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120 披瀝した 2
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『でももうこっちサイドとしては、この仮定に縋るしかないと思うよ。相手があたしの存在には気がついていないという前提で、今後の策を練るしか』
『そう――なりそうだね』
『そのクライマックスになると思われる隣国王女との会見の場も、あたしが潜んでいれば花粉を浴びせられるのを阻止できるんじゃないか』
『うーん』
『それと――あ、誰か来たね』
廊下側の戸口にノックの音がして、オーラフが出ていく気配があった。
侍女が長椅子によってきてかけていた布を除け、王子は身を起こし座り直す。
そこへ側仕えに導かれて、エトヴィンとカルステンが入ってきた。
伯爵家三男は、王子に近づくかなり前で足を止める。
「殿下、失礼いたします」
「うん」
「真に、申し訳ありません」
ほとんど腰が直角に曲がるほどに、エトヴィンは頭を下げていた。
斜め後ろで、護衛もそれに倣っている。
長椅子の横に立ったオーラフだけが、ぽかんと驚いた表情になった。
「調薬に失敗したということだね」
「はい。真に不本意ながら」
王子がすでに情報を得ているというのは秘密なので、側仕えたちに不思議がられないための意味もあり、エトヴィンは一切を逐一説明した。
服薬結果を期待を持って待っていたという国王にも、急遽面談を申し込んで説明したという。
この失敗を命をもって償えと申し渡されても仕方ない覚悟だったが、かなりの失望と怒りを堪えた様子で王はこの挽回を命じた。
薬草を入手するまでのエトヴィンたちの命がけの労苦がすでに伝わっていたことと、残った薬剤で全快は望めなくとも症状は抑えられる希望があるという報告に、望みを託したことになるようだ。
「残った回復薬の加工を進めているところですが、もう少しお待ちいただきたいと思います」
「うん」
「今回薬効を抽出した回復薬と、あと先日水に濡れて必要成分が激減したはずのいくつかの薬草も乾燥し直し、これを加えて少しでも効果を高められるように調整しています。おそらくもう数アーダ(時間)ほど漬け直せば、そこそこ薬効が得られると予想しております」
「そう。分かった」
そこまでの報告に続き、他の話もあるというエトヴィンに、王子は椅子にかけるよう促した。
恐縮しながら科学者は王子の対面に腰を下ろし、護衛は後ろに立つ。
それから一度席を立ち、エトヴィンは「失礼します」と王子の横に寄って、首筋に手を当てた。黒夢病による魔力の異常は、頸動脈付近が熱を持つかどうかで判断できるらしい。
そこに大きな変化はないということで、頷いて二人とも席に落ち着く。
オーラフが呼ばれて、あたしを机の上から長椅子前のテーブルに移動した。
その後王子の側仕えたちは、話の聞こえない部屋の隅まで下がる。これがいつもの習慣ということらしい。
「陛下に拝謁した折に宰相閣下や周辺のものから聞いたのですが、先日からの魔物の出没などに関して新しい情報が入っているようです」
「そうなの」
「それにまつわり、真に残念なお知らせをしなければなりません」
「何だろう」
「キュンツェル伯爵領の東部に地面龍が出現したという報告が入っており、こちらから調査の兵を派遣していたのですが、その報告が入りました。森の中で巨大な地面龍の死骸と、十数名に及ぶ近衛兵らしき遺体が発見されたと」
「そうなんだ」
「それが……たいへん残念ながら……遺体はほとんど原形を留めないものばかりで、顔なども判別できない状況なのですが……その中に、明らかに王太子殿下の戦闘服と思われる服装のものがあったと」
「……そう」
「陛下も、たいへん沈痛慷慨のご様子です」
「そうか」
「まだはっきりご遺体を検分した結果ではない、と皆でお慰めしているようですが、まず希望は持てないと思われます」
「そう。こっちの調薬失敗と、陛下には悪い報せが重なったわけだね」
「はい」
『そう――なりそうだね』
『そのクライマックスになると思われる隣国王女との会見の場も、あたしが潜んでいれば花粉を浴びせられるのを阻止できるんじゃないか』
『うーん』
『それと――あ、誰か来たね』
廊下側の戸口にノックの音がして、オーラフが出ていく気配があった。
侍女が長椅子によってきてかけていた布を除け、王子は身を起こし座り直す。
そこへ側仕えに導かれて、エトヴィンとカルステンが入ってきた。
伯爵家三男は、王子に近づくかなり前で足を止める。
「殿下、失礼いたします」
「うん」
「真に、申し訳ありません」
ほとんど腰が直角に曲がるほどに、エトヴィンは頭を下げていた。
斜め後ろで、護衛もそれに倣っている。
長椅子の横に立ったオーラフだけが、ぽかんと驚いた表情になった。
「調薬に失敗したということだね」
「はい。真に不本意ながら」
王子がすでに情報を得ているというのは秘密なので、側仕えたちに不思議がられないための意味もあり、エトヴィンは一切を逐一説明した。
服薬結果を期待を持って待っていたという国王にも、急遽面談を申し込んで説明したという。
この失敗を命をもって償えと申し渡されても仕方ない覚悟だったが、かなりの失望と怒りを堪えた様子で王はこの挽回を命じた。
薬草を入手するまでのエトヴィンたちの命がけの労苦がすでに伝わっていたことと、残った薬剤で全快は望めなくとも症状は抑えられる希望があるという報告に、望みを託したことになるようだ。
「残った回復薬の加工を進めているところですが、もう少しお待ちいただきたいと思います」
「うん」
「今回薬効を抽出した回復薬と、あと先日水に濡れて必要成分が激減したはずのいくつかの薬草も乾燥し直し、これを加えて少しでも効果を高められるように調整しています。おそらくもう数アーダ(時間)ほど漬け直せば、そこそこ薬効が得られると予想しております」
「そう。分かった」
そこまでの報告に続き、他の話もあるというエトヴィンに、王子は椅子にかけるよう促した。
恐縮しながら科学者は王子の対面に腰を下ろし、護衛は後ろに立つ。
それから一度席を立ち、エトヴィンは「失礼します」と王子の横に寄って、首筋に手を当てた。黒夢病による魔力の異常は、頸動脈付近が熱を持つかどうかで判断できるらしい。
そこに大きな変化はないということで、頷いて二人とも席に落ち着く。
オーラフが呼ばれて、あたしを机の上から長椅子前のテーブルに移動した。
その後王子の側仕えたちは、話の聞こえない部屋の隅まで下がる。これがいつもの習慣ということらしい。
「陛下に拝謁した折に宰相閣下や周辺のものから聞いたのですが、先日からの魔物の出没などに関して新しい情報が入っているようです」
「そうなの」
「それにまつわり、真に残念なお知らせをしなければなりません」
「何だろう」
「キュンツェル伯爵領の東部に地面龍が出現したという報告が入っており、こちらから調査の兵を派遣していたのですが、その報告が入りました。森の中で巨大な地面龍の死骸と、十数名に及ぶ近衛兵らしき遺体が発見されたと」
「そうなんだ」
「それが……たいへん残念ながら……遺体はほとんど原形を留めないものばかりで、顔なども判別できない状況なのですが……その中に、明らかに王太子殿下の戦闘服と思われる服装のものがあったと」
「……そう」
「陛下も、たいへん沈痛慷慨のご様子です」
「そうか」
「まだはっきりご遺体を検分した結果ではない、と皆でお慰めしているようですが、まず希望は持てないと思われます」
「そう。こっちの調薬失敗と、陛下には悪い報せが重なったわけだね」
「はい」
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