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106 吃驚《きっきょう》した 2
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『そこまでしか、私の記憶がありません。おそらくそこで気を失って、寝床に運ばれたものと思われます』
『なるほど。あまりの衝撃に、というわけか。昨夜、ほとんど眠っていないのだろう?』
『は――恥ずかしながら――いやしかし、何でこんなことが――いやそれよりも、どうしたら――』
『落ち着いて。原因よりも今はとにかく、善後策だろう。王子殿下を治療するすべは、これで完全に失われたことになるのか』
『ええ、ええ――考えろ、思い出せ、私。あのとき、何が何処に――』
いつものように不明瞭な映像ながら、頭を抱えた科学者が必死に考えているらしいことが分かる。
悲惨な事態が起こったそのとき、何が何処に置かれていたか、何が失われ何が残ったか、思い出そうとしているらしい。
『おそらく、薬草を漬けていた魔素回復薬は、無事だ――』
『それで、治療に使えるのだろうか』
『本来の治療薬精製は、回復薬に十分漬けた薬草を一旦取り出し磨り潰して漉したものを、再び回復薬に溶かすという手順になります。その取り出した薬草が失われたわけですが、漬けていた回復薬が残っていれば、ある程度薬効はあるかもしれません』
『どの程度効き目があるかは――まあやってみなければ分からない、か』
『そうですね。これまでに試した例もないでしょうし』
『それでも、多少は期待が持てる、と』
『全快は無理でも、決定的な発作を先延ばしにする程度は見込めるかもしれません。その間に、再度薬草採取に挑める可能性も出てきます』
『なるほど』
『意識を失う前に、残された器具等は絶対保全するように指示したので、回復薬は無事である期待が持てます。とにかくも早く意識を取り戻して、続きの処理にかからないと』
『まあ、無理はしないで。エトヴィンさんが体調万全にしてしっかり判断できないと、できることもできなくなる羽目になりかねないんだろう』
『それは……そうかもしれません』
『まずは身体を休めて、体調を戻すことだ』
『はい……』
大きく息を吐き。
額を擦る仕草で、エトヴィンはくり返し『それにしても、何であいつが――』と呟いている。
ずっと傍に置いていた助手がしでかした行為に、何度振り返っても納得いかないということのようだ。
『その助手は、いきなり態度を豹変させたということになるんだろうか』
『そうです。作業開始の時点では何ら変わった様子はなかったのに、薬液から取り出した薬草を引ったくっていきなり火を点けたというわけです』
『人間一人が、まったく理解の及ばない行動を起こしたことになるのか。その意味では先日の掏摸とも、川に突き落としてきた護衛とも、似たようなものを感じるか』
『そうですね。今回の助手もあの掏摸と同様に身寄りなどがいませんので、人質をとって脅迫されたなどということも考えにくいのです。しかしどちらも、自分の考えでこのような行動に出たということはますます考えにくい。王子殿下の回復を阻止したい勢力から、買収や脅迫を受けたとしか思えません』
護衛は別にして、掏摸と助手に関しては最後に焼身自殺を図るところまで計画されていたとしか思えない。
そこまでの脅迫といえば、本人がこの後生きていけなくなるほどのネタか、大切な人の今後を保障するものか、といったところに限られそうだ。
あるいは――こんな、魔法のある世界なんだから――。
『ある人間を否応なく従わせるような、洗脳や呪いのようなものはないのだろうか』
『実際に接したとか話に聞いたこともありませんが。広い世界の中では、まったくないとも言い切れませんね』
『しかしとにかく、魔法の研究者であるエトヴィンさんが見聞きしたことはない、と』
『そういうことです』
本来はこの辺りの解明より優先される考察があるんだろうけど。
しかしここの解明をしっかりしないと、今後何をやっても妨害されてしまうという危惧が残る。
とは言え、ここで話し合うだけで明らかになる事柄でもなさそうだ。
『なるほど。あまりの衝撃に、というわけか。昨夜、ほとんど眠っていないのだろう?』
『は――恥ずかしながら――いやしかし、何でこんなことが――いやそれよりも、どうしたら――』
『落ち着いて。原因よりも今はとにかく、善後策だろう。王子殿下を治療するすべは、これで完全に失われたことになるのか』
『ええ、ええ――考えろ、思い出せ、私。あのとき、何が何処に――』
いつものように不明瞭な映像ながら、頭を抱えた科学者が必死に考えているらしいことが分かる。
悲惨な事態が起こったそのとき、何が何処に置かれていたか、何が失われ何が残ったか、思い出そうとしているらしい。
『おそらく、薬草を漬けていた魔素回復薬は、無事だ――』
『それで、治療に使えるのだろうか』
『本来の治療薬精製は、回復薬に十分漬けた薬草を一旦取り出し磨り潰して漉したものを、再び回復薬に溶かすという手順になります。その取り出した薬草が失われたわけですが、漬けていた回復薬が残っていれば、ある程度薬効はあるかもしれません』
『どの程度効き目があるかは――まあやってみなければ分からない、か』
『そうですね。これまでに試した例もないでしょうし』
『それでも、多少は期待が持てる、と』
『全快は無理でも、決定的な発作を先延ばしにする程度は見込めるかもしれません。その間に、再度薬草採取に挑める可能性も出てきます』
『なるほど』
『意識を失う前に、残された器具等は絶対保全するように指示したので、回復薬は無事である期待が持てます。とにかくも早く意識を取り戻して、続きの処理にかからないと』
『まあ、無理はしないで。エトヴィンさんが体調万全にしてしっかり判断できないと、できることもできなくなる羽目になりかねないんだろう』
『それは……そうかもしれません』
『まずは身体を休めて、体調を戻すことだ』
『はい……』
大きく息を吐き。
額を擦る仕草で、エトヴィンはくり返し『それにしても、何であいつが――』と呟いている。
ずっと傍に置いていた助手がしでかした行為に、何度振り返っても納得いかないということのようだ。
『その助手は、いきなり態度を豹変させたということになるんだろうか』
『そうです。作業開始の時点では何ら変わった様子はなかったのに、薬液から取り出した薬草を引ったくっていきなり火を点けたというわけです』
『人間一人が、まったく理解の及ばない行動を起こしたことになるのか。その意味では先日の掏摸とも、川に突き落としてきた護衛とも、似たようなものを感じるか』
『そうですね。今回の助手もあの掏摸と同様に身寄りなどがいませんので、人質をとって脅迫されたなどということも考えにくいのです。しかしどちらも、自分の考えでこのような行動に出たということはますます考えにくい。王子殿下の回復を阻止したい勢力から、買収や脅迫を受けたとしか思えません』
護衛は別にして、掏摸と助手に関しては最後に焼身自殺を図るところまで計画されていたとしか思えない。
そこまでの脅迫といえば、本人がこの後生きていけなくなるほどのネタか、大切な人の今後を保障するものか、といったところに限られそうだ。
あるいは――こんな、魔法のある世界なんだから――。
『ある人間を否応なく従わせるような、洗脳や呪いのようなものはないのだろうか』
『実際に接したとか話に聞いたこともありませんが。広い世界の中では、まったくないとも言い切れませんね』
『しかしとにかく、魔法の研究者であるエトヴィンさんが見聞きしたことはない、と』
『そういうことです』
本来はこの辺りの解明より優先される考察があるんだろうけど。
しかしここの解明をしっかりしないと、今後何をやっても妨害されてしまうという危惧が残る。
とは言え、ここで話し合うだけで明らかになる事柄でもなさそうだ。
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