【R18】若衆歌舞伎の花、檻に憧れる

ましゅまろ

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春まだ浅い大坂。
松平正典は大坂町奉行としての任を受け、南御堂裏の広大な邸宅に移り住んだ。

町奉行という立場は重く、公の顔は常に引き締められていたが――
その屋敷の奥、誰も近づくことを許されぬ離れに、ひとりの男が住んでいた。

千弥。

江戸で最も美しい若衆と謳われた彼は、今――
役者でもなければ、客に笑顔を向けることもない。

朝は正典の衣を畳み、
昼は静かに読書を許され、
夜は、御主様の命令が下るのを待つだけ。

檻。
それは鉄や木ではなく、愛と服従で編まれた檻だった。



ある晩、正典が離れに姿を見せた。

「紅を引け」

千弥は黙って鏡前に座り、
静かに白粉をのせ、紅を引いた。

江戸では舞台のために引いていた紅。
だが今は違う。
これは――“この男のために引く”紅。

正典は近づき、鏡越しに千弥を見つめる。

「……女にも、若衆にも見えぬ。
ただ、“私のもの”にしか見えん」

「……そう思っていただけることが、何よりの喜びにございます」

正典は千弥の顎をとり、口づけを落とした。
淡くついた紅が、互いの唇を染める。

「衣を脱げ。今日は躾け直す」

千弥は、ためらいなく襦袢を滑らせた。
肌に残る幾筋もの痕は、
痛みの記憶ではない――愛された証だった。

正典は組紐を取り出し、千弥の手首を背に縛った。
腕が縛られ、身体が反らされる。

「昨夜、“息を乱すな”と言ったな。覚えているか」

「……はい」

「だが、お前は鳴いた。
だから今夜は、“許可されるまで快楽を感じるな”」

「……承知いたしました」

息を潜めながらも、千弥の身体はわずかに震えていた。

その震えすら、正典は楽しむ。

指が喉を撫で、舌が肩を這い、奥へと侵入していく。
音が漏れないように必死で唇を噛む千弥に、正典が囁く。

「我慢は美徳ではない。お前に求めているのは、“私に悦ばされる自覚”だ」

「……ッ」

千弥の視界が霞む。

快楽と痛みが絡み合い、
身体の奥が満たされていく感覚に抗えなくなったその瞬間――

「……ッ、御主様……好きです……!」

ぽろりと漏れた一言に、正典の動きが止まった。

ふたりの間に、一瞬だけ沈黙が落ちる。

正典は、そっと千弥の頬に唇を寄せた。

「ならば、今夜だけは褒美をやる。
“抱かれる”のではなく、“愛される”という行為を――」

その夜、縛られたままの千弥を、
正典はそっと解き、膝に抱き寄せた。

抱きしめる腕には力があり、
口づけには、いつもと違う**“温もり”が宿っていた。**

「愛しているとは、言わぬ。
だが、お前を失う未来だけは、考えたくない」

「……それで十分です。御主様の檻の中にいられるなら、それで」



外の世界は遠い。
芝居も、町のざわめきも、もう耳に届かない。

けれど千弥にとって、
この場所こそが、最も“生きている”と実感できる舞台だった。
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