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檻ノ裂
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春海と別れた翌日、
千弥は庭先に座り、いつになく長く空を見上げていた。
空は晴れていた。
けれど心には、霞のようなものが立ち込めていた。
「……あの人に、見つかってはいけなかった」
囁くように口にしたその言葉は、
どこか芝居の台詞のようでもあった。
だが、それを聞き逃す者はここにはいない。
「――誰に、見つかった?」
その声に、千弥は息を呑んだ。
背後から、正典が静かに現れていた。
「……御主様。お帰りだったのですね」
「お前の声は、よく通る。
私がいない間、何があった?」
「……何も、ございません」
「嘘をつくな」
声が低くなる。
正典は千弥の腕を掴み、強く引き寄せた。
「目が揺れている。“檻の中の目”ではない。……“舞台に立つ目”だ」
千弥は目を逸らした。
「違います……私は……」
「お前は、舞台を“恋しがって”いる」
その一言に、千弥の身体がびくりと震えた。
「春海に会ったのか?」
「……はい」
「何を話した」
「……芝居の話です。
でも、私は断りました。
戻らないと、……戻れないと、言いました」
沈黙が落ちる。
正典の手が千弥の頬に触れた。
その指先は、優しく、しかし決して逃れられぬように支配的だった。
「お前が舞台を見てしまうのは、仕方がない。
だが――檻の中で舞台を夢見ることすら、私は許さぬ」
「……御主様……」
「今夜、再び“私のもの”として刻み直す」
その言葉とともに、正典は千弥を押し倒した。
帯が引き解かれ、襦袢が滑り落ちる。
「お前は、舞台に戻れぬように作られた身体だ。
声も、指も、肌も、私に抱かれるためだけのもの」
千弥の喉から、震える声が漏れる。
「……怖い……」
「怖がれ。だが逃げるな。
“檻”とは、“愛されすぎた者”の終着点だ」
正典は、激しさをもって千弥を貫いた。
愛撫ではなく、忠誠を思い出させるための抱擁だった。
千弥は涙を流しながら、受け入れた。
だが、その胸の奥に灯った火は、
まだ消えてはいなかった。
(ああ……御主様のものになりながらも、
なぜ……私はまだ、あの舞台の夢を見るのだろう)
それは、従属と自由の境界が、音もなく裂け始めた証だった。
千弥は庭先に座り、いつになく長く空を見上げていた。
空は晴れていた。
けれど心には、霞のようなものが立ち込めていた。
「……あの人に、見つかってはいけなかった」
囁くように口にしたその言葉は、
どこか芝居の台詞のようでもあった。
だが、それを聞き逃す者はここにはいない。
「――誰に、見つかった?」
その声に、千弥は息を呑んだ。
背後から、正典が静かに現れていた。
「……御主様。お帰りだったのですね」
「お前の声は、よく通る。
私がいない間、何があった?」
「……何も、ございません」
「嘘をつくな」
声が低くなる。
正典は千弥の腕を掴み、強く引き寄せた。
「目が揺れている。“檻の中の目”ではない。……“舞台に立つ目”だ」
千弥は目を逸らした。
「違います……私は……」
「お前は、舞台を“恋しがって”いる」
その一言に、千弥の身体がびくりと震えた。
「春海に会ったのか?」
「……はい」
「何を話した」
「……芝居の話です。
でも、私は断りました。
戻らないと、……戻れないと、言いました」
沈黙が落ちる。
正典の手が千弥の頬に触れた。
その指先は、優しく、しかし決して逃れられぬように支配的だった。
「お前が舞台を見てしまうのは、仕方がない。
だが――檻の中で舞台を夢見ることすら、私は許さぬ」
「……御主様……」
「今夜、再び“私のもの”として刻み直す」
その言葉とともに、正典は千弥を押し倒した。
帯が引き解かれ、襦袢が滑り落ちる。
「お前は、舞台に戻れぬように作られた身体だ。
声も、指も、肌も、私に抱かれるためだけのもの」
千弥の喉から、震える声が漏れる。
「……怖い……」
「怖がれ。だが逃げるな。
“檻”とは、“愛されすぎた者”の終着点だ」
正典は、激しさをもって千弥を貫いた。
愛撫ではなく、忠誠を思い出させるための抱擁だった。
千弥は涙を流しながら、受け入れた。
だが、その胸の奥に灯った火は、
まだ消えてはいなかった。
(ああ……御主様のものになりながらも、
なぜ……私はまだ、あの舞台の夢を見るのだろう)
それは、従属と自由の境界が、音もなく裂け始めた証だった。
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