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街道はますます人の通りが多くなってきた。
翌日、午を過ぎたところで簡単な門と囲いが見えてきた。草叢に潜って近づくと、通行人が兵士のような男たちに断りを入れながら通過している。
聞こえてくる声によると、どうも領地の境界らしい。これまでがティルピッツ侯爵領、この先がキュンツェル伯爵領となっているようだ。
領の境に必ずこんな関所のようなものがあるのか知らないけど、まあ関所と言うほど厳しく検査されているようでもない。通行証のようなものが必要なわけではないらしいし、簡単に身分と用向きを口頭で伝える程度のようだ。
囲いもそれほど長く続いているようじゃないので、やろうと思えばここを通らずに境界を越えることもできそうだ。ただ右手はあまり好んで入りたくなりそうにない深い森だし、左手はかなり遠くまで見晴らしがいい。ふつうの旅行者が、わざわざこの兵士たちの目を盗む労を執りたくなる条件ではないだろう。
一方で、あたしならそちらの目を盗むのも簡単だ。丈の高い草叢の中を進み、囲いの少し離れた箇所で下を潜ることができる。その後もしばらく草の中を前進し、ときおり潜望鏡で周囲を観察する。
――もう、大丈夫かな。
人通りが絶えた頃に、街道に近づいていった。
また太い道に戻り、土の上を進行する。やっぱり、草の中よりは進みやすい。
そのまま変わらない進行状況で、夜を越した。
また一日進み続け、陽が暮れてきた。そんな頃、道の先で人が固まっているのが見えてきた。
草叢に潜って、近づく。
がやがやとした会話は意味がとりにくいけど、どうも数名の兵士がこの先は立ち入り禁止だと言っているみたいだ。通行人には、森の方へ大きく迂回しろという指示をしている。聞こえてくる言葉の様子では、半日程度のロスになるみたいだ。
聞き始めたタイミングのせいか、どうもその立ち入り禁止の理由が分からない。
街道の先を見通しても、土砂崩れや川の氾濫などで通行不能になる地形のようには見えない。
――さて、どうしよう。
迂回するのは簡単だけど、時間のロスは面白くない。
道自体が通行可能でも、他の事情で立ち入り禁止なのだとしたら。例えばお偉い人が通過するとか、凶暴な魔獣が居座っているとかの理由なら、あたしにはあまり関係ない。目立たないように脇を通り抜ければ済む話だ。
――試しに、行ってみるか。
もしあたしでも通過できない状況でも、それから迂回する道もありそうな気がする。問題なければ、時間の無駄なく進むことができる。
――ノベルなんかならこういうの、『フラグ』っていうのかもしんないけどね。
まあそれはそれで、面白いかもしれない。時間の無駄はしたくないけど、面白いものなら見てみたいという興味も惹かれる。
何しろこちとら、凶暴な魔獣相手でも破壊されない、食われたりしない、というある程度の自信が持てるんだから。そうでなくても、隠れて進むのは得意だし。
ということで、あたしは街道から少し離れた草の中を先に進んだ。
陽が落ちて、進むにつれて辺りは暗くなっていく。
しばらく進むと小さな集落らしいものが見えてきて、家並みの中央付近に火が焚かれているようだ。
この村らしきところを抜けないと街道の先へ進めないようなので、いつものように草の中に隠れながらその焚き火に近づくことになった。
ふつうならそれぞれの家で夕食をとり、間もなく就寝するという頃合いだけど、なかなかに賑わっている。ただし楽しそうな様子でなく、何処か緊迫したものが感じられる。何人かの大人が焚き火を囲み、難しい顔で話し合っているらしい。
「また増えた。もうすぐ村の者の半分ってことになるか」
「今日だけで十人増えたんだぞ。もうどうしようもねえ。明日には村を捨てて移動しよう」
「おい、うちの女房は見捨てられるんか」
「仕方ねえ。これ以上呪いが広がったら、全滅だ」
「何とかなんねえのかよお……」
話し合っている十人ほどの男たちの目が、ちらちらと奥の一軒家に向いては戻るをくり返しているようだ。
翌日、午を過ぎたところで簡単な門と囲いが見えてきた。草叢に潜って近づくと、通行人が兵士のような男たちに断りを入れながら通過している。
聞こえてくる声によると、どうも領地の境界らしい。これまでがティルピッツ侯爵領、この先がキュンツェル伯爵領となっているようだ。
領の境に必ずこんな関所のようなものがあるのか知らないけど、まあ関所と言うほど厳しく検査されているようでもない。通行証のようなものが必要なわけではないらしいし、簡単に身分と用向きを口頭で伝える程度のようだ。
囲いもそれほど長く続いているようじゃないので、やろうと思えばここを通らずに境界を越えることもできそうだ。ただ右手はあまり好んで入りたくなりそうにない深い森だし、左手はかなり遠くまで見晴らしがいい。ふつうの旅行者が、わざわざこの兵士たちの目を盗む労を執りたくなる条件ではないだろう。
一方で、あたしならそちらの目を盗むのも簡単だ。丈の高い草叢の中を進み、囲いの少し離れた箇所で下を潜ることができる。その後もしばらく草の中を前進し、ときおり潜望鏡で周囲を観察する。
――もう、大丈夫かな。
人通りが絶えた頃に、街道に近づいていった。
また太い道に戻り、土の上を進行する。やっぱり、草の中よりは進みやすい。
そのまま変わらない進行状況で、夜を越した。
また一日進み続け、陽が暮れてきた。そんな頃、道の先で人が固まっているのが見えてきた。
草叢に潜って、近づく。
がやがやとした会話は意味がとりにくいけど、どうも数名の兵士がこの先は立ち入り禁止だと言っているみたいだ。通行人には、森の方へ大きく迂回しろという指示をしている。聞こえてくる言葉の様子では、半日程度のロスになるみたいだ。
聞き始めたタイミングのせいか、どうもその立ち入り禁止の理由が分からない。
街道の先を見通しても、土砂崩れや川の氾濫などで通行不能になる地形のようには見えない。
――さて、どうしよう。
迂回するのは簡単だけど、時間のロスは面白くない。
道自体が通行可能でも、他の事情で立ち入り禁止なのだとしたら。例えばお偉い人が通過するとか、凶暴な魔獣が居座っているとかの理由なら、あたしにはあまり関係ない。目立たないように脇を通り抜ければ済む話だ。
――試しに、行ってみるか。
もしあたしでも通過できない状況でも、それから迂回する道もありそうな気がする。問題なければ、時間の無駄なく進むことができる。
――ノベルなんかならこういうの、『フラグ』っていうのかもしんないけどね。
まあそれはそれで、面白いかもしれない。時間の無駄はしたくないけど、面白いものなら見てみたいという興味も惹かれる。
何しろこちとら、凶暴な魔獣相手でも破壊されない、食われたりしない、というある程度の自信が持てるんだから。そうでなくても、隠れて進むのは得意だし。
ということで、あたしは街道から少し離れた草の中を先に進んだ。
陽が落ちて、進むにつれて辺りは暗くなっていく。
しばらく進むと小さな集落らしいものが見えてきて、家並みの中央付近に火が焚かれているようだ。
この村らしきところを抜けないと街道の先へ進めないようなので、いつものように草の中に隠れながらその焚き火に近づくことになった。
ふつうならそれぞれの家で夕食をとり、間もなく就寝するという頃合いだけど、なかなかに賑わっている。ただし楽しそうな様子でなく、何処か緊迫したものが感じられる。何人かの大人が焚き火を囲み、難しい顔で話し合っているらしい。
「また増えた。もうすぐ村の者の半分ってことになるか」
「今日だけで十人増えたんだぞ。もうどうしようもねえ。明日には村を捨てて移動しよう」
「おい、うちの女房は見捨てられるんか」
「仕方ねえ。これ以上呪いが広がったら、全滅だ」
「何とかなんねえのかよお……」
話し合っている十人ほどの男たちの目が、ちらちらと奥の一軒家に向いては戻るをくり返しているようだ。
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