンは返してきた。
『この侯爵領から伝書鳩を送って、王宮から追加の護衛を呼び寄せています。慎重の上にも慎重を期して、残りの旅程を急ぐつもりです』
『幸運を祈る』
通信が切れても、とにかくあたしにできることはない。
ただ彼の奮闘が実を結ぶことを願いながら、王都に向けて急ぐだけだ。
次の会話が繋がるはずの五日後にはエトヴィンが王宮に到着し、その結果が出ていることになる。一方、あたしはまだ十日以上旅程を残していることになるだろうか。
ただただ気が急き、その夜も0時を機に街道をひた走り始めた。
その日は、拍子抜けするほど何もなかった。
ほんの時おり旅人と遭遇し、急ぎ脇へと身を潜めてやり過ごす、ということがあった程度だ。
また夜が更けて森へ入り、充電態勢に入る。
そうしてからまた念じると、思い通り入ることができた。
前回から五日経ったはずの、マルガの夢の中だ。
『失礼する』
『あ――こないだのお告げの人かい。また来てくれたんだね、助かったよ』
『先日の結果が気になったのでね』
『ああ本当に、助かったよ。あの麺も焼き物も、代官様に気に入ってもらえたさあ』
『そうか、よかった。もっと難しいことを言われるものかと思ったが』
『あたしたちも、そう簡単に受け入れられないかもって構えていたんだけどねえ。村長の話じゃああの焼き麺を食べて目を丸くして、あとはあっさり上機嫌に認めてくれたんだと。前はものすごい難しい態度だったのが、まるで憑き物が落ちたみたいだったって』
『そうなのか』
『うちの店で旅の客に出してみても、大好評だったしねえ。他にはない料理だからってすこし値段を高くしても、よく出ていくさ。麺の手打ちが間に合わないぐらいだよ。売り上げが増えて、これからも繁盛できそうだ』
『ほう』
『村では、今育てている小麦をそのままでいいことになったしさ。うちの店のこと聞いて代官様は、新しい村の名物にしろって、大乗り気になっていたって』
『よかったな』
『ほんと、あんたが教えてくれたお陰さあ。何かお礼がしたいんだけど――』
『夢の中の住人に、それは無理だ。感謝だけ受けとっておく。それと、娘のハイダは元気か?』
『ああ、元気さあ。昨日は約束してた通り、一日中ふた親で遊んであげたんだけどねえ、大喜びではしゃいでいたさあ』
『それはよかった。では失礼する』
『あ、ほんとにありがとう――』
まだ礼を続けようとする女の言葉を遮って、通信を切った。
こちらは好結果だったということで、万々歳だ。
まあ別にあたしに利益があるわけじゃない、あの拘束から何とか早く解放されたいということでお節介しただけだけど。とにかくも首尾よく終わったという点では、気分がいい。娘も鬱いでいないということで、安心だ。
ちょっと引っかかるのは、代官の態度豹変が極端すぎることだけど。そもそも最初の命令がかなり強引だったことと合わせて、何か事情があるんだろうか。
とにかくもまあ、上機嫌だったというなら問題はないんだろう。
あの料理が好評で村の小麦の価値が上がるなら、代官にも利のある結果だということなんだろうと思う。
とにかく、これらの経緯を思い返しても。
こんなことがまだ続くなら防ぐ対策の立てようがない、ということだけは言えそうだ。
残っている薬草は、エトヴィンが懐に抱えた一束だけ。中ツ森に引き返して採取する時間の余裕はない。
『あと二日、くれぐれも気をつけて、と言うしかないか』
『そうなります。この残る一束、五枚ずつ二つに分けてカルステンと分担しようと思いますが、とにかく死守するしかありません』
『頑張ってくれ』
とにかく薬草五枚だけでも王宮に持ち込めば、王子の命は救われる、ということだ。
夢の中だというのにかなり切羽詰まった必死さの籠もる声を、エトヴィンは返してきた。
『この侯爵領から伝書鳩を送って、王宮から追加の護衛を呼び寄せています。慎重の上にも慎重を期して、残りの旅程を急ぐつもりです』
『幸運を祈る』
通信が切れても、とにかくあたしにできることはない。
ただ彼の奮闘が実を結ぶことを願いながら、王都に向けて急ぐだけだ。
次の会話が繋がるはずの五日後にはエトヴィンが王宮に到着し、その結果が出ていることになる。一方、あたしはまだ十日以上旅程を残していることになるだろうか。
ただただ気が急き、その夜も0時を機に街道をひた走り始めた。
その日は、拍子抜けするほど何もなかった。
ほんの時おり旅人と遭遇し、急ぎ脇へと身を潜めてやり過ごす、ということがあった程度だ。
また夜が更けて森へ入り、充電態勢に入る。
そうしてからまた念じると、思い通り入ることができた。
前回から五日経ったはずの、マルガの夢の中だ。
『失礼する』
『あ――こないだのお告げの人かい。また来てくれたんだね、助かったよ』
『先日の結果が気になったのでね』
『ああ本当に、助かったよ。あの麺も焼き物も、代官様に気に入ってもらえたさあ』
『そうか、よかった。もっと難しいことを言われるものかと思ったが』
『あたしたちも、そう簡単に受け入れられないかもって構えていたんだけどねえ。村長の話じゃああの焼き麺を食べて目を丸くして、あとはあっさり上機嫌に認めてくれたんだと。前はものすごい難しい態度だったのが、まるで憑き物が落ちたみたいだったって』
『そうなのか』
『うちの店で旅の客に出してみても、大好評だったしねえ。他にはない料理だからってすこし値段を高くしても、よく出ていくさ。麺の手打ちが間に合わないぐらいだよ。売り上げが増えて、これからも繁盛できそうだ』
『ほう』
『村では、今育てている小麦をそのままでいいことになったしさ。うちの店のこと聞いて代官様は、新しい村の名物にしろって、大乗り気になっていたって』
『よかったな』
『ほんと、あんたが教えてくれたお陰さあ。何かお礼がしたいんだけど――』
『夢の中の住人に、それは無理だ。感謝だけ受けとっておく。それと、娘のハイダは元気か?』
『ああ、元気さあ。昨日は約束してた通り、一日中ふた親で遊んであげたんだけどねえ、大喜びではしゃいでいたさあ』
『それはよかった。では失礼する』
『あ、ほんとにありがとう――』
まだ礼を続けようとする女の言葉を遮って、通信を切った。
こちらは好結果だったということで、万々歳だ。
まあ別にあたしに利益があるわけじゃない、あの拘束から何とか早く解放されたいということでお節介しただけだけど。とにかくも首尾よく終わったという点では、気分がいい。娘も鬱いでいないということで、安心だ。
ちょっと引っかかるのは、代官の態度豹変が極端すぎることだけど。そもそも最初の命令がかなり強引だったことと合わせて、何か事情があるんだろうか。
とにかくもまあ、上機嫌だったというなら問題はないんだろう。
あの料理が好評で村の小麦の価値が上がるなら、代官にも利のある結果だということなんだろうと思う。
2
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜
naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。
※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。
素材利用
・森の奥の隠里様
・みにくる様
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
指令を受けた末っ子は望外の活躍をしてしまう?
秋野 木星
ファンタジー
隣国の貴族学院へ使命を帯びて留学することになったトティ。入国しようとした船上で拾い物をする。それがトティの人生を大きく変えていく。
※「飯屋の娘は魔法を使いたくない?」のよもやま話のリクエストをよくいただくので、主人公や年代を変えスピンオフの話を書くことにしました。
※ この作品は、小説家になろうからの転記掲載です。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる