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追われる者から追う者へ
証拠を燃やす手
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夜の町を、ひときわ高い煙が上がっていた。
その出処は――紅屋の蔵。
「燃えてる……!」
千尋と真魚が駆けつけたとき、そこにはすでに奉行所の下役たちが集まり、火消しの手が入っていた。
だが、火の回りは異様に早く、放火であることは明らかだった。
「……写楽の写し、保管されていた絵、そして密録の一部も……」
役人の一人が、悔しそうに呟いた。
紅屋の主――紅村仁蔵はすでに姿を消しており、番頭の藤吉も、屋敷ごと煙の中に巻き込まれたらしい。
「証拠を……全部、燃やすつもりだったんだ」
千尋は歯を食いしばる。
ようやく守ったはずの“声”が、またしても炎に呑まれた。
だがそのとき、真魚が冷静な声で言った。
「まだ、終わってない。君の“目”が見たものは、誰にも燃やせない。……千尋。絵を、描くんだ」
千尋は振り返る。
「僕が、描く……?」
「そう。君が見た写楽の絵、玄斎の遺書、牢の刻印……それを、“絵に残す”んだ。これからの世に、“消された声”として」
炎の中で燃えていったのは、確かに紙だ。記録だ。証拠だ。
けれど――筆を持つ者が、それを“再び描く”限り、決して本当に消えることはない。
「……分かった。描く。全部、僕が描き直す。もう誰にも、父さんの絵を、写楽の想いを、燃やさせない」
千尋はその夜、奉行所の一角に筆を取り、はじめて**自分の意志で“記録する絵”**を描き始めた。
それは、証言ではなかった。
証拠ではなかった。
けれど、見る者すべての胸に、確かな“火”を灯す一枚の絵だった。
その出処は――紅屋の蔵。
「燃えてる……!」
千尋と真魚が駆けつけたとき、そこにはすでに奉行所の下役たちが集まり、火消しの手が入っていた。
だが、火の回りは異様に早く、放火であることは明らかだった。
「……写楽の写し、保管されていた絵、そして密録の一部も……」
役人の一人が、悔しそうに呟いた。
紅屋の主――紅村仁蔵はすでに姿を消しており、番頭の藤吉も、屋敷ごと煙の中に巻き込まれたらしい。
「証拠を……全部、燃やすつもりだったんだ」
千尋は歯を食いしばる。
ようやく守ったはずの“声”が、またしても炎に呑まれた。
だがそのとき、真魚が冷静な声で言った。
「まだ、終わってない。君の“目”が見たものは、誰にも燃やせない。……千尋。絵を、描くんだ」
千尋は振り返る。
「僕が、描く……?」
「そう。君が見た写楽の絵、玄斎の遺書、牢の刻印……それを、“絵に残す”んだ。これからの世に、“消された声”として」
炎の中で燃えていったのは、確かに紙だ。記録だ。証拠だ。
けれど――筆を持つ者が、それを“再び描く”限り、決して本当に消えることはない。
「……分かった。描く。全部、僕が描き直す。もう誰にも、父さんの絵を、写楽の想いを、燃やさせない」
千尋はその夜、奉行所の一角に筆を取り、はじめて**自分の意志で“記録する絵”**を描き始めた。
それは、証言ではなかった。
証拠ではなかった。
けれど、見る者すべての胸に、確かな“火”を灯す一枚の絵だった。
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