創成魔法の使い手の巫女は、対の存在に気が付きました

小さな気付き、転じる未来

1-12 悪意の行く先

　更に、馬車で1日程走った後──
ようやく目的地に着いたのか、リリシとアミルアは馬車から
下ろされた。
　足の紐だけ解かれた状態で、相変わらず手首に食い込む程
きつく手を紐で縛られている。
　馬車を操っていた男が、入れとそこそこ綺麗な小屋の中へと促す。
中では悲しそうな顔で数人の手を縛られた少女が座り込んでいた。
　年の頃、10～12歳程の少女達はリリシ達の方を見た。
絶望に濁った目は、貴女もなのね……と言っているような気がした。

「オークションの日までそこで居ろ！　飯は差し入れするからな」

　男は、言い残すとバタンと乱暴に小屋の戸を閉める。
外からガチャリと扉に錠がかけられる。その音が無情にも
響いた後、アミルアが顔を寄せて小声でささやいて来る。

「これだけは、言っておきますが──。リリシ、ここで魔法を
使ってはいけませんわよ。
もし使えば、最悪の事態が起きますから……」
「そうなの？」
「はい、教団に連れ戻されるよりも恐ろしい事が起きましてよ。
今は大人しくしておいて、何の力も持たぬ少女の振りをしておいて
くださいな」
「分かった」

　魔法の力が、役に立たないのは残念だがここはアミルアの忠告を
聞いておこうと。
しくしく、と泣き始めた周囲の少女達を勇気づけるようにアミルアが
声を掛けていた。
　この状況下でも、そのように振る舞えるアミルアは強いなぁ、と
リリシは感心する程その姿は頼もしく思えた。

　そして夜の食事を差し入れに来た男に、お風呂に入りたいと
主張するリリシだ。

「風呂なんてねえぞ。どうしてもと言うなら井戸水を被るぐらいだぜ」
「それでもいいから、この紐を解いて」
「てめえ、逃げ出す気だろ？駄目だ、駄目だ。水浴びは、オークションが
始まる直前に一回のみだ。それ以外は認めねえ」
「オークションって何ですの？」

　アミルアが後ろから問いかけると男は、にやっと笑って

「明後日開催、奴隷オークションだ。高値でお前らが売れれば
がっぽり手数料がこっちに入るって寸法よ。ゲヒヒヒ！
稼がせてくれよな！」

　やっぱり、と言う風にアミルアは黙り込んでしまった。
この国は、最近まで戦争をしていて現状では治安が決して良いとは言えない。
人身売買の組織がある事は知って居たがまさか
オークションまで開催されていたとは。
　
　オークション。参加者が、商品を競り合い、値段を付けその額が一番高い者が
最終的にそれを購入出来るシステムだ。
　上流階級が、道楽で行う貴金属や骨とう品の類のオークションとは違い
商品が、人間である事。
異常なオークションが、まかり通って居るのである。

　そして落札された商品をどう扱うかは、購入者の自由だ。
嫌な想像が、アミルアとリリシの頭の中で巡る。
　得体の知れない未知の恐怖と不安にリリシの体が震えていた。