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65 脱出した 1
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『それと、砂糖と塩はあるか』
『ああ、ある。砂糖は貴重なんで、あまり量はないが』
『食事を受けつけないほど衰弱した者には、砂糖と塩を溶かした水だけでも飲ませろ。ほんのかすかな塩味と、わずかな甘みを感じる程度の濃さで溶かす』
『おう』
『ああそれと、村の井戸は病気の素で汚染されているから、当分使うな。小川の水は大丈夫だから、一度沸かして使うといい』
『分かった』
『まだ病気になっていない者も、食事は十分火を通したものでとるように気をつけろ』
『分かった』
そんなふうに、口座で覚えてきた知識を口頭で伝えていく。
何度も同じことをくり返し、相手が十分理解して覚えるまでに、かなり時間を要した。
ここでもメモをとるなんてできないんだから、とにかくこの男の記憶力に頼るしかない。
まあ家族や仲間の生命が懸かっているんだ、必死になってくれるだろう――と、信じることにする。
『では、失礼する』
『お、おう――ありがとう』
夢の中から出ると、かなり夜は深まっていた。
間もなく充電は終了する。
村の方を見ると、見張り番を交代しているところだ。
それからしばらく様子を見、いつものように0時を待って動き出した。
その後の経緯を見たい気もなくはないけど、あとは本人たちに任せるしかない。昼間口出しをすることはできないんだから、ただ見ていてもたいして意味はないんだ。
それよりも、先を急ぎたい。ここで一日なり足を止めてしまったら、立ち入り禁止を無視して突っ切ってきた意味がないじゃないか。
エトヴィンの話では、キュンツェル伯爵領に入ってから王都まで、徒歩で十日かからないらしい。もう二日経過したから、あと七~八日といったところかなと思う。
一応慰め程度かもしれないけど、村を出る辺りで川に潜って全身を洗い、火魔法で熱消毒を行った。感染地区を抜けていくことになるわけで、他所にウィルスを運んでしまっては申し訳ないからね。
――あとは一路、北へ。
街道の先には、こちらも立ち入り禁止を示しているらしく、封鎖の形で柵が設えられていた。横に兵士らしい人が二人立っている。
前日通過してきた南側のものより、厳重に見える。
たぶん、この先は領都など大きな町に続いている。領の方針としては、いっそう出入りに気を払いたいんだろう。
ここでもやっぱり、あたしは脇の草叢を潜って通り抜けた。
道には、この前までより人通りが少なくなったようだ。あの村に立ち入り禁止という情報で、こちら向きの通行者も減っているのかもしれない。
というわけであたしは、堂々と街道を進む。いくつか脇道にも遭遇したけど、このまま本道を進めばいい、と信じて直進することにする。
この日の午後からは天気が崩れ、かなり強い雨が降り出した。
とは言え、あたしにはほとんど障害にならない。キャタピラが噛むことのできない泥地に入りでもしたら別だけど、本街道でそういう心配もなさそうだ。
むしろますます人通りが減るので、安心して堂々進むことができる感覚だ。視界が悪くなるので何かとの接近遭遇への注意の必要は増すけれど、相手からもこんな小さな走行物が見つけにくいというのは同じだろうからね。
かなりの道のりを進んで、夜が更けたところで森に入り、充電態勢。降り続く雨に濡れても支障はないんだけど、何となくの気分で木陰の雨落ちが少ない場所を選んだ。
まあ天気は悪くても、充電効率に変わりがないみたいなのは、助かる。
一晩中、雨は降り続いた。
また真夜中に走り出しても、変わらず降り続く。
バシャバシャぐしょぐしょと、水音立てて進み続けるしかない。
朝陽が昇る頃、少し雨脚も弱まってきたか。
たまたま高所で見晴らしのいい岩場に差しかかり、少し登って見渡してみると。広大な緑地や林などの渾然とした眺望に、あちこち雲が雨糸で濃淡を塗り分けながらゆっくり移動しているようだ。
つまり、降りの強弱は先に進んでもずっとくり返し続くらしい。
それでも何となくその場で、墨絵か浮世絵かといったものの連想される風景に、しばし見入ってしまう。
――いや、西洋風世界に、墨絵も浮世絵も似合わないだろうってのは分かってるけどさ。
そうとは言え何となくそんなものを連想してしまうのは、身体に流れる血(?)からの必然ってやつじゃないのか。
『ああ、ある。砂糖は貴重なんで、あまり量はないが』
『食事を受けつけないほど衰弱した者には、砂糖と塩を溶かした水だけでも飲ませろ。ほんのかすかな塩味と、わずかな甘みを感じる程度の濃さで溶かす』
『おう』
『ああそれと、村の井戸は病気の素で汚染されているから、当分使うな。小川の水は大丈夫だから、一度沸かして使うといい』
『分かった』
『まだ病気になっていない者も、食事は十分火を通したものでとるように気をつけろ』
『分かった』
そんなふうに、口座で覚えてきた知識を口頭で伝えていく。
何度も同じことをくり返し、相手が十分理解して覚えるまでに、かなり時間を要した。
ここでもメモをとるなんてできないんだから、とにかくこの男の記憶力に頼るしかない。
まあ家族や仲間の生命が懸かっているんだ、必死になってくれるだろう――と、信じることにする。
『では、失礼する』
『お、おう――ありがとう』
夢の中から出ると、かなり夜は深まっていた。
間もなく充電は終了する。
村の方を見ると、見張り番を交代しているところだ。
それからしばらく様子を見、いつものように0時を待って動き出した。
その後の経緯を見たい気もなくはないけど、あとは本人たちに任せるしかない。昼間口出しをすることはできないんだから、ただ見ていてもたいして意味はないんだ。
それよりも、先を急ぎたい。ここで一日なり足を止めてしまったら、立ち入り禁止を無視して突っ切ってきた意味がないじゃないか。
エトヴィンの話では、キュンツェル伯爵領に入ってから王都まで、徒歩で十日かからないらしい。もう二日経過したから、あと七~八日といったところかなと思う。
一応慰め程度かもしれないけど、村を出る辺りで川に潜って全身を洗い、火魔法で熱消毒を行った。感染地区を抜けていくことになるわけで、他所にウィルスを運んでしまっては申し訳ないからね。
――あとは一路、北へ。
街道の先には、こちらも立ち入り禁止を示しているらしく、封鎖の形で柵が設えられていた。横に兵士らしい人が二人立っている。
前日通過してきた南側のものより、厳重に見える。
たぶん、この先は領都など大きな町に続いている。領の方針としては、いっそう出入りに気を払いたいんだろう。
ここでもやっぱり、あたしは脇の草叢を潜って通り抜けた。
道には、この前までより人通りが少なくなったようだ。あの村に立ち入り禁止という情報で、こちら向きの通行者も減っているのかもしれない。
というわけであたしは、堂々と街道を進む。いくつか脇道にも遭遇したけど、このまま本道を進めばいい、と信じて直進することにする。
この日の午後からは天気が崩れ、かなり強い雨が降り出した。
とは言え、あたしにはほとんど障害にならない。キャタピラが噛むことのできない泥地に入りでもしたら別だけど、本街道でそういう心配もなさそうだ。
むしろますます人通りが減るので、安心して堂々進むことができる感覚だ。視界が悪くなるので何かとの接近遭遇への注意の必要は増すけれど、相手からもこんな小さな走行物が見つけにくいというのは同じだろうからね。
かなりの道のりを進んで、夜が更けたところで森に入り、充電態勢。降り続く雨に濡れても支障はないんだけど、何となくの気分で木陰の雨落ちが少ない場所を選んだ。
まあ天気は悪くても、充電効率に変わりがないみたいなのは、助かる。
一晩中、雨は降り続いた。
また真夜中に走り出しても、変わらず降り続く。
バシャバシャぐしょぐしょと、水音立てて進み続けるしかない。
朝陽が昇る頃、少し雨脚も弱まってきたか。
たまたま高所で見晴らしのいい岩場に差しかかり、少し登って見渡してみると。広大な緑地や林などの渾然とした眺望に、あちこち雲が雨糸で濃淡を塗り分けながらゆっくり移動しているようだ。
つまり、降りの強弱は先に進んでもずっとくり返し続くらしい。
それでも何となくその場で、墨絵か浮世絵かといったものの連想される風景に、しばし見入ってしまう。
――いや、西洋風世界に、墨絵も浮世絵も似合わないだろうってのは分かってるけどさ。
そうとは言え何となくそんなものを連想してしまうのは、身体に流れる血(?)からの必然ってやつじゃないのか。
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