【R18】若衆歌舞伎の花、檻に憧れる

ましゅまろ

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禁色の宴

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江戸の夜――
風が凪いだかのように静かなある晩、城下の一角で、ひそやかに扉が開かれた。

その屋敷は、表向きは武家の私邸だが、裏では「禁色の間(きんじきのま)」と呼ばれる特殊な夜会を開く場所として知られていた。
参加できるのは、身分と財力を持つ男のみ。
目的はただ一つ――若衆たちを観賞し、弄ぶ宴。

その晩、招かれた役者は三人。
だが、主賓として連れられてきたのは、たった一人。

千弥。

白銀の帯、薄紅の小袖、鬢を整え、白粉を引いた姿は、もはや「若衆」という言葉を超えていた。
そこにいたのは、男の妄執が創り上げた“美”そのものだった。

「……これは、見事なものだ」
「聞きしに勝る艶姿」

男たちが囁くたび、千弥は黙ってその声を受け流した。
心は冷えている。
しかし、身体には熱がある。

いや――
熱を灯されたのだ。あの夜に、あの男に。

部屋の奥、幕の裏。
そこには千弥を見つめる、あの眼があった。

松平正典。

「……目線を逸らすな」
その命令が聞こえた気がした。

千弥は視線を逸らさず、男たちの前で、袖をわずかに下げた。
白い肩が露わになる。
場の空気が、一瞬で張り詰めた。

一人の客が言った。

「……あの子は、松平殿が手をつけたと聞いたが――いただいても?」

沈黙。

そして、座の空気が凍った。

正典が立ち上がったのだ。

「今、何と?」

「いや……戯言にございます」
その男はすぐさま顔を伏せた。
だが、もう遅かった。

正典は、ゆっくりと千弥の元へ歩を進めた。
全員が息をのむ中、彼は千弥の襟元に手をかけ――

ぐいと、引き寄せた。

「この者は、誰のものだ?」
正典は千弥に問うた。

「……御主様のものにございます」

「よろしい」

そう言って、正典はその場で千弥の頬に口づけを落とした。
誰もが見ている前で。
支配と誇示の証として。

ざわめきが広がる。

だが、それ以上に強かったのは――
誰も、この男から千弥を奪えないという、圧倒的な理解だった。

正典は、千弥の耳元にだけ聞こえる声で囁いた。

「今夜、お前は“私の所有物”として、この場に立った。忘れるな――お前の価値は、お前の意志にはない。私が定める」

千弥は、静かに瞼を閉じた。

その言葉は、屈辱ではなかった。
恍惚でもなかった。
ただ、安心だった。

自分という存在が、誰かに“完全に支配されている”という事実。
それこそが、舞台の上では得られぬ真実だった。
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