消された絵師と残された少年

ましゅまろ

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追われる者から追う者へ

北町奉行の捜査網

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仮面の男――白面の政が、地下の蔵の入口に立っていた。
 白粉で塗り固められた能面、動かぬ口元。
 だが、その沈黙こそが、すべてを“消す”と告げているようだった。

 千尋は震える指で、写楽の絵を背中に隠し持つ。

「逃げては意味がない。ここで、この絵を――外へ出すんだ」

 真魚の声は低く、しかし迷いはなかった。

 白面が一歩、また一歩と近づいてくる。
 その手には、刃が光っていた。

 だがその瞬間、蔵の上階から怒号が響いた。

「奉行所の者だ! 全員動くな!」

 戸が破られ、複数の足音が一斉に雪崩れ込んできた。
 白面の政は顔を動かさぬまま、視線だけをわずかに揺らす。
 だが次の瞬間、すっと影のように後方の扉から姿を消した。

 千尋と真魚が振り返ると、そこには奉行所の役人たち――そして中央に、**北町奉行・鳥越直之(とりごえ なおゆき)**が立っていた。

「無事か。真魚、そして……君が“松庵の息子”だな」

 千尋がこくんと頷く。

 「すべて、玄斎殿の手紙で知らされた。彼は死の間際、我らに“絵を守れ”と残した。――その絵こそ、真実だと」

 真魚が一歩前に出る。

「写楽の“最後の絵”はここにあります。そして、それを“消そうとした者”も。紅屋の主・紅村仁蔵――すべての黒幕です」

 奉行・鳥越は頷き、静かに言った。

「紅屋はすでに目をつけていた。“絵師が消える”件が多すぎた。だが、証拠がなかった。……これが決定打となる」

 千尋は背中に抱えていた絵を差し出す。
 震える手で、丁寧に。

 「これは……父と、そして“消された絵師”たちの声です。燃やさないでください。歴史から……また消さないでください」

 鳥越はその絵を両手で受け取り、しばし見つめたのち、ゆっくりと口を開いた。

「約束しよう。この絵は、我らの“目”にする。そして“記録”に残す。消された者たちの筆が、今ようやく、江戸の光に照らされた」

 その瞬間、千尋の中で、何かが解けたように感じた。

 父の死は無駄ではなかった。
 写楽の絵も、玄斎の手記も。
 すべてが今、“未来”に向けて繋がった。
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