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「これまでの成り行きを思いますと今後もどのような事態が起きるか楽観はできないのですが、とにかく薬の完成だけは死守するべく進めています」
「うん。それなんだけどね、エトヴィン」
「はい」
「今まで僕の心情を考慮して詳しく説明していない部分があると思うんだけど、この際すべて教えてくれないかな。もうここまで来たら、薬が完成して服用すれば僕は全治する、それができなければ数日中に死亡する、ということなんだよね。もう気持ちを配慮してもらっても仕方ない、どちらに転んだとしてもできるだけ事情は知っておきたい、と思うんだ」
「ああ……」
難しい顔で、エトヴィンは視線を落とした。
布の陰であたしがハンドを小さく上下すると、それを見て意思を固めたみたいだ。
「分かりました。ご説明します」
「頼む」
頷いて、エトヴィンは話し始めた。
黒夢病は、原因や発症経過など詳しいことは分かっていないが、最終発作の症状と治療に有効な薬は知られている。
白夢草の葉数枚とふつうにある魔素回復薬とで一人分の飲み薬を作ることができ、その一服で完治する。
比較的強力な魔法を使う人間が発症することが多く、治療薬が間に合わなければ最終的に体内に蓄積した魔素が異常に膨れ上がり、爆発的な魔法を発現して自らと周囲を破壊することになる。
そうした本人なら耐えられないだろう非情な説明を、王子は無表情で頷きながら聞いている。
「うん、僕が図書室で調べたことと想像していたことで、まず相違はないね」
「そうですか」
「それで、発症原因は分かっていないと言うけど、たぶん引き金になるのは、王宮の庭にある黒い花を咲かせる草だと思う」
「それは、確かですか?」
「うん。二年前に僕が庭でその花の花粉を吸い込んだことがあって、その頃から具合が悪くなってきたんで疑っていたんだけどね。最近植物図鑑で白夢草の絵を見て、それと花の形が似ているので、何か関連があるんだと思う」
「それが事実なら、たいへんな発見です。殿下の治癒を確かめた後、調べてみたいと思います」
「うん、そうして。それから、今回薬草を手に入れるまでにたいへんな苦労があったらしいね。そこも詳しく教えてほしいな」
「はあ……はい」
少し躊躇の後、エトヴィンは命に従った。
ほとんどは、あたしが以前に聞いたことだ。
ラングハンス伯爵領から護衛四名を連れて中ツ森に入り、森の浅い場所で白夢草を見つけることができて採取した。しかしそれを持ち帰ろうと森を出たところで予想外の大雨に襲われて、薬草が台無しになった。
森に戻り再度同じ場所で薬草を採取したが、帰る途中で黒毛狼の群れに襲われ、荷物はズタズタにされ薬草は使い物にならず、二名の護衛が傷を負って戦えなくなった。
二名を町に戻し、残った二名とともに三たび森へ入って奥地にあるはずの群生地を目指した。その途中で大王熊に遭遇し窮地に陥ったが、天からこの焦茶色の物体(あたしのことだ)が落下してきて魔獣を殺害し、難を逃れた。
この物体(あたし)を携行して黒毛狼の襲来を撃退しながら奥へ進み、白夢草の群生地を見つけた。その葉を三人で十枚の束二つずつ採取し、懐と背負い袋に分けて持ち帰ることにした。
途中で暴風鷲に襲われ、荷物とともに薬草二束を奪われた。
森を出て、ヘルビヒはミーマで一人先行させ、二人は護衛を追加して王都へ向け旅立った。
その後。
ヘルビヒは街道途中で盗賊に襲われて負傷、持っていた薬草二束も失われた。
侯爵領の領都でカルステンの荷物が掏摸に奪われ、薬草一束を失った。
残り一束を二人で五枚ずつ所持して王都へ急いだが、黒毛狼の群れに襲われ応戦中、エトヴィンが護衛に川に突き落とされ、薬草を使用不能にされた。
残り五枚を所持して急ぎ王宮に入ったが、その薬草が失われていた。王都で掏摸に遭ったと思われる。
その後キュンツェル伯爵領で薬草入手の当てがあると情報が入り、カルステンが急行して五枚持ち帰ることができた。この経緯は絶対秘匿の条件で、詳しく話すことはできない。
決して他に知られぬよう極秘行動を心がけたのだが、それでもカルステンは王都に入って掏摸に遭遇し、王宮に入ったところで職員から火魔法攻撃を受け、どちらも辛うじて難を逃れた。
「その五枚を用いてようやく、加工に入ることができたわけです」
「うん。それなんだけどね、エトヴィン」
「はい」
「今まで僕の心情を考慮して詳しく説明していない部分があると思うんだけど、この際すべて教えてくれないかな。もうここまで来たら、薬が完成して服用すれば僕は全治する、それができなければ数日中に死亡する、ということなんだよね。もう気持ちを配慮してもらっても仕方ない、どちらに転んだとしてもできるだけ事情は知っておきたい、と思うんだ」
「ああ……」
難しい顔で、エトヴィンは視線を落とした。
布の陰であたしがハンドを小さく上下すると、それを見て意思を固めたみたいだ。
「分かりました。ご説明します」
「頼む」
頷いて、エトヴィンは話し始めた。
黒夢病は、原因や発症経過など詳しいことは分かっていないが、最終発作の症状と治療に有効な薬は知られている。
白夢草の葉数枚とふつうにある魔素回復薬とで一人分の飲み薬を作ることができ、その一服で完治する。
比較的強力な魔法を使う人間が発症することが多く、治療薬が間に合わなければ最終的に体内に蓄積した魔素が異常に膨れ上がり、爆発的な魔法を発現して自らと周囲を破壊することになる。
そうした本人なら耐えられないだろう非情な説明を、王子は無表情で頷きながら聞いている。
「うん、僕が図書室で調べたことと想像していたことで、まず相違はないね」
「そうですか」
「それで、発症原因は分かっていないと言うけど、たぶん引き金になるのは、王宮の庭にある黒い花を咲かせる草だと思う」
「それは、確かですか?」
「うん。二年前に僕が庭でその花の花粉を吸い込んだことがあって、その頃から具合が悪くなってきたんで疑っていたんだけどね。最近植物図鑑で白夢草の絵を見て、それと花の形が似ているので、何か関連があるんだと思う」
「それが事実なら、たいへんな発見です。殿下の治癒を確かめた後、調べてみたいと思います」
「うん、そうして。それから、今回薬草を手に入れるまでにたいへんな苦労があったらしいね。そこも詳しく教えてほしいな」
「はあ……はい」
少し躊躇の後、エトヴィンは命に従った。
ほとんどは、あたしが以前に聞いたことだ。
ラングハンス伯爵領から護衛四名を連れて中ツ森に入り、森の浅い場所で白夢草を見つけることができて採取した。しかしそれを持ち帰ろうと森を出たところで予想外の大雨に襲われて、薬草が台無しになった。
森に戻り再度同じ場所で薬草を採取したが、帰る途中で黒毛狼の群れに襲われ、荷物はズタズタにされ薬草は使い物にならず、二名の護衛が傷を負って戦えなくなった。
二名を町に戻し、残った二名とともに三たび森へ入って奥地にあるはずの群生地を目指した。その途中で大王熊に遭遇し窮地に陥ったが、天からこの焦茶色の物体(あたしのことだ)が落下してきて魔獣を殺害し、難を逃れた。
この物体(あたし)を携行して黒毛狼の襲来を撃退しながら奥へ進み、白夢草の群生地を見つけた。その葉を三人で十枚の束二つずつ採取し、懐と背負い袋に分けて持ち帰ることにした。
途中で暴風鷲に襲われ、荷物とともに薬草二束を奪われた。
森を出て、ヘルビヒはミーマで一人先行させ、二人は護衛を追加して王都へ向け旅立った。
その後。
ヘルビヒは街道途中で盗賊に襲われて負傷、持っていた薬草二束も失われた。
侯爵領の領都でカルステンの荷物が掏摸に奪われ、薬草一束を失った。
残り一束を二人で五枚ずつ所持して王都へ急いだが、黒毛狼の群れに襲われ応戦中、エトヴィンが護衛に川に突き落とされ、薬草を使用不能にされた。
残り五枚を所持して急ぎ王宮に入ったが、その薬草が失われていた。王都で掏摸に遭ったと思われる。
その後キュンツェル伯爵領で薬草入手の当てがあると情報が入り、カルステンが急行して五枚持ち帰ることができた。この経緯は絶対秘匿の条件で、詳しく話すことはできない。
決して他に知られぬよう極秘行動を心がけたのだが、それでもカルステンは王都に入って掏摸に遭遇し、王宮に入ったところで職員から火魔法攻撃を受け、どちらも辛うじて難を逃れた。
「その五枚を用いてようやく、加工に入ることができたわけです」
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