チョーゴーキン! ――車両模型に転生したアラサー女子、異世界の街道をひた走る

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 雨はほぼ止みかかっている。
 けれど道横の草叢は濡れそぼっていて、かき分け進むと一面水滴が飛び散り、まるで水中を泳いでいるような景色だ。
 見晴らしも悪いし音もよく聞こえなくなるけど、とにかく草をかき分け森を目指す。
 木立の並ぶ根元に潜り込むと、頭上は暗く覆われた。上空の枝葉に溜まっていたらしい雨水が滴り落ちて、むしろほとんど雨止みの森の外と裏腹に、豪雨に巻き込まれたかのようだ。
 しかしそれもそのうち弱まるだろう、と濡れそぼった地面を踏みしめ奥へと進む。
 わずかに木立が途切れ、数十メートル四方ほどの草地に出た。
 ここまで入ればどうだろう、と耳を澄ます。間隔を置いて響く雷鳴は、まだかなり遠いようだ。こちらに近づくことはないのだろうか。
 やや安堵、していると。違う方向から物音が聞こえていた。何か、喧噪とでも呼べそうな。それが、近づいているような。
 わーー、わーー、というような人声。複数人だろうか。
 それが近づく。その同じ方向から、いきなり咆哮がいきり上がった。

 グワアアアアーーーー!

 明らかに、動物の声だ。おそらく、かなり大きい。
 様子を見るか、と少し横へ進路を逸れ、木の間に入る。
 待つほどもなく。

「うわーーー!」
「急げ、追いつかれる!」

 血まみれの男が二人、密集した木の間から駆け出してきた。
 何処となくカルステンたちのような、護衛とか兵士とかっぽい服装で、それぞれ抜いた剣を手にしている。
 何だろう、と思い巡らす暇もなかった。
 その後方の大木が、バリリ、となぎ倒され。
 ぐわ、と大きなトカゲのような頭部が現れた。
 高さ、二メートルほどか。とは言えそれは、四つ足で這い進む姿勢での体高だ。体長にしたら、十メートルにも及ぶかもしれない。
 全身鱗に覆われた、明らかに爬虫類の類いと思われる外観。見かけと裏腹に四つ足を高速で動かし、地を駆ける様相だ。
 それが空き地に出た途端さらに前進速度を増し、人間を一呑みにできそうな大口を開いて先行の二人に襲いかかる。

「うわーーー!」
「来るな!」

 逃げられない、と観念してか。一人が相棒を庇う姿勢で振り返り、手にしていた剣を投げつけた。
 剣先が大トカゲの鼻面はなつらに命中。しかし傷を負わすこともできず、虚しく草の上に落ちていく。
 グワア、と開いた大口が二人に迫る。覗いた多数の鋭い歯牙は、一瞬で人間を噛み砕きそうだ。

――やべ!

 考える余裕もなく、あたしはその横へ走り出していた。
 数メートル距離まで駆け寄り、レーザー砲を突き出す。
 狙い過たず、水鉄砲は大トカゲの右目を射貫いていた。

――いや、「射貫いた」なんて、格好つけすぎ。

 単に推定『高圧洗浄機』相当威力の水流が、目玉に当たった、それだけだ。おそらく、傷をつけてもいない。
 それでもそのデカブツに、多少の刺激は与えたみたいだ。
 足を止めて何度か目をしばたき、どでかい頭部がこちらに向けられた。
 しかし低いながらも草の中、地面の保護色に近い小さな箱型、すぐには認識できないだろう。
 視線が彷徨さまよい流れる間に、草の中を全速力、大トカゲの灰色の後ろ足に近づく。

――ここまでする義理はないんだろうけどさ、目の前で人が食われるのを見たくもないからね。

 太さ一メートル近くはありそうな後肢に接近。
 風魔法を、一閃。
 風刃ふうじん
 斬る!
 斬る!
 斬る!
 ――――。
 切れない。
 傷一つ、つかない。

――うん、分かってた。

 以前挑んだ熊魔獣に比べても遥かに大型、表皮の鱗は硬そうだ。
 こちらの覚えたてのショボ魔法など、到底通用しそうにない。
 しかしとりあえず、最低限の目的は果たせたようだ。
 こんなデカブツにも、蚊に刺された程度かそこらの刺激は与えられたか。
 すっかり前進は止まり、大きな頭部が振り返って、後足近くを探り見回している。

――今のうちに逃げろ!

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